第12話 崩壊
「ルシフェル、聞いているのか?」
「え?あ、ごめんなさい。父さん。」
その日、僕達は魔王軍に追われ森に逃げ込んだエルフ達の救出に赴いていた。
「魔王軍の追手はまた必ず来る。私達はこのまま森へ進み、エルフ達を助ける。お前にはここで追手の追撃を退けてほしいのだ。」
「・・・。」
「聞いているのか、ルシフェルよ。」
「僕には無理だよ・・・父さん。この前だって、結局父さんに助けられたじゃないか・・・。」
僕は目を伏せた。
「全く、お前という奴は・・・。どうしてそんなに・・・。」
そう言うと父さんは馬から降り、僕の肩に優しく手をおいた。
「・・・弱いのだ。」
「・・・父さん。」
「せっかく私が勇者と崇められるまでになったと言うのに、お前という奴は、何と意気地のない。」
「ごめんなさい・・・。」
「ルシフェルよ。いつでも私が居るとは限らないのだぞ。お前一人で敵に立ち向かわなければならない時も来るのだ。・・・たまには勇者の息子らしい姿を見せて見よ。私の息子という事を示してみよ。それすら出来ぬと言うのなら、私はもう・・・。」
そう言うと父さんは馬に跨り、エルフ達の待つ森の奥へと駆けていった。
その時の僕には父さんが、僕の手の届かない何処か遠くの場所に行くような気がしてならなかった。
気が付くとマジカルエンシェントの街は黒々と立ち昇る煙と人々の悲鳴に包まれていた。
先程まであった図書館も、封印の蔵諸共バラバラに崩壊してしまっている。
突然の爆発から身を交わすことで僕は精一杯だった。
ソルは、ミョウジョウは、エヴァンさんや図書館にいた人達は、無事なのだろうか?
「ソル!エヴァンさん!!ルシフェル!!!」
目の前の瓦礫の山に呼びかけても、返ってくる声は無かった。
一体今の爆発はなんだったのだろうか?
その時、瓦礫の山と化した図書館に近付いてくるフードを被った一人の男がいた。
僕はその男に手を借りようと思い声をかけた。
「おい、アンタ!」
「俺か?」
その男は辺りを見回すとそう答えた。
「手を貸してくれ!瓦礫の中に人が埋まっているんだ!」
「・・・嫌だよ、面倒くせぇ。」
「な!?何を・・・。」
「生きてんならちょうどいいや。なぁ、お前。ちょっと探すの手伝ってくれないか?『悪のるつぼ』って本が、その瓦礫の中にあるはずなんだが。」
男の言っている事がまるで理解できなかった。
「何を言っているんだ・・・。そんな場合じゃないだろ。人が、人が埋もれているんだ、この中に!」
「わかってるよ。それくらい。俺が図書館を爆発させたんだからな。」
僕は耳を疑った。
図書館を爆発させただって?
「さっきから、何を言ってるんだよアンタは・・・。」
僕はその男に尋ねた。
「お前、図書館の中に居たんだろ?人が爆発しなかったか?そいつを自爆させたのが俺だよ。」
そう言って男は不気味な笑顔を浮かべた。
「すげぇ爆発だったよなぁ?ハハハ!」
「貴様!」
僕は剣を振りかぶり、男に向かって飛びかかった。
しかし・・・。
(片手で受け止められた!?)
僕の攻撃を難なく受け止め男は僕を睨みつける。
「いきなり斬りかかってくるとはどういうつもりだ。ガキ。」
「貴様、人の命を何だと思っている!!」
「別に何とも・・・とでも言うと思ったか?」
そう言うと男は僕の攻撃を受け止めてていた腕を振り回し、気付けば僕は地面に倒されていた。
男は僕の剣の切っ先を僕の首元に当てながら言った。
「せっかく生き残ったんだから、もっと命は大事にしろよ。」
男は剣を手放し、瓦礫の山と化した図書館に向かって歩いていく。
「さて、魔王の書物はっと・・・。ん、あれか?」
そう言うと男は瓦礫を掻き分け禍々しいオーラを放つ不気味な書物を手に取った。
「凄いオーラだ。探すまでもなく見つかるとはな。これが『悪のるつぼ』か。あれだけの爆発に巻き込まれて傷一つないとは。しかし・・・。」
男はその本を懐にしまい、こちらに振り向き言い放つ。
「言ったはずだがな。命は大事にしろと。」
「貴様をここで逃がすわけにはいかないんだ。勇者の息子として、貴様はここで僕が倒す!!」
僕はもう一度剣を手に取り、男と向かい合った。
「ほざいてろ。」
そう男の声が聞こえた瞬間視界が歪む。
熱くて不快な何かが胃の底から込み上げてくるのが分かり、堪らず僕はそれを吐き出した。
・・・血だ。
男が瓦礫の中で手にしていたガラスの欠片が、いつの間にか僕の体を突き刺していた。
「せっかくの俺の優しさを無駄にしやがって。」
足に力が入らない・・・。
男の体にもたれ掛かる様にして立っているのがやっとだ。
「勇者の息子か何か知らんが、勇敢さと無謀さは違うんだぜ。」
僕は力を振り絞り、男に向かって魔法を唱えた。
- ルークス・サーンクタ!アルクス! -
・・・やはり、魔法が発動しない。
「お前、魔法もロクに使えないのか。それでも勇者の息子かよお前は・・・。」
男は呆れた顔を浮かべている。
その顔を見て、僕はあの時の父さんの顔を思い出した。
「お前さっき聞いてたよな?命を何だと思っていると。教えてやるよ。」
こんな時に父さんが居たら、助けてくれたのに・・・。
「俺にとって命は、利用出来るか出来ないかだ。あの男だって、爆破の魔法が得意だって言うから利用してやったんだ。お陰で『魔王のるつぼ』が手に入った。利用価値はあったよ。意味のない人生にようやく意味を見出させてやったんだ。」
ああ、そんな事思ってたら、また父さんに叱られるな・・・。
「魔法も使えないお前の命に、利用価値など無い。」
せめて一度くらい、普通の親子で居たかった。
父さんに好かれようと父さんの、勇者の真似をしてみたけれど、やっぱり僕には無理だったよ・・・。
「死ね!!」
父さん、僕はもう・・・。
勇者はコリゴリだ・・・。
男が最後の一撃を僕に食らわせようとした、その時。
瓦礫の山の方から激しく燃え盛る炎が、男に向かって放たれた。
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