第8話 経験+会話=疑問
「今度こそ終わったのよね?」
私はミョウジョウに尋ねた。
「ああ。ばっちり手応えもあったからな。」
「魔力の方は?」
「あと一発魔法が使えるかどうかってとこだな。感覚的に。」
「つまりエーテル分の魔力を使い切れば、また魔力が使えない状態に戻るのね?」
「だろうな。魔力が湧いてくる感覚がまるでない。」
「そっか・・・。それにしても、何故そんな事に・・・。」
「大元を辿ればお前のせいなんだがな…。」
そう言って私を睨むミョウジョウにロビンが尋ねた。
「君が使ってる武器、それ魔法銃だろ?魔法銃を使いこなしてる奴は初めて見たよ。」
「そうか?俺の世界には結構いたけどな、魔法銃の使い手。まあ、そんな事より早くルシフェルの手助けに行かねえと。」
ミョウジョウは以外にもルシフェルの事を心配しているようだ。
「そうね。ねえロビン、もう一回あの魔法を使ってよ。」
「そうだな。ちょっと待ってくれよ。」
そう言うとロビンはもう一度あの魔法を唱えた。
__ マギア!モーベンス!__
「さぁ、これで町まですぐだ。」
「私、魔法で移動するの初めて。」
「ほぉ。魔法陣の中、こんな風になってんのな。」
「なんだよ、押すなよミョウジョウ。」
「まぁまぁよく見せてみなって。ほう!こりゃ凄い!ソル、見てみろ!こっちとこっちじゃこうも見え方が変わんのな!」
「え?どんなどんな?ロビンどいてよ。よく見えないじゃない!」
「だから押すなって!座標がグラつく!うわっ危ない!」
魔法陣の中で行ったり来たりしているとロビンの言う通り魔法陣がグラつきだし、不安定なまま魔法が発動してしまった。
「まずい!座標が!うわあああああ!!!」
斬っても斬ってもキリがない。
攻撃がきかない相手を前に、僕は次第に追い詰められていた。
魔法が使えないだけでこれほどまでに苦戦するとは・・・。
「威勢がいいのは最初だけだったな。そらっ!」
一瞬のスキを突かれ、魔物の放った容赦のない攻撃がジェイクへと放たれた。
「しまった!ジェイク!!」
間に合わない・・・このままじゃジェイクが、クソッ。僕にもっと力があれば・・・。誰か・・・誰か助けてくれ!
その時だった。
「うわああああああ!!!」
宙に現れた魔法陣から、ソル、ミョウジョウ、ロビンの三人が、魔物の頭上に落ちてきた。
「イテテ・・・おい、ロビン!変な所に移動するな!」
「お前らが押すから座標がズレたんだよ!」
「アイタタ・・・。ハッ!ちょっと二人とも!下見て下!魔物よ!魔物の上に移動したんだわ!」
魔物は突然の出来事と衝撃に理解が出来ないでいるようだ。
「グッ。な、なんだ貴様ら!」
「お、本当だ。」
ミョウジョウはそう言うと魔物に向かって魔法を放った。
「イムプルスス!」
「キャア!!ちょっとミョウジョウ!!こんな間近で魔法ぶっ放さないでよ!危ないじゃない!」
「うるせえな。魔力が全然足りねぇから、さっきの半分以下の威力しか出してねぇよ!グハハハ!」
「何を笑ってるんだよお前は・・・。」
「お!ジェイクじゃねえか!どら、ちょっくらその剣貸してみな。」
「え?あ?こ、これか?」
ミョウジョウは僕から剣を受け取ると魔力を込めて瀕死の魔物に剣を振り下ろした。
「勇者様の一撃を喰らえ!」
「ぐああああああああ!!!!」
魔力の込められたミョウジョウの一撃を喰らった瀕死の魔物は、断末魔の叫びをあげながらゆっくりと崩れ去っていった。
「勇者って・・・あんた勇者じゃないでしょ・・・。本当にセンスないわね。」
「これでまた魔力が切れちまった!・・・おいルシフェル!二人で魔物を倒したぞ!共闘作戦成功だな!」
そう言ってミョウジョウは笑顔を浮かべている。
その笑顔はとても魔王の息子とは思えないほど純粋な笑顔だった。
「まさか二度もジェイクをお前らに助けてもらうとはな。」
ジェイクをジェレミーさんの店に送り届けると、私たちはジェレミーさんからそうお礼を言われた。
「ところでジェレミーさんはどこにいたの?ジェイクが襲われてた時に。」
「俺はまだ寝てた。」
ジェレミーさんはあっけらかんと答えた。
「・・・ああ、そう。ダメじゃない、ジェイクを預かってるんだったらちゃんと見てないと。」
「すまん・・・。俺は朝は滅法弱くてな。おい、ロビン。こいつらになんかウマいモン飲ませてやってくれや。」
何故自分が?とでも言いたげな表情を浮かべつつ、ロビンはしぶしぶカクテルを作り始めた。
「それにしても、どうして魔物が・・・。」
ジェレミーさんは呟いた。
「魔物がどうした?魔物くらい珍しくないだろ?」
ミョウジョウは不安げな表情を浮かべているジェレミーさんを見つめながら私に尋ねた。
