第2話 天使?との出会い いち
詳しい話はまた後日となり、一人帰路に着く。
ひとみはそのまま入院になった。当たり前か。
白血病と言ってもいろいろあるらしく、明日から検査してどのタイプなのかを判別するらしい。タイプによって多少治療方法が変わるようだから仕方ないけれど、小さい子には酷な検査だよなあ。
明日もひとみについていてやらないと。
そうだ、ひとみの小学校にも連絡して今後のことを……。それにあれだ、ひとみの着替えとか入院の準備をしなきゃだ。母さんの時は一瞬だったから準備も何もなかったけど、今回は長くなるもんなあ。パジャマにタオルに歯ブラシセットに……これだけ考えると、何だか修学旅行の準備みたいだ。
「ははっ」
思わず乾いた笑いが溢れる。
ひとみはいつか、修学旅行に行けるのだろうか。
「目的が違うだけで、こんなに気持ちが違うもんなんだな……。そりゃそうか」
そう一人言ちて、公園のベンチに座る。
ここからアパートまでは、もう目と鼻の先だが、真っ直ぐ帰る気になれなかった。
病院の事務さんの話によると、どうやらうちは医療費はかからずに済むらしい。それはとてもとてもありがたい。けれど、他の費用はどうしたってかさむ。これからキツイ治療を頑張るひとみに、準備が必要なものはちゃんとしてやりたい。
優真と翔真の部活も続けさせたいし。
二人とも野球をやっていて、どうやらかなり筋がいいみたいなのだ。今、中三の二人にはかなりの強豪高校からのスカウトが来ている。学費も免除してもらえるようで、こちらもありがたい。が、それだって雑費と生活費はかかる。
「やっぱり、高校辞めるか……」
母さんが亡くなった後、すぐに高校には退学の旨を話したのだが、高校くらいは頑張って卒業した方がいいと担任に説得され、しかも兄ちゃんが学校辞めたら僕らも高校に行かないと弟たちに言われ、今日まで引き延ばしていたのだ。
やっぱりそろそろ、学校が終わってからのバイトだけだとキツくなってきた。そうだ、今辞めれば、修学旅行の積立金も戻ってくるんじゃないか?
「あー、よく気づいた、俺。そうだ、辞めよう、高校。しかし金って大事だよな。高時給のバイトってもなあ。高校生ができるものなんて……」
そこでふと、今までだったら思い付かなかったであろう単語が頭に浮かぶ。
今流行りの『闇バイト』。
「いやいや、ダメだろ、人生終わるわ。捕まったら兄妹にも迷惑かけるし」
ーーーでも、捕まらなかったら?
「だから、ダメだろ、俺!」
ぶんぶんと頭を振る。
母さんの口癖は、社会に迷惑をかけるな、太陽の下を歩けなくなるようなことをするな、だった。
分かる、分かるけど。
そう頑張った母さんも、疲れたまま早死にしちゃったじゃないか。そもそも母さんみたいな人が、何であんな
あの責任全放棄のクズは、今でも太陽の下を歩いているんじゃないか?いや、クズ過ぎて無理かな。むしろそれでいいわ。
俺たちだって、頑張ったよ。頑張ってるよ。でも、どんどんどんどん、足元がグラグラしてくるんだ。これでもう、悪いことは続かない?頑張れば、もうこれ以上のことは起こらない?怖いんだよ、母さん。
お金があれば、少しは安心じゃないか。
そうだよね。
「見るだけ、見てみるか……」
高校生になって、母さんが買ってくれたスマホ。生活に余裕がある訳じゃないのに、必要でしょ、とプレゼントしてくれた。
それを思い出すと気が引けるけど……。
俺も、ダメになっちゃったかな。クソ親父似なのかな。
「うわ、結構あんだな……ヤバ」
頭ではぐるぐる考えながらも、指ではさくさくと検索する。何だかちぐはぐだ。
「強盗多いな。この前も殺された人がいたよな……さすがに人殺しは……あ、これは盗むだけ?」
後から考えれば、盗み目的で侵入したとしても、誰かと鉢合わせして怪我でもさせたら立派に強盗になるんだとか、そもそも闇バイトを見ているのに軽いも重いもないと突っ込む所だったけど、その時はもう、かなり視野が狭くなっていた。
「義賊……?悪徳金持ちから金塊を盗んで、困っている人に還元しよう、これは……」
ーーーいいんじゃないか?
ターゲットは森山壮介。不動産やら建築業やらを手広くやっている。あ!うちの高校の近くに豪邸あったな。そこの人か。なら……。
「ねぇ、お兄ちゃん、そのお仕事受ける気なの?」
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