第27話『過去を振り返り今を見る』
「あっははは、それで、そんな感じになっちゃってるわけか」
「お恥ずかしい限りです」
「全然大丈夫だよー。私も、到着ギリギリになっちゃったしお互い様ってことで」
集合時間には間に合ったけど、案の定……パッと見ただけでもわかるぐらい膨れ上がったお腹は、このまま体を動かせないほどになってしまっていた。
食べているときに覚悟はしていたけど、案の定
「それにしても、技術って凄いんだね~。スキル名を登録するだけで、それが反映して配信に声が乗らなくなるんだっけ?」
「というのも、配信ってリアルタイムに映像が届いているように見えて、若干の時間差があるようなんです。だから、それで処理がどうのこうのって感じみたいで」
「技術的なことはわからないけど、まあシンくんにとっては有益な情報だったんだ」
「はい、ありがたいことに配信を観に来てくれているだけでなく、コメントしてくれる人たちもいまして。それに、生活できるほどってわけじゃないんですけど、お金をいただるので」
「はは~、なるほど。基本的には配信って映像を流しっぱなしだから、副業としてはちょうどいいんだね」
「これはさっき思い付いたことなんですけど、パーティメンバーが人前に出る仕事をしていて。その2人のことを少しでも多くの人に知ってもらえたらいいなって。まあでも、俺なんかよりあっちの方が配信歴も長いし登録者数も多いみたいなんですけど」
「いいじゃんいいじゃん。みんなで支え合って活動する、それってすっごく楽しいことだし大切なことだと思うよ。私にはできなかったから」
最後の言葉を口に出した夏陽さんの横顔は、どこか寂しそうにも見えた。
「あっ、そういえばさ。シンくんって、前にパーティを組んでいて追い出されちゃった、みたいな話をしてたよね」
「は、はい」
「本当は、こんなのこと自分で解決するもんだし、誰かに話す必要なんてないんだってのはわかってるんだけどさ。でも、いつかは心を整理して蹴りをつけないと思うの」
「……」
「当然、言いたくないんだったら言わなくていい」
その話題に触れられるのは、正直嫌だ。
ましてや、親しくなった人に対して打ち明けるのも。
だってせっかく今の自分を知ってもらった相手に、自分の弱さを曝け出したくないし、恥ずるばかりの過去と向き合いたくない。
見えないように蓋をして閉じ込めていた、自分の過去と想いを。
でもこの話題を今するというは、その真意があるはず。
過去と向き合うことによって、弱い自分と訣別しなければ辿り着けない景色がある、という意味があるのだと思う。
だったら、その期待に応えなければ――ここで1歩を踏み出せるかどうかが、俺がこれから成長できるかどうかが決まるはずだ。
だったら。
「最初はなんてことのない、普通の始まりでした。みんな同じ武器なんて振り回した事のないような初心者で、毎日訓練し、毎日笑って過ごしていました」
「いいね、仲睦まじくって。にこやかに想像したくなる絵だ」
「でも、いつからだったんでしょう。俺は少しずつ強くなっていくモンスターが怖くなってしまって、みんなと一緒に前へ出ることができなくなっていたんです」
「まあ、そればっかりは人によるし、特に珍しい話でもない。誰もが通る、探索者を辞める理由になりえるものだ」
「ですが、俺はそこでへこたれることはなかった。なんせ、俺には武器を整備したり研磨できる道具と技術があったんで。戦闘では役に立たなくても、荷物持ちや荷物整理もしながらパーティの役に立てることを探してやり続けました」
「それは凄い。もしかして、いろいろなことを観察したり気づいたりできるのは、そういったところだったりするのかな」
夏陽さんは優しく相槌を打ちながら話を聴いてくれている。
そして、俺はこの話をしていて情けなくなってきた。
だってそうだろ、俺はそういって何かをしているできていると思い込んでいた。
やらなきゃいけなかったことはそこじゃない、そこじゃなかったんだ。
