第4話 兄弟の夕食タイム
アパートに帰り、ちゃちゃっと夕飯を作る。
今日のメニューは、しょうが焼きと冷奴サラダに、きゅうりのぬか漬け、なめこの味噌汁だ。
いろいろ大変だが、優真翔真は体が基本だし、食事は大事!と、母さんの教えも叩き込まれているので、ちゃんと作る。
三人で食卓を囲み、いただきますだ。
「で、兄ちゃん、ひとみは入院になったの?」
食べ始めてすぐに優真が聞いてくる。
「あ、ああ、実は……」
俺はひとみの病気の事を説明した。最初は二人ともかなりの衝撃を受けた顔をして、そして段々と怒り始めた。
「なんでひとみなんだよ」
「俺の方が体力あるのに……なんでこっちに来てくれなかったんだ」
優真も翔真も、神様は不公平だよな、と、口々に俺が思った事と同じ様なことを言い合っている。
「それで兄ちゃんは、ちょっとおかしくなった訳か」
「どうせ、僕たちには高校でも野球を、とか考えたんだろ?」
「あ、いや、まあ……すまん」
双子の阿吽の呼吸で追及され、素直に謝る。
「中学もあと半年じゃん。僕たちも高校行ったらバイト始めるから!何とかなるよ」
優真がニカッと親指を立てながら話す。
「だって、野球……強豪校から……」
「いいよ。近くの公立に行くって二人で決めていたんだ。学費免除でも、他、いろいろかかるだろ?」
翔真も当然といった顔で話す。
「母さんが元気だったら、プロになって恩返し!とかも夢を見てなくもなかったけどねぇ」
「確実性もないしなー。怪我したら終わりだし」
「何より、ひとみがどうなるか分からない状態で、遠くに行きたくないし」
「そうそう」
「……でも」
二人とも、何でもないように言っているが、俺は奴らの努力を知っている。毎朝二人で自主練して、ボロボロのバットで素振りして。そんな努力をあっさり捨てさせたくなかった。
「でも、じゃないだろ、兄ちゃん」
「そうだよ。僕たちに野球続けろって言うなら、兄ちゃんは大学行けよな」
「え……」
「僕たちが気づかないと思った?兄ちゃん勉強好きだよね?本当はうちから遠い、進学校にもいけたのに近くの商業高校にしたんでしょ?」
「いや、勉強は嫌いじゃないけど……資格とか身につけた方がいいと思ったからだぞ!無理にじゃない」
「兄ちゃんがいいと思ったってこと?」
優真が確認する。
「そうだ」
「じゃあ、僕たちと同じじゃん。僕たちが兄ちゃんとひとみといたくて、近くの学校にしたいんだから。バイトも、ちょっと楽しみだし」
翔真にどや顔で纏められる。
「でも」
「あー、もう!でもじゃないよ!兄ちゃんも高校生だよ!一緒に通おうよ!バイト先も紹介して!」
「そうそう。ちょっと正直、もうキツイ練習しないで済むのは気楽だしなー」
「あ、それ言う?」
「だってあるだろ?」
確かに~!と二人が笑う。
俺はまだどこかに罪悪感のようなものがチクチクとあるけれど、同時にかなりの安心感も覚えていた。
やっぱり、いつまでかかるか分からないひとみの治療と、金銭面の不安とを一人で抱え込んで、おかしくなっていたみたいだ。
自然と深く息を吐き出した。少し頭がスッキリとする。
「あ、兄ちゃんやっと普通の顔になった」
「ほんとだ」
「良かったよねー、変な仕事やらなくて」
「ひまりに感謝だな」
「う……それ忘れてくれなかったのか」
追及は、まだ続くみたいだ。
けど、俺も、気になっていることがある。
「なあ、二人も見てくれよ」
闇バイトのサイトを開けて、二人に見せる。
「え、兄ちゃんまだ……」
「違う!ひまりのパパのとこ!義賊募集みたいな表現だろ?」
「義賊……ネズミ小僧みたいな?」
「たぶん……この表現が気になってさ。ひまりのパパが悪者みたいだろ」
「確かに、そうだね」
三人で、うーん、と唸る。
「てか、これさ、警察案件じゃない?」
「はっ、言われてみれば」
優真に言われてハッとする。自分がやましい仕事を探した後ろめたさからか、その発想が出てこなかった。情けない。
「ダメだな、俺」
「兄ちゃんはいっぱいいっぱいになってたんだから、仕方ないよ」
「それに、ひまりがパパに言ったんじゃないか?賢そうな子だったし」
それもあるかもな、と、三人で頷く。
「ひとみにひまりちゃんの連絡先を聞いて、確認してからにするか。明日も俺、病院行くし」
「あ、そうしてくれる?兄ちゃん」
「それにしても義賊か。あんないい子そうな子のパパが悪い奴だと思いたくないなあ」
「そうだな。ただただ金持ちだから恨まれているだけかもな」
ああ、悲しいけどちょっと分かっちゃうなと三人で苦笑して、夕食の詰問タイムは終了した。
明日からまた、仕切り直しだ。
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