第2話 仕事始め
1月4日。三が日を終えて多くの社会人がまた労働に向かう日。
駅まで車で30分、築地市場まで公共交通機関を乗り継いで約3時間。就業開始に間に合うためには、朝5時前には
車で行けばもう少しゆっくりできるが、屋敷に1台しかない車をよそ者が占有するわけにはいかない。
東京事務所での仕事は高知県産農作物を東京で販売することで、普通は高卒1年目の職員が任されることはない。
しかし、上司が父・
幸い乙弥に与えられた仕事は専門知識が必要となる仕事ではなかったが、周囲の職員は皆大学を卒業していたりキャリアを積んだ人ばかりであったため、乙弥はかなり居心地が悪かった。
(火村屋敷でも、ここでも、わしは歓迎されちょらん)
昨日
*******
仕事を終えた乙弥が向かった先は、奥多摩駅へ向かう最寄駅――ではなく、皇居外苑だった。
「皇居近く、『
昼休み中に父に教えられた「心強い助っ人」に連絡を取り、教えられた集合場所がその店だ。
ただ、地図など場所のわかるものが一切ないので、先程からずっと道沿いに並ぶ看板を注意深く見ながらグルグルと皇居の周りを歩き回っている。
帰宅ラッシュの人混みのなかを2、3周したあたりで大通りにはなさそうだと判断し、路地裏に入る。
人通りが少なくなってだいぶ歩きやすくなった。
そう思った瞬間、頭上から何かが降ってきた。
『ニクイ、ニクイイイイッ!』
それは黒いモヤのようであり、巨大な女の顔にも見えた。モヤは飢えた獣のように乙弥をめがけて一目散に襲いかかってくる。
(死人にしては気配が強い。となると、生き霊か?いずれにせよ、そう強いモノノケじゃなさそうだな)
モノノケ。「物の怪」と書き、幽霊や妖怪など人智を超えた存在を表す総称。
人を食らい、害を与えるモノノケを倒すのがお疲れ様弥たち
「人を待たせてるし、早めに終わらせるか。『来い!
そう叫んで、乙弥が首からさげた笛を力いっぱい吹くと、木彫りの笛が乾いた音を路地裏に響き渡らせる。
「なんじゃ、
残響が消えるやいなや、暗闇のなかから短髪の少年が現れた。
藍色の着流しに下駄という東京の街並みには少々不釣り合いな装いで、吊り上がった金色の瞳が暗闇のなかで
「あとでお寿司食べさせてあげるから、とりあえずアレの動きを止めてくれ」
「本当か!?そういうことならいくらでも戦ってやるわい!」
秋山が地面を蹴り上げ、勢いよく飛び上がる。
風を切りながら巨大なコウモリに変身すると、そのまま空中に浮いているモノノケに喰らいついた。
『ギャァアアァァアッ!!』
「うえっ、ぺっ、こりゃニンゲンの
秋山がモノノケと戦っている間に、乙弥は刃まで黒い短刀をカバンから取り出し、呪文のような口上を唱える。
「『祖より下りて
眩い光に包まれ、乙弥の格好が変化する。
青い
「『我が手に在るは
再び口上を唱えると、短刀が槍に変化した。
真っ青な槍の切先が、空中を飛び回るモノノケを捉える。
「『モノノケよ。在るべき場所、在るべき姿に
そのまま槍を振りかぶり、力いっぱい空中に向かって打ち出す。槍は一直線に飛んでいき、空中で秋山と交戦中のモノノケを貫いた。
『ア、アアアッ……!』
悲しそうな断末魔をあげて、黒い霧が霧散する。モノノケが消えた後には何も残らない。元は残留思念の集まり、さらに言えば
「あ、やばい!待ち合わせに遅れちゃう!行こう、秋山」
「全く、乙弥はしょうがないやつじゃのう」
秋山の姿が闇の中に消えると、乙弥は再び目的地を探しに小走りで路地裏へと駆けていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます