第6話 天使からのお願い

「ひとみちゃん、早くよくなるといいね。ひまりもお祈りする!」


ひまりがガッツポーズをしながら病院の廊下を歩く。


長時間の面会は患者の体力的にもダメとのことで、あれから少しの時間で、俺たちは病室から出された。


「ありがとう、ひまりちゃん。あ、兄ちゃん、ひまりちゃんに聞いたの?」

「あ」


優真に言われて思い出す。ひとみの検査の心配で、すっかり忘れてしまっていた。


「わたしに?なに?」

「えーっとな、」


そして、いざ聞こうとすると、結構聞きにくい。けど、大袈裟ではなく人命がかかっているのだし、聞かない訳にもいかない。


「昨日、兄ちゃんが見ていたお仕事?あっただろ?」

「お仕事?ああ、あの悪いやつね!」

「うっ、まあ、そうだな、それだけど」


優真翔真は、病院なので笑いを堪えている。でも、肩の揺れが隠しきれていない。


「ひまりのパパは知ってるのか?その、危ないだろう?知らないならパパにも知らせて、警察に連絡した方がいいと思ったんだ」


エレベーター前に着き、下へのボタンを押しながら言葉を選びつつ話す。


「けいさつ……そうだよね……そうなんだけど……たぶん、言ってもパパはけいさつに言わないと思うの」


そんな俺の言葉に、ひまりは首を傾げて困り顔をする。


「「「えっ、何で?!」」」


三兄弟で同時に驚いた所で、ピンポーンとエレベーターが到着した。ドアが開き、四人で乗り込む。

ちょうど誰も乗っていなかったので、俺はそのまま話を続ける事にした。


「それはひまりがそう思うだけじゃないのか?」


俺の言葉に、ひまりは首を振る。……寂しそうな悲しそうな、何とも言えない顔をして。


「ううん。パパはじぶんをだいじにしてくれないの。ほんというとね、前にも何回かあったんだ、ああいうの」

「「「えっ」」」


また俺たちが驚いた所で、一階に着いてドアが開く。

エレベーター待ちの人達がたくさんいたので、無言でさっさと降りる。


それにしたって何度もあったって、どういうことだ。


「ひしょさんが気づいてね、けいさつに、って言っても、パパはだいじょうぶって。けいさつにいってもしょうがないって言うの……うちはセキュリティいっぱいしてるし、って。本当に入れた人なんていないんだけど、でも……」


俺はひまりの家を思い出してみる。

……確かに、門はがっちり閉まっていて門番さんみたいな人もいるし、そこから本宅までは相当歩きそうだ。おいそれと侵入できるとは思えない。


あの時俺、何でやってみようとか思っちゃったんだろう。判断力がなくなるって怖い。


「心配だよなあ、ひまりからしたら」


ひまりの頭をポンポンしながら、しゃがんで目線を合わせる。


「うん……」


ひまりは泣きそうに頷く。


「ひまりちゃんが言ってもだめなの?」

「……ひまりがしってるの、パパはきっとしらないから……」

「あー、そうか、子どもには隠すかあ」


優真翔真も、同じようにしゃがんで話す。


「しかもね、パパとケンカしちゃってね、しばらくおはなしができていないの」

「え、パパ大人げな……!」


言いかけた優真の口を塞ぐ。確かに大人気ないけれど、親子もいろいろあるだろう。


「仲直りしたいって、ひまりは言わないのか?」

「……パパ、聞いてくれないの」

「頑固だな」


今度は翔真を小突く。


「パパにも何かあるのかもな」


俺が頭を撫でながら言うと、ひまりは意を決したように口を開いた。


「あの、お兄ちゃんたち、パパとおはなしするの、手伝ってくれないかな?」


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