かみよもきかず外伝 いまはむかし

幕間 定例報告（3月第1週）

【定例報告

　監視対象甲は宮内庁図書課での業務に従事。勤務時間外に長官官房、警察庁関係者と数回接触した模様。甲が構想している宮内庁ないし警察庁内に対モノノケ専任部署を設立する計画に関係した会合と思われる。

　また、甲は1月第1週ぶりに木戸（きど）神仕（しんじ）の息子と接触。今後も継続して接触する可能性があるため、以後の報告では木戸神仕の息子を監視対象乙と呼称する。

　初回の接触で乙は甲に対して結婚相手を探す旨の相談をしていた模様。今回の会合で縁談の話をしていたため、八方家からの下賜は諦めたものと推測する。なお乙は父親と異なり霊力が少ないため四神家と八方家の脅威となる可能性は極めて低い。

　1月から継続して『きじま寿し』の利用頻度は週1回程度。乙以外の霊者との接触はなし。

　以上】

　キーボードを叩く手を止め、報告書を読み直す。

（報告すること、あんまりないな……）

　1月に群平（ぐんぺい）が五行家と接触したことがきっかけで群平の監視を命じられ、東京に来てからはや2ヶ月。

　特に変わったこともないため、こうやって毎週末に短い報告書を本家に送るしかない状態が続いている。

（前に五行家の人間と共謀してとんでもないことをしたって聞いてはいるけど、そんなに悪い人には見えないな）

　実際、群平は自分を可愛がってくれている。着るものにこだわりのない自分の代わりに洋服を買ってきてくれたし、忙しくて食事を作れないからと言って3食分の食費には明らかに多い金額を毎日渡してくれる。使い道がないから食材や調味料を買い揃えて余った分はタンスにしまっているが。

（こういうの3食昼寝付きって言うんだっけ。なんか、監視より家政婦が仕事みたいになってるし。というか、私に使うお金があるならそのお金で家政婦でも雇った方がいいと思うんだけどなぁ）

　誤字脱字がないことをチェックして報告書を送信すると、今度は日記がわりのファイルを開いた。

【3月8日　日曜日

　今日はお夕飯を作らないで、お寿司を食べに行った。ご飯の上にイカが丸ごと乗っているのには驚いたけれど、食べてみたらとても美味しかった。今日ははじめてだったからお店の人に選んでもらったけど、次は違うお寿司も食べてみたい。

　お寿司屋さんでキドオトヤという人に会った。名前を教えちゃいけないと言ったらネコというあだ名をつけられた。面白いけど、ちょっと変な人だと思った。外の人は自分で結婚相手を探さないといけないらしいから、大変そう。】

　こっちは報告書と違って毎日のことを記録するために書いている。東京に来てから色々なことに触れるため、自分で整理するために文字に起こしているのだ。

（今度オトヤさんに会ったら、東京でおすすめの場所でも聞こうかな）

　新しい出会いに心を躍らせながら、布団に潜る。

　明日の朝は味噌汁を作っておこう。飲み過ぎには味噌汁がいいらしいから、群平さんも喜んでくれるだろう。