第25話『急に急で急な』

「――レッツゴー!」


 夏陽かやさんが連れてきてくれたモンスターとの戦闘。

 モンスターは蝙蝠型のモンスター【モバット】4体。

 そもそもの話としてスキルを使用するまでもないモンスターだけど、今はいつも通りの戦いじゃない。


「え、嘘?」


 剣で最初の1体を攻撃しようとしたのに、俺を囲むように飛んでいる光の破片が【モバット】の進行を自動で防いでしまった。

 そして、もう1体、もう1体――と。


「シンくん、それって自分の意志?」

「ち、違うんです。自動で動いているような感じだと思います」

「ほえー、自分の攻撃する邪魔にはならないのかな?」

「やってみます!」


 大きく振り回せば、間違いなく浮遊している破片に当たってしまう。

 だけど、今は試行錯誤中だから、あえてそれをやってみる。


「はあー!」


 振り下ろしている最中、肩がガクッとなる覚悟をしていたんだけど――そんなことはなく、見事に1体目の【モバット】に攻撃が命中して討伐完了。

 残り3体。


「はえー、攻撃の邪魔もしないんだね。じゃあ次は、その破片1つ1つがどれぐらいで壊れるのかを試したいのと、移動はできるのかな?」

「――う、動けるみたいです」

「わーお。自動防御に自動追尾ってわけか、凄いね」

「あとは、このまま止まっておきます」

「そうだね。長引きそうだったら追加で連れてくるからー」

「わ、わかりました」


 本当に、この作業をするために人目が無い場所を選んで大正解だった。

 スキル開発しているのを見られないため、という意味でもあるけど……今の、モンスターから攻撃されているのに反撃もしないで耐え続けるという異様な光景を目撃されないで済む。

