第26話『新情報を入手して身軽に』

「急に連絡しちゃってごめんね」

「全然大丈夫。ちょうど俺も休憩をしようと思ってたから」


 俺と春菜はるなは、ダンジョン施設付近のファミレスに居る。


真紀まきは都合が悪かったから来られなかったの」

「2人とも凄いよな。ちゃんと仕事もしているんだからさ。隊長の方は大丈夫そう?」

「うん、ちょっとだけ疲れたりしているけど、今日の夜には終わるから大丈夫」

「それでなんだけど、明日は休日にしてもいいんじゃないかなって思ってさ」

「その提案は却下。当然、真紀も同じことを言うと思うよ」

「でもさ、今は動いていたりするから疲労を感じていないだけで、終わったらドッと来るかもよ?」


 元々の考えは、春菜と真紀が休憩しての午後からスタート。

 でも、今となって春菜の顔を見ると、予定のせいで本調子じゃないのにダンジョンに入ったら危ないかもしれない――と、いう考えに変わった。


「たしかに休憩は欲しいなーって思うけど。だけど、午後からなら問題ないない」

「本当に大丈夫そう?」

「体調の方はわからないけど、それ以外のことがダンジョンに行きたい理由でもあるから」

「それ以外?」

「愚痴っていうわけじゃないんだけど、周りの人は大人ばっかりじゃない? そうすると、気を遣ったり遣われたりするんだよね。だーかーら、ダンジョンでストレス発散! 的なっ」

「あー……それが理由だったら納得できちゃうな」

「でしょでしょっ。だから、私たちが足を引っ張っちゃうようだったら、あんまり進まない感じにしてもらえるとありがたいなって」

「そうだね、わかった。当日は休んでも大丈夫だし、そのときの体調でやることを決めちゃおう」

「ありがとーっ、さすがリーダー!」


 話が一段落いちだんらくしたところで、注文した料理の数々が運ばれて、食事の時間が始まる。


「で・す・が、ここで朗報です」

「ん?」

一心いっしんくんは、昨日も今日もダンジョンで練習していたりするんでしょ? だから、私たちも何かできないかなーって考えていたの」

「仕事中に?」

「大丈夫、休憩時間とか真紀まきと連絡を取り合っているときだけだよ。でも、最初はどう考えても手詰まりだったの」


 それはそうだ。

 ネットで調べたりすれば、いろいろと探索者やダンジョンについての情報は出てきたりするだろう。

 だけど正確な資料や情報は、探索者組合やダンジョン関連施設に集まっている。

 なら、仕事の合間を縫って情報を仕入れるにも早い段階で限界になってしまったはずだ。


「そしてらまさかのまさか。配信系のアイテムである、ブレスレットのお店と掛け持ちのアルバイトをしている人が居て」

「凄い偶然だね」

「そうそうっ。それで、私たちには有力な情報じゃなかったんだけど、一心くんにはかなり役立つ情報を貰えたの」

「何それ」

「なんと、まさかの! 自動でスキル名を配信に音声として取り込まない設定があるんだって!」

「な、なんだってー! ご、ごほんっ」


 あまりにも予想外な情報が出てきたものだから、変なリアクションをしてしまった。

 しかも、いつもより声が大きくなってしまい、恥ずかしくなって咳払いをせずにはいられない。


「もう配信をしちゃってるから今更感はあるんだけど、何やら聞いた話、探索者で配信をしている人たちの大半はスキルを持っていない人たちなんだって。そして、そういう人たちってスキルガチャを回しに行くのも慎重らしい」

「他人にスキルを聞かれると、よくない状況になりかねないから」

「そうそう、そういう話だったよ。でもそうだよね、話の続きにもあったけど……ダンジョン内で人に襲われないっていう保証はないってね……だから、証拠として配信を積極的にやっている人もいるんだって」

「……それはそうなのかもね。それこそ、人通りが多いような第5階層とかはほぼ安全だろうけど、そこから先、さらに先に行けば行くほどその危険性は増していくということだもんね」

「一心くんより先に探索者として活動していたけど、そんなことは全然頭になかったよ。真紀はわからないけど、少なくとも私はストレス発散とか小銭稼ぎみたいな感覚でいたから」

「でも正直、モンスター以外にも敵がいるかもしれないなんて考えたくはない話だからね」

「うん……」


 夏陽かやさんからも教えてもらっていた通り、いずれはこういう話題に行き着いていたんだろう。

 俺から話題を切り出したり、実感を持ってもらうのは難しいような内容だったし、複雑な心境ではあるけどこれはこれでよかったのかもしれない。


「まあでもよかったよ。スキル名が配信上に乗らなくなるだけで凄い有益な情報だよ」

「喜んで貰えてよかった。あー、私も思いっきり体を動かしたいなぁ。一心くんは、この後もダンジョンに行くんでしょ?」

「うん、そのつもり」

「いいなぁ~いいなぁ~。あの真紀も、珍しく叫んでたよ。『あー! 今すぐダンジョンに行きたい!』って」

「あんまり想像できないけど、それほど仕事が大変なんだね」

「まあねぇ。お金のためにやっているというのもあるけど、まあやっぱりやりたくてやってるからね。小さい頃からの夢だったから、それを叶えて終わるんじゃなくって、もっともーっと上を目指したいからね」

「いいね、俺も応援しているから」

「あっりがとーっ! よーしっ、午後の仕事も頑張るために食べちゃうぞー!」

「いやいや、さすがにそれは抑えないとダメでしょ」

「やっぱり?」

「だって春菜、モデルでしょ?」

「はいその通りです」

「なら、自制してください」

「わかりましたリーダー! では、こちらのお料理たちをお任せしたいと思いますっ」

「え、マジ?」

「マジ!」


 俺は開いた口が塞がらない。

 なぜなら、自分で頼んだオムライスを食べているというのに、両手を広げて任された料理は……カルボナーラ、ハヤシライスと主食が2つもあるのだから。


「あ、一応なんだけど」

「ん?」

「もしもなんだけど、集合1時間前までにそれぞれの連絡がなかったら欠席扱いにしとかない?」

「さっきのそんな感じになってたし、それで大丈夫だよ思うよ~。私も真紀も、今はこんなに燃え上がっているけど、当日になったらわからないし」

「それじゃあ、そういう感じで」

「はいはーい」

「じゃあ……目の前にある絶壁に挑みますか」

「フレーフレーシンくん、フレッフレッシンくーん」


 くっ、自分で頼んでおいてめっちゃ他人事じゃん、とツッコミを入れたいところだけどやめておこう。

 仕事に支障が出てほしくはないし。


 この後、とんでもなくお腹が出た状態で夏陽かやさんと合流するのか……絶対に笑われるだろうし、休憩を入れてもらわないといけないな。

 夏陽さんごめんなさい、注文前に止められなかった俺の責任です。


「ありがたくいただきます」

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