どうしてパーティを組んでいる、どうしてみんなと一緒に行動している――それは、みんなで足並みを揃えて強くなっていくためだろ。
なら、自分のやれることを探すより先にみんなへ相談するべきだったんじゃないか。
間違いなく、そうするべきだったんだ。
「だから、みんなは悪くないんです。俺が情けなかったから、弱かったから、そして仲間なのに相談すらしなかったから。みんなは待ってくれていたのかもしれないです。それを……必死になっているつもりで、一番信用しなくちゃいけなかった仲間を頼らなかった、俺が悪いんです」
「……」
「今この瞬間、俺はまだこのことを引きずっているのに気が付きました。実はさっき、パーティメンバーと顔を合わせたときに今やっていることだったり、夏陽さんに指導してもらっていることを言い出すことはできませんでした。楽しさを優先し、気を遣われるの恐れて」
「まあまあ、それはいいんじゃない? サプラーイズってことで。それに、自分たちが居ないときに女性と一緒に居ることが知られたら嫉妬されちゃってたかもだし」
「いやいや、そんなことはないですよ。でも、その考え方いいですね、サプライズ」
夏陽さんが場を和ませてくださっているけど……俺、あまりにも卑屈になりすぎだろ。
でも、それぐらいみんなに申し訳ないって思ってるし、こんな自分を許せないでいる。
「さっきも言ったけど、今日ここで心の整理をつける必要はないよ。吐き出して、向き合う。急に走り出す必要はない、たった1歩だけ前に進むだけで大丈夫」
「ありがとうございます」
「私もねー、やっぱり時々思い出すの。どれだけ自分が身勝手に振舞ってきてみんなを振り回したかを」
「そう……なんですか?」
「うんうん。リーダーにいろいろと叩き込まれた後、今まで観ていた景色がガラッと変わったの。それで、自分が思い込んでいたみんなの顔と、本当はどんな顔をしていたかを思い出したの。それはもう本当に後悔したよ。引きつってたし、ため息を吐いていた。私は話を遮っていたし、みんなの意見を反対して最善だって思う意見を押し通してた。力があるからって、誰よりも功績を上げているからってさ」
だけど、過去を遡って話しているその顔は、穏やかでも明るくもない。
思い詰めて後悔している表情そのもの。
「私も最初の頃はずっと思ってたよ。みんなに謝りたいって。シンくんも、状況は違えど同じ考えでしょ?」
「はい……」
「でもさ、過去は戻ってこないし、事実だから覆ることはない。そして、謝りたいっていうのはただ自分の心が軽くなるだけなんだよね」
「……」
「相手からしたら、今更謝られたところで知ったこっちゃない話だからね。だから、悩みや苦しみは忘れずに抱えたまま、歩き出して次に活かすしかないんだよ」
俺は、夏陽さんのように心は強くない。
次は失敗しないように怯え、自責の念に駆られ続けて足を踏み出せずにいる。
……でも、もしかしたら夏陽さんだってそうだったかもしれない。
だとしたら、いや、もしかしたら、俺も……。
「まあ、この話はこれぐらいにしておこっか。ここじゃ答えは出ない。私といるときじゃなく、シンくんが仲間と一緒に居るときじゃないと、あんまり意味はないからね」
「……はい、そうですね。夏陽さん、いい機会を設けてくださりありがとうございました」
「いいのいいの。私も随分とらしくないことを言ったな~って思ってるから。ここからは高みを目指して頑張っていこうじゃないかっ!」
「切り替え早すぎですよ」
「これも大事なことだぞー? パッと切り替えて、タッと動き出すの」
「それじゃわからないですって」
「そう? じゃあズシャズシャっと、ヤーッ! って感じで」
「夏陽さん、もっとわからないです」
「気にしなーい気にしなーい」
「午後もよろしくお願いします!」
「よしきたー!」
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