「私たちの世界には魔物なんて滅多には存在するもんじゃないの。私だって生まれて初めて見たわ。やっぱりおじさんの言う通り、あの日の満月になにか原因がありそうね。」
「満月か・・・。そういや俺も変な満月見たぜ。」
「本当に?」
「ああ。お前に召喚されたあの日の夜、満月の不思議な光に包まれたんだ。そうだよな?ルシフェル。」
しかし、そこにルシフェルの姿はなかった。
「あれ?あいつどこ行ったんだ?」
「さぁ?」
「ふらっと店の外に出て行ってたよ。」
カクテルをグラスに注ぎながらロビンが答えた。
「なんだよあいつ、せっかくうまい飲みモンがあんのに。どら、持ってってやるか。」
そう言うとミョウジョウはロビンの作ったカクテルを手にし、店の外へとルシフェルを追いかけていった。
「どうしたどうした、何やってんだ一人で。」
僕が振り向くとそこにはミョウジョウがグラスを二つ持って立っていた。
「別に、なんでもないさ・・・。」
「そうは見えねえけどな。ほら、お前も飲めよ。」
ミョウジョウはグラスを差し出している。
「・・・さっきは助けられたよ。ありがとう。」
「はあ?何が?」
そう言うとミョウジョウは手に持ったカクテルをグイっと流し込んだ。
「魔物だよ。・・・君たちが居なかったら、きっと僕は魔物にやられていたろうさ。恩に着るよ。」
「・・・そりゃどーも。」
「・・・君は僕が思っていた様な奴じゃ無さそうだな。」
「・・・親父みたいに残忍な奴だとでも思ってたのか?」
「・・・ああ。」
そう答えた僕をミョウジョウはジロリと睨む。
「・・・俺も、お前はもっと違う奴だと思ってたよ。」
「へぇ、どんな奴だと?」
「もっと強い奴だと思ってたよ。お前の親父みたいな。それがまさか、あんなチンケな魔物如きに苦戦する奴とはな。」
「う、うるさいな!魔法が使えないんだ!しょうがないだろ!」
「なんてな。知ってたよ。親父から聞いてたし。」
そう言ってミョウジョウはカクテルを一気に飲み干した。
「・・・だったら、どうして僕を殺さない?今こうしてる間だって殺せるだろ!?僕と君は敵同士じゃないか!」
「敵同士、・・・ね。だからといってどうして殺すんだ?」
「それは・・・。」
僕は言葉に詰まった。
殺す理由・・・思い当たる理由があるとすればそれは・・・。
「魔王の息子と勇者の息子だからか。」
僕が答えるより先に、ミョウジョウが答えた。
「俺、お前に何かした覚えも無いし、された覚えも無いんだが。」
「・・・。」
「だったらそれでいいよ、殺す理由は。でも、一つだけ頼みがある。聞いてくれるか?」
「・・・なんだよ?」
どんな願いだろうか?僕は思わず身構えた。
「この世界にいる間だけでもいいんだが・・・。」
ミョウジョウが何かを言いかけたその時だった。
「おおおううえええええええええええ!!!!!」
あの夜の様に、再びミョウジョウが勢いよくリバースしている・・・。
「おえええええ!!!飲みすぎたあああああ!!!!」
「が、学習しろよ!!」
「うるせえ!え、偉そうにすんなっ!う、えええ・・・。」
「偉そうにしたくもなるよ、二回も同じように吐かれたら。全く・・・。」
「おーい、お兄ちゃんたち!」
急にリバースしたミョウジョウにあたふたしていると、店の方からジェイクが近づいて来ていた。
「ジェイク!」
「うわっ・・・。どうしたのお兄ちゃん・・・。」
「ジェイク・・・。の、飲みすぎた・・・。た、助けオエエ・・・。」
ミョウジョウは情けない顔でジェイクに助けを求めている。
「ああもう、きったないなぁ。ホラ、しっかりしなよ・・・。」
助けを求められたジェイクはこなれた様子でミョウジョウの介抱をしている。
「慣れてるね。嫌じゃないのか?」
「うん。ジェレミーさんの店でよく見てるから。」
「ああ、そう・・・。」
「それに、これ位どうって事無いよ。こんな人でもお兄ちゃんは命の恩人だからね。」
「そう、か・・・。」
命の恩人、ジェイクのその一言に僕は改めて気付かされた。
僕だって助けられたんだ、魔王の息子に・・・。
命の恩人を、僕は殺さなければいけないのか。
魔王の息子だからと理由だけで・・・?
「どうしたの、お兄ちゃん?」
「い、いや何でもない。僕も手伝うよ。」
僕はジェイクに介抱されるミョウジョウを見て、ひとり言のように呟いた。
「しっかりしろよ。」
どんな奴か見極める、そう決めたばかりなのに。
経験をした事で、会話をした事で、簡単だったその事が途端にとてつもなく難しい事に思えた。
それにミョウジョウはあの後、何を言うつもりだったのだろうか?
そんな疑問を抱え、僕は店へと戻っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます