第11話1月6日『銭湯に行けなくなった』
「――サイ」
女の声。だが、ノイズが混じっていて判別ができない。ガビガビのイヤホンで音楽を聴いている感覚。
「なんですか」
「――私は神だ」
普通の人が聞いたら鼻で笑うようなセリフだが、俺は違う。これは俺が特別!みたいな中二属性のものではなく実際の話。
「ああ、天賦の人か」
「――人じゃない。神」
「名前は?」
名前を聞いて、目が覚めたらググる。
「○▼※△☆▲※◎★●」
鳥肌が立つ。
嫌な音だ。黒板を爪で引っ掻くような不快感。
「聞こえないんですが」
「○▼※△☆▲※◎★●」
気持ち悪い!気持ち悪い!気持ち悪い!気持ち悪い!
「うう…」
無理か。
「ホクサイ」
「なに?」
「手、だして?」
先ほどから視覚は機能していない。だが、手を出せと言われたら動かせるような――――。よくわからない感覚。イグニートに痛めつけられた方の手、右手を出した。
◇◆◇◆◇
俺を眠りから引き離したのは激しい痛みだった。
痛みの発信源はもちろん右手。
見るとそこには刻印が――――、
なくなっていた。
いや、なくなったのではない。正しくは見えなくなった。
視界に映ったのは漆黒の右腕。Tシャツを捲ると肘より少し上あたりまで黒が続いていることがわかる。
「は?」
こう言う時は有識者に相談するのが良い。
ということで隣のアパートに向かいセイコさんの部屋のインターホンを鳴らす。
ドアを開けたのはぽっぽ。
眠そうな顔をこちらに向けて首を傾げている。無理もない。現在5時。三時間くらいしか寝ていないだろう。
俺は家を出る前に冷凍庫から取り出したアイスをぽっぽに渡す。
すると眠そうな目を見開き「いらっしゃい」と俺を出迎えてくれた。
セイコさんは寝ている。馬鹿デカい鼾をかきながら。なんか申し訳ない。
「ぽっぽ、この腕どういうことだ?」
俺は力瘤を作るポーズで右腕を見せる。
ちなみに、痛みはもう引いている。
「まじか、ホクサイ」
「なんだ?やばいのか?」
「まぁ見た目はやばいよな。ホクサイ、夢でなんかやられたの?」
「名前は聞こえなかったけど神を名乗るやつに手を触られた。そしたら目が覚めてこうなってた」
「昨日つけられた印は『ロームルス団』に襲われた時に力を貸してもらえるもの」
「ロームルス団とは?」
「天賦持ちを殺し回ってる集団。目的は不明。レーマ王国政府はロームルス団撲滅運動をしばらく続けているけど、そもそも天賦持ちは少ないからね」
そんなやべー集団がいるなんて聞いてねぇぞ。異世界は物騒だな。
「で?この腕は?」
「おそらく、その上位互換だろうね。色の切れ目をよく見ればしっかり蔓の模様になっているし」
「じゃあ悪いものじゃなくていざという時に力を貸してくれるすごい効果ってわけか?」
「おそらくだよ。私もよくわからない」
俺はしばらく腕を見つめていた。
真っ黒だ。質感は変わりなく本当に見た目だけが変わった。ショックといえばショックだが、そんなにダメージはデカくない――――が、
「こりゃ、温泉いけねぇな」
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