第13話 How to
「ねぇ、おばあちゃん。」
「うん?」
「お母さんってどんな人?」
あれはいつの事だったろうか?
私はお母さんのお墓参りにいく途中、おばあちゃんにそう聞いてみた事があった。
「そりゃあもう優しい人だったよ。困ってる人を助けずにはいられない様な、優しい子だった。」
私の問いかけに、おばあちゃんは嬉しそうにそう答えてくれたのを覚えている。
でもそれはお母さんの話の時だけ。
「じゃあ、お父さんは?」
「・・・アンタの父親は、魔法使いだよ。」
その時のばあちゃんは苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
「本当に!?じゃあ私もなれるかな?お父さんの様な魔法使いに!」
「・・・なれるとも。努力すればだけどね。アンタにはお父さんやおばあちゃん達と同じ、立派な魔法使いの血が流れてるんだから。」
「やっぱりね!だと思った!ねぇおばあちゃん、見てみて!燃え盛れ『ライター』!!まだまだ全然出来ないけれど!」
その言葉を聞いて無邪気に喜ぶ幼ない私に向かって、おばあちゃんが言った言葉を今でも私は覚えている。
「でもねソル、アンタはお父さんみたいな人にはならないでね。・・・お父さんの様な、酷い人には。」
さっきまで図書館に居たはずの私は、気が付くと瓦礫の山の中で気を失っていた。
一体何が・・・。
そうだ・・・思い出した。
目の前で人が爆破した事を。
その爆発のせいでこうなってしまった事を。
しかし私は何故、図書館が崩壊する程の大きな爆発に巻き込まれているのに無事なのだろうか?
その答えはすぐに分かった。
指輪だ。
図書館に入る前にハメた指輪には防御魔法が仕込まれていた。
その指輪の防御魔法が、あの男の爆発魔法から身を守ってくれたのだ。
「いたっ。」
持続していた防御魔法の効果も切れ、シールドが守ってくれていた頭上から図書館の瓦礫が降ってきた。
そうだ、皆は無事だろうか?
瓦礫の中から身を起こし辺りを見渡した私は、信じられない、信じたくないものを目にした。
エヴァンさんだ。
目を虚ろに開き、腕はあり得ない方に向いていた。
死んでいる。
爆発に巻き込まれ、瓦礫の山に押しつぶされ、死んでいるのがひと目で解った。
指輪の魔法はエヴァンさんを助けてはくれなかった。
「そんな、エヴァンさん!!」
私は瓦礫の山を掻き分けエヴァンさんを抱き寄せ叫んだ。
解っていたが、やはりエヴァンさんは何も言ってはくれない。
・・・私のせいだ。
私が無理を言ってエヴァンさんに封印の蔵へ連れて行かせたから・・・。
私のせいで、エヴァンさんは爆発に巻き込まれてしまった・・・。
そう悲嘆に暮れていると今度は瓦礫の向かいの方から、何やら人が争うような気配がした。
ルシフェルと見知らぬ男が争っているのが見えた。
いや、見えたのは見知らぬ男がルシフェルにトドメを刺そうとしている所だった。
ルシフェルが殺される。
訳も分からず召喚されたルシフェルが、殺される。
私のせいでルシフェルが・・・。
ふと瓦礫の山に目をやると、そこに見覚えのある一冊の本を見つけた。
『How to 今日から始める召喚魔法』
私の家にあった、お父さんが残していたあのグリモワールだ。
そうか、図書館にも同じグリモワールが保管されていたんだ。
・・・あの日、軽い気持ちで召喚魔法なんて試してなければ、エヴァンさんが封印の蔵に近付く事も、爆発に巻き込まれる事も、ルシフェルが殺される事も無かったかもしれない。
全部、私のせいだ。
・・・やってやる。
今度こそ、真面目にやってやる。
How to ・・・。
今、私がルシフェルを助けられる方法は、可能性は、これしかない。
私のせいで、誰かが死ぬのはもう真っ平だ!
たとえ出来なくたってやってやる!
私はグリモワールを引き寄せ召喚陣の描かれたページを開き、血を垂らしながら叫んだ。
「我が血に応えし者よ!その身を現世に現せ!」
今まで感じたことのない魔力が、怒りが、私の身体を駆け巡る。
私の血を浴びたグリモワールの召喚陣が眩い光を放ち、召喚魔法が発動した。
召喚陣の上に、燃えるように赤い身体の小さな魔竜が現れた。
グリモワールとほぼ同じサイズの魔竜。
そのあまりに小さな魔竜の姿を見て、私は思わず呟いた。
「・・・ちっさ。」
「グァ?」
私の言葉に小首を傾げるその魔竜の姿は可愛くすら思える。
しかしその魔竜が男に向かって吐き出す炎は、その小さな姿からはとても想像が出来ないものだった。
「グオオオオオ!!!」
激しく燃え盛る炎が、ルシフェルにトドメと刺そうとする男に向かって襲い掛かる。
行ける!これなら!!
ルシフェルを助けられる!!
そう思った。
しかし、甘くないのが現実だ。
男が炎に向かって右手を構えると、激しく燃え盛る炎はその右手に吸い込まれ、消えた。
「へぇ、召喚魔法を使えるのか。」
私に気付くとその男は言った。
「こいつを助けようとしたのか?」
男はルシフェルを投げ飛ばし、こちらにゆっくりと近付いてくる。
「いいね。・・・どうだ?仲間にならないか?」
「仲間・・・ですって?」
私は突然の目眩を覚えながら男の問いにそう答えた。
「ああ。俺達は魔王を甦させるんだ。このフザけた連中が生きるフザけた世界を、もう一度魔王の恐怖で支配する。その生まれ変わった新しい世界に魔王と共に君臨するのが俺達、魔法使いだ。どうだ、仲間にならないか?」
「仲間ねぇ・・・残念だわ。」
全身の力が抜け、私はその場に倒れ込んだ。
「仲間なら既にいる。ホラ、そこらじゅうに倒れてる。全く・・・私がピンチだってのに助けてもくれないなんて。アンタの言う通り、フザけた連中だわ・・・。」
私は瓦礫の山を指さした。
「アンタの仲間だなんて、死んだほうがマシよ。」
瞼が重い・・・。
せっかく召喚した魔竜も、魔力が切れた事で姿を消した様だ。
「そうか。今や召喚士は貴重なんだがな。」
男が私に向かって右手を構えているのが見えた。
肌がピリつく・・・。
ああ、これが死ぬという事なのね。
何だ。
私もちゃんと、魔法使えたじゃない。
モリーにも見せたかったな。
これが魔法使いよってね。
・・・こんな事ならちゃんと魔法の練習してみるんだった。
私にも出来た事がもっとあるかもしれないのに。
私も立派な魔法使いになって見たかったな。
死ぬ前に見る最後の魔法使いがこんな奴なんて・・・。
「利用の出来ない命に価値はない。死ね。」
私に向けられた男の右手が熱を帯び出したその時。
男の姿が吹っ飛んでいくのが見えた。
男を吹き飛ばしたのは勿論、私ではない。
三角帽子に黒いドレス。
その女の姿はまさしく・・・。
「何だ、お前は。」
突如として現れたその女は、男の問いにこう答えた。
「魔法使いよ。」
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