第3話 天使?との出会い に

「えっ、ひとみ?」


急にお兄ちゃんと呼ばれた事と、小さい女の子の声に思わずそう言って振り返る。


そこには、もちろんひとみではない、でも同じくらいの歳の女の子が立っていた。


「ひとみちゃん?」


「いや、ごめん、妹と間違えちゃったよ。君は一人なの?そろそろ帰らないと暗くなるよ」


「お兄ちゃん、わたしがわかる?」


「?お兄ちゃん、君に会ったことあるっけ?ごめんなー、ひとみのお友達かな?忘れちゃったかも。名前教えてもらえる?」


「!わたし、ひまり!森山ひまり!」


忘れてしまっていたことにがっかりされると思ったが、彼女は満面の笑顔で自己紹介をした。

素直でかわいい子だな。ひとみを思い出してしまう。


「……ん?森山?」


「そう!さっきお兄ちゃんが見ていたやつ、森山壮介って、わたしのパパなの!」


「えっ」


えええええええーーー!


「ほっ、本当に?」


「ほんとうだよー!」


マジか……。

さすがに妹の友達の父親だと……。


でもあれか?逆に怪しまれずに家に入れるんじゃないか?いやいや、さすがにクズ過ぎるだろ、俺。子どもを巻き込んじゃいかん。そもそも闇バイト見るのもクズか……。あ、何だかますます落ち込んできた……。


「お兄ちゃん?どうしたの?そうだ、ひとみちゃんは?いっしょにあそんでないの?」


「あ、ああ。ひとみは今、ちょっと病気でね。入院しちゃってるんだ」


「そうなのね。だからお兄ちゃん、そんなにさびしそうだったんだ。心配だね」


「……寂しそうに見える?」


「うん。だからあんなダメなやつ見てたんでしょ?」


「?!?!だっ、あれ、はっ」


動揺してカミカミになってしまう。


そうだ、最初彼女は後ろから声をかけてきた。その仕事を受けるのかとも聞いていた。このくらいの子が分かるとも思わなくて流していたが、どうやら賢い子どもらしい。


「そういうのにね、手を出すとロクなことにならないよ!#向こう__・__#に行っても苦労するんだから」


「向こう?」


「そう!それで?そんなお金でひとみちゃんはよろこぶの?」


「うっ、」


何、小学生に説教されてんだ、俺。

それに、そんなことは分かってる。貧乏人のひがみだろうが、金持ちの娘が何言ってんだって気持ちもある。

けれど彼女の素直な言葉は、なぜかすっと俺の心の中に入ってきた。


「あ、やっぱり兄ちゃんだー!公園でなにしてるの?ひとみは?」


俺が彼女に返事をしようとした所で、翔真がこちらに向かって叫んできた。もう部活が終わる頃そんな時間か。


もちろん優真も一緒で、二人でこちらに向かって小走りしてきた。


「こんにちは。君はひとみの友達?」


愛想のいい優真がひまりちゃんに気づいて声をかける。


「!うん!森山ひまりです」


「ひまりちゃんか。僕は優真。優兄ちゃんて呼んでね。で」


「僕は翔真。翔兄ちゃんで」


「わあ、ひとみちゃんはお兄ちゃんいっぱいいて、いいなあ!」


「ひまりちゃんは一人っ子なの?」


今度は翔真が声をかける。


「うん。ママね、ひまり産んで死んじゃったから」


「「「!!」」」


「でもね、お手伝いさんとかいっぱいいてね、寂しくはなかったのよ!ただ、お兄ちゃん、いいなって」


情けないことに年上男三人で黙りこくってしまい、小さい子に気を使わせてしまう。こういう所、男ってダメだよな。うちも、ひとみの方が気遣い屋さんだった。


「そうだったのか。じゃあ、今日から僕たちを本当のお兄ちゃんだと思っていいよ」


「いいの?」


「もちろん!ね!兄ちゃん、翔真」


「うん、もちろん」


「いいぞ」


「ありがとう!」


俺たちの言葉に、心から嬉しそうな表情を見せるひまりちゃん。うん、子どもは笑顔でなきゃな。

笑顔の子どもは、みんな天使だ。


「なあ、兄ちゃん。当のひとみは?」


優真が改めてキョロキョロ周りを見ながら聞いてきた。


「あ、ああ、実は……いや、アパートに帰ってから……」


「ご病気で入院だって」


長くなる話だし、小さい子に聞かせる話でもないし、彼女を送って来て帰ってから二人に話そうとしたのだが、当の本人に遮られた。


「そうだ。優兄ちゃん、翔兄ちゃん、お兄ちゃんに気をつけた方がいいよ!さっき悪いお仕事探してたよ!」


「わっ、こら、ひまり!」


慌ててしまい、呼び捨ててしまった。いや、それどころじゃない。


「あっ、その前に、学校やめるっていってたよ!お金がたいへんだから」


「待て待て待て待て。ひまり、いつから見てたんだ?」


「お兄ちゃんが公園に入ってきたところから!」


つまり最初からか。


「ほら、ひまりちゃん、人の内緒話は勝手にしちゃだめだぞ~?」


後ろから、弟二人のただならぬ圧を感じつつ、ひまりの口を閉じさせようと必死の俺。


「えー?ないしょっていわれてないもん!」


……確かに。


「いやでもな……」


「うん、兄ちゃん、後は家で聞くよ。ありがとうね、ひまりちゃん」


「そうだな。おうちまで送るぞ。ひまり」


なおも悪あがきをしようとする俺を、弟二人が羽交い締めをする。二人とも、ひまりにはいい笑顔だ。


「大丈夫!お手伝いさん近くにいるし、一人で帰れる!またね!」


ひまりはそんな様子を楽しそうに見た後、振り返ってさっさと走り出してしまう。


「ダメだよ!もう暗いよ!待って!」


優真が慌てて追いかけたが、もう彼女の姿は見えなくなっていた。


「はやっ、ひまりちゃん」


「大丈夫かな?」


「大丈夫じゃないか?お手伝いさんもいるみたいだし」


「そうだね。それで?兄ちゃんは、これから僕たちと大事な話だね?」


「……はい」


生意気天使にしてやられた俺は、素直に頷いた。



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