第12話 11&12日目 パリへ帰還

トラベル小説


 朝起きると、お腹がすごくすいていた。無理もない。昨日は夕食抜きだった。朝食を一人さびしく食べた。ハムは大盛りだったが・・・。

 9時になると、昨日の大使館職員が迎えにきてくれた。

「おはようございます。今日は、インターポールではなくて、パリの日本大使館にお連れします。自殺ということで処理されることになったので、あなたの容疑はなくなりました」

(やっぱり私は容疑者だったんだ)

車中でいくつか会話をした。

「彼の死体は?」

「あそこから落ちたら見つかりません。どこかのクレバスに落ちたでしょう。氷づけですよ」

「殺人の容疑というのは?」

「うーん、しゃべっていいのかな。警察には私から聞いたとは言わないでくださいよ」

「はい、分かりました」

「あいつの家の近くの貸し別荘の床下から奥さんらしき女性の死体が出たそうです。死後およそ1~2ケ月」

(私にヨーロッパに行こうといったころだ)

「奥さんは施設に入っていたと聞きましたが・・」

「前はね。2ケ月ぐらい前に出て、自宅に戻ったみたいだ」

(わたしがクラブをやめたころだ。だから彼は疲れていたのか)

 夕方5時ごろ、パリの日本大使館に着いた。スイスから送ってくれた大使館職員に礼を言い別れた。でも、考えてみれば私は容疑者ではないので、本来は自由の身。どこに行こうが構わないはずと思ったが、来客用の部屋に案内されて

(ただで泊まれるなら、ここでもいいや)

と思った。自由に外出はできないが、一人で歩くのは難しい。

 日本からの警察官は、今夜到着するとのこと。その夜は、久しぶりに日本食を食べることができた。お刺身定食だった。味はまずまず。


 12日目


 朝食は日本風の食事だった。ごはんとのりがおいしい。そこに日本から来た警察官という人も来ていた。軽いあいさつだけした。

 食後、別室で事情聴取を受けた。名前を聞かれた後、その時の状況を聞かれた。シルトホルンのレストランを出てからのことを細かく話した。

「あなたは自殺と思っていますか?」

と聞かれたので、

「今考えるとそう思いますが、その時は混乱していてわけが分かりませんでした」

「でしょうね。旅行中、彼が自殺する気配はありませんでしたか?」

「いえ、そんなことはありませんでした」

「あなたを巻き込んで死のうとしたことは?」

「いえ」

と言ったところで、2つの場面を思い出した。

「何か思い出しましたか?」

「はい、・・・実はドイツの高速道路で250kmを出しました。私が無理しないでと言ったら、スピードをゆるめてくれました」

「アウトバーンは速度無制限ですからね。死んでもいいかとは思っていたかもしれませんね。まだありますか?」

「スイスで雪崩が起きそうなところにしばらく立っていました。私が戻ろうと言ったら、動いてくれました」

「フーン、やっぱり死に方を考えていたのかな? ところであなたと彼の関係は?」

「・・・友だちです」

「ただの友だちじゃないでしょ」

「・・・・・」

私は悪いことはしていない。そんな質問に答える必要はないと思った。

「これ、彼のセカンドバッグですよね」

「そうです」

「あなたが拾い上げたんですよね。窃盗罪かな?遺失物横領罪かな?」

警察官にそう言われたら、答えざるをえない。

「罪になるんですか? ホステスと客の関係です」

「肉体関係は?」

「旅行中はありません」

「ということは、日本ではあったんだ。それが、彼の犯罪につながったとも考えられる」

「彼は犯罪者だったんですか?」

「奥さん殺しの容疑がかかっている。那須で奥さんの他殺体が見つかりました。なかなか人物が特定できなかったのですが、近くの療養施設から連絡がつかない人がいるという通報があり、そこでDNA鑑定をしたら、人物が特定できた次第です。死体があった別荘を長期契約をしていたK氏に疑いがかかりましたが、その時には国外に出ていたのです。あなたといっしょにね。あなたの存在が殺害の原因だとすると、旅行中、何もなかったというのは解せないのですが・・」

「本当に何もありませんでした。ハイキングで疲れたり、飲み過ぎてダウンしたりしていたんです」

と強く言ったら

「そうですか。まあ、いいでしょう」

「私って犯罪者になるんですか? 明日の飛行機で日本に戻るんですけど・・」

「拾ったものを大使館職員に渡したんでしょ。それは罪になりませんよ」

私は、だまされたと思った。その後、取り調べなのかダべリングなのか分からないような話が続き、1日が終わった。

「お疲れさまでした。明日は空港まで送ります。私も別便で帰りますので」

警察の取り調べって、がまん大会なんだということを痛切に感じさせられた1日だった。

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