第14話 魔法使い

「魔法使いだと・・・?」


突如現れた女に弾き飛ばされた男は、身を起こしながら尋ねた。

 

「お前、魔法使いの一族か?」


「随分とまぁ派手にやってくれたわね。」


その女は崩壊した図書館に目をやると、私に声を掛けてきた。


「大丈夫?」 


「え?うん。怪我は無いんだけど・・・何だか体が。」


「あー、それは魔力切れでしょうね。ほら、これでどうかしら?」


そういうと女は両手を私に向けて構え、魔法を唱えた。


オレンジ色のエネルギーが私の体を包み込む。


「暖かい・・・。」


「しばらくそうやってればそのうち魔力も回復するから。そうしたら体も動くようになるわよ。だから・・・」


女はそこで男に向き直して続けた。


「ちょっと待っててね。」


「あ、アナタは一体・・・?」


私がそう尋ねると、女は私に向かって微笑んだ。


「私はエミリー。あの男の言う通り、魔法使いの一族よ。」


「やはりそうか・・・。ふふふ。」


男はそう言うと笑みを浮かべた。


「お前ら魔法使いの一族とは、いずれ戦う事になるからな。丁度いい・・・小手調べといくか。」


「そんな余裕があるかしら?」


女は魔法を唱えた。


ーアニックスー


「こういう時の為に、この街には魔法陣が仕込まれているのよ。」


エミリーさんの呪文に呼応するように男の足元に魔法陣が現れ、男は四方を光の壁に包まれた。


男は周囲を取り囲む光の壁を一通り眺めると言った。


「ほう、面白い。だが、俺が事をしでかす前に発動しとくべきだったな。」


男が右手を構えると私が攻撃を仕掛けた時と同じように、光の壁は男の手の中へと吸収されてしまった。


「ごめんなさいね。魔法使いも人手不足なのよ。」


「そうか。それはそうと、次はこちらの番だ。」


光の壁から逃れた男は、今度は左手をエミリーさんに向け、魔法を唱える。


ーエレフェロシーー


男の構えた左手からけたたましく燃え盛る炎が、エミリーさんに向かって放たれた。


「あの炎はさっきの私の・・・!」


いや、私の召喚魔法による攻撃よりも、何倍もの炎が燃え盛っている。


「エミリーさん!!避けて!!!」


私の言葉が届くよりも先に、激しく燃え盛る炎がエミリーさんを包み込む・・・かのように見えた。


「ふーん。じゃあ今度は私の番って事でいいのかしら?」


炎がエミリーさんに届く直前、光の壁が炎の行く手を遮っていた。


エミリーさんの魔法だ。


エミリーさんの魔法によって出現した光の壁が、エミリーさんの意のままに操られている。


「出来るもんならなぁ!!」


男は怒声を上げ、炎の連撃をエミリーさんに浴びせ始めた。


1発、2発、3発・・・目を休める隙もない程に次々と放たれる攻撃が、次々と出現するエミリーさんの光の壁によって打ち消されている。


「むんっ!!!」


男が次に放った炎は、先程までに比べても随分と弱々しいものだった。


「あらあら、もうガス欠かしら?」


当然のように攻撃をいなすエミリーさんはそう言って男を煽る。


「さぁな。どう思う?」


「うふふ。確かめてあげるわ!」


ーセラスー


エミリーさんがそう唱えると、エミリーさんの周囲にあった光の壁が粉々に砕け、エミリーさんの掲げた右手に集まり始まる。


ーインパクト!ー


エミリーさんの右手に集まった光の束が、光線のように男に向かって放たれた。


「チッ・・・。」


男は先程まで男を捕らえていた光の壁を右手で掴み魔法を唱える。


ーディノスー


男の右手にあった光の壁が、一層大きく、一層強く輝いた。


激しい衝突音の後、目を開けていられない程の眩い光が辺り一面を包み込む。


「あまり見たことがない魔法ね。」


エミリーさんは無傷のままそこに立つ男を見つめてそう言い放った。


「光栄だな。魔法使いの一族にそう言われるなんて。」


「アナタ、名前は?」


「・・・ケイレブだ。」


エミリーさんの問いに、男はそう答えた。


「そう、ケイレブ。アナタの魔法は、魔法の吸収に放出、それと魔法の強化ってとこかしら?」


「ご明察。相手の魔法や魔力そのものを高める事が出来るって所が自慢でね。この魔法で爆発魔法を使える男の魔力を高めて、見事!そこにある図書館を爆発させたんだ。」


「・・・残念ね。そんな考えさえしなければ、族長に口利きしてあげてもよかったのに。」


「もう遅いさ・・・。ここの惨状を見ればわかるだろ?」


ケイレブは周囲を見渡して邪悪な笑みを浮かべている。


「それもそうね・・・。じゃあ、そろそろ決着をつけましょうか。こんな事をした事の責任は取らなくちゃね。」


「いやいや、俺はパスだ。小手調べもここまでにしておこう。」


そう言うとケイレブは両手を上げて戯けてみせた。


「目的は果たしたし、俺は逃げるよ。」


「その胸の奴は置いていってくれるのよね?」


「そんな訳ないだろうが。」


ケイレブは胸のポケットから『悪のるつぼ』を取り出した。


「人の命を犠牲にした『責任』は取らなくちゃな。」


「それをどうするつもり?」


「野暮なやつだな。決まってる。魔王の復活さ。」


「・・・追われる事になるわよ?」


「逃げ切ってやるさ。お前ら魔法使いの一族が相手だろうが、俺たちの目的を果たすまでは逃げ切ってやる。」


「うふふ。馬鹿な奴。」 


「何が可笑しい?」


「忘れたの?この街には魔法陣が仕掛けてあるって事を!」


そう言うとエミリーさんは魔法を唱えた。


ーアニックスー


ケイレブの足元に魔法陣が現れる。


ケイレブは再び光の壁に捕らえられた。


「何だか悪いわね。壮大な目的があるらしいけど、邪魔する事になっちゃって。」


エミリーさんは捕らえられたケイレブの方へと近づき、ケイレブの目を見つめながら言い放った。


「ダメじゃない。人の話はちゃんと聞いておかないと。」


「フフフ。ハーハッハ!!」


突然笑い出したケイレブにエミリーさんは尋ねた。


「・・・何が可笑しいの?アナタ、魔力が切れてるんでしょう?もう逃げられないわよ。」


「ククク・・・。いや、すまない。人の話はちゃんと聞いておかないと、か。確かにそうだな。だが、それはお前も同じだ。」


「何?」


「俺は『俺たち』と言ったんだぜ?」


そう言うとケイレブは胸のポケットから小瓶を取り出し、中に仕舞っておいた魔法を振りまいた。


「また会おう!エミリー!!」


光の壁の中に煙が立ち込め、煙が消えた頃にはケイレブの姿もそこから消えていた。


「うう・・・。やっちゃった。」


しばらくそこに呆然と立ち尽くしていたエミリーさんが私に話を掛けてきた。


「アナタ、名前は?」


「ソ、ソルだけど・・・。」


「そう、ソルちゃんね。」


エミリーはそう呟くと、独り言のように続けた。


「これから大変な事になるわよ。」



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