第8話 7日目 ツェルマットにて

トラベル小説


 起きたら嵐だった。横風で雨が窓にたたきつけている。外に出るのは、とても無理だ。彼は朝食の後、テーブルに向かって、なんか手紙を書いているようだった。私が近づくと、ペンを止めて私をにらむので、

「つまんな~い」

と言ったら

「いい子だからおとなしくしていてね」

と返された。昼食時には書き終わったようで、いっしょにレストランに行った。パスタを頼んで窓辺で食べた。相変わらず嵐だ。彼も外を見て、がっかりしていた。

 午後は二人でベッドの上でトランプやリバーシをした。二人っきりでするトランプは変な感じだったが、スピードは私の完全優勝。でも、セブンブリッジは彼の圧倒的勝利だった。リバーシは全く敵わなかった。前半はリードするものの、後半には彼の策略にはまり逆転された。2戦目は最初から隅にハンディをもらったが、それでも完敗。2つハンディもらってもダメ。最後には4隅全てハンディをもらったが、中央部を全てとられ、ちょい負け。くやしいので、ちょっと間があったところで、彼にとびかかろうとしたが、外を見て寂しそうな顔をしているので、ためらってしまった。

 なんやかんやで夕方になり、

「夕食は、チーズフォンデュにしようか?」

と彼が言ったので、

「スイスといえば、チーズフォンデュだよね。食べよ。食べよ」

とレストランのフォンデュコーナーに行った。

 嵐のせいか、レストランは宿泊客だけのようで空いていた。注文すると、フォンデュグッズがすぐに運ばれてきた。コンロの上にチーズが入った鍋がおかれ、小さく切ったパンと小さ目のポテト、それにピクルスだ。ピクルスは漬け物だ。

 コンロに火がつけられたが、既に温められていたのだろう。食べごろの温度になっている。ワインの注文は彼は白ワイン。私はいつもの赤ワイン。絶対白ワインは飲まない。でも、給仕してくれたギャルソンは変な顔をしていた。赤ワイン好きをばかにするな。と思った。

 金属でできた長い串にパンをつけて、チーズに入れ、からめて食べる。独特の味わい方はチーズフォンデュならではだ。最初のうちはパクパク食べられたが、半分ぐらいからはペースダウンになってきた。同じ味が続いているので、ややあきてきた。

 残りわずかのところで、悪酔い状態になってきた。

「なんか気持ちわる~」

と言うと、

「チャンポンで飲むからだよ」

と変なことを言うので、

「チャンポンなんかしていません。赤ワインだけです」

「チーズフォンデュには白ワインが入っているんだよ」

ガーン! それでギャルソンが変な顔をしていたのか。やぶにらみで彼をにらんだが、もう間に合わない。トイレに駆け込んだ。その日は、私がダウンだった。

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