 もしかしたら人によっては事情を知らないから、助けるために飛び込んできてしまう可能性だってあるわけだし。


 客観的な視点は夏陽かやさんが担ってくれているから、俺は主観的な観察と考察をしなければならない。

 間違いなく夏陽さんは有力な情報を掴んでくれるのだから、自分にできる精一杯で応えなくっちゃ。


「……」


 こうやって冷静に結界部分を観ていると、本当に現実とは思えない光景になっている。

 なんせ、自分の意思とは関係なく自動で防御してくれているし、最初のスキルと違って1撃で壊れてない。

 あまりにも使い勝手がよくなりすぎている。

 しかも攻撃をするときに妨害しないよう空間を開けてくれるときた。


 範囲はどれぐらいなのだろうか。


「――」


 意識して目線を動かして範囲を広げるイメージをしたとしても、正直変わっているような気はしない。

 であれば前回はできなかった、スキルを発動中に仲間を範囲内に迎え入れたり、攻撃と防御が同時になる場合はどうなるんだろうか。


 あ、攻撃と言えば忘れちゃいけない、試さないと。


 空中に意識を集中し、手を伸ばす――すると、前回と同じように手が空中に吸い込まれるように消え、光の断面が姿を現した。


「とりあえず、剣を。そして、もう1本は刀を」


 最上級者である夏陽かやさんが指導してくださるなんて、千載一遇のチャンスでしかない。

 こんなありがたい状況下で、呑気に構えてはいられないんだ。


「結界の耐久値と武器の耐久値を把握する」


 意見交換がまだだから、ただの仮説でしかない。

 夏陽さんは、スキルは精神が大きく作用すると教えてくれた。

 最初のであれば、結界の耐久力と武器の耐久力と威力がたぶんそれに該当するはず。


 じゃあ、今回だって引き継ぐところもあれば、新しく反映される場所が増えていると考えるのが自然。

 であれば、最も重要であり試しやすいのがこれになる。


「……観ている景色は同じはずなのに、心が落ちついているだけでこうも変わってくるものなのか」


 結界は、正直放置している。

 夏陽さんを頼っている、というのもあるが、結界は1枚で攻撃を防ぎ続けているというわけでもなく、次々に入れ替わったりしているから判断が難しくなってしまった。

 目線を話していたときがあっただろ、と夏陽さんにツッコミを入れられたら謝る以外ないんだけど。


「それとも心が落ちついているからなのか、それとも新しい形のスキルになったからなのか」


 最初のスキルを使用していた感じでは、光剣などの武器は自ら光を放って……そう、光を放ち続けていた感じ。

 だから、剣身などの細部まで確認できず、既存の武器名称だけを借りただけみたいになっていた。

 剣である何か、刀である何か、斧である何か、槍である何か、のように。


 そういえば、初歩的なことなのにまだ確認してなかったことがあるな。


「よっと」


 光武器同士をぶつけたらどうなるかを試してみたけど、あら不思議。

 自分では武器を握る、ということができるから、物理的に接触ができるものだと思っていたけど……すり抜けてしまうのか。


 触っているのにぶつからない。

 なんだか幽霊みたいな物質って感じがして、本当に不思議すぎる――まあでも、そもそもスキルというもの自体が不思議なものなんだから『それはそうでしょ』ということか。


「あ」


 ちょうど攻撃されている方向へ目線を動かすと、1枚の結界が光の破片となって砕け散った。

 そしてもう1枚、もう1枚と。


「夏陽さんごめんなさい! 試したいことがあるのでやってみます」

「はいはーい」


 攻撃と防御が重なったとき、どちらが優先されるのかを試す。

 まずは右の剣から。


「はっ!」


 違和感や止まることなく、光剣は【モバット】を斬り裂いて――。


「え。ならこのまま!」


 まさかの武器が1撃で壊れなかった。

 ならこのまま次は姿勢を戻し、ぎこちなくても左の刀で。


「わからん」


 少しだけタイミングがずれたのはわかったけど、左の刀はいつも通りに砕け散ってしまった。

 じゃあ、最後の1体は右で。


「わからん」


 さっきは壊れなかったのに、今度はいつも通りに粉々に砕け散っていってしまった。

 当然、【モバット】はしっかりと討伐できている。


 そして、スキル解除を心の中で宣言。

 これはよくわからないけど、前回と違って勝手になくならないからやってみただけ。

 最初のスキルでも試せばよかったけど、こんなに長持ちしなかったから思いつきもしなかった。


「シンくんお疲れ様ー」

「ありがとうございました」

「ここで情報交換したいところだけど、そろそろお昼の時間だから一旦戻ろっか」

「そうですね、わかりました」

「とは言っても、歩きながら話すけどー」

「ですよねー」


 そして俺たちは地上へ向かって歩き出す。


「見ていた感じ、常にシンくんを中心にするよう追従して防御する、これがスキルの特性だと思う。だけど、何回ぐらいの攻撃を防げるとかは未確定って感じだね。5回ぐらい攻撃を防いでいるものもあったけど、3回ぐらいで壊れちゃってたのもあったから」

「なるほど、そうだったんですね。俺、途中からどれがどれかわからなくなっちゃってて」

「まあまあしょうがないよ。全体の枚数もわかってないし。それに、シンくんも何やら試していたよね?」

「はい。今更なんですけど、武器同士をぶつけたらどうなるのかなって。そして、攻撃と防御が重なったときにどちらが優先されるのかが気になりまして。あとは、防御が優先された場合、結界と武器はどうなるのかとか」

「ほほーう、それは凄いね。それで、どうだったの?」

「結果は、武器同士は接触しませんでした。貫通と言いますか、接触する瞬間に透過しているような感じでした」

「はえー。それ、私が1番欲しい効果だ」

「あーたしかに。夏陽かやさんだったら上手く使いこなせそうですね」


 夏陽さんのスキル、体と武器を繋いでいる線は絡まらないようだけど、武器同士はぶつかったら弾かれちゃうんだろうな。


「それで次は? 私も、その一部始終は観ていたんだけど不思議な感じになってたから気になってた」

「それが、本当にその通りでして。なんとも言えない結果になってしまってたんですよ。1撃目は武器が砕けることはなく、2撃目は砕け、3撃目も砕けてしまったんです」

「ふむふむ、なるほどなるほど。じゃあ私からの目線で話すね。大体はシンくんが言っている通りだったんだけど、1撃目が凄かったよ。なんかこう、防御と攻撃が完全に一緒になってたの。たぶん、正しくは攻撃を防いだ結界が剣に吸収されたって感じ」

「え、なんですかそれ」

「んお、ちょうどいいところにモンスターがいる」


 正面に、さっきと同じ【モバット】の姿が。


「こう、攻撃が当たる瞬間に結界と剣が一体化した、って言えば伝わるかな」


 と、夏陽さんは少しゆっくり目に【モバット】へ剣を振り下ろした。

 当然、1撃で消滅。


「防ぎながら斬った、って言った方が伝わりやすいかな?」

「なるほど、なんとなくはイメージが付きます」

「それで、これは仮説なんだけど」


 視界にモンスターの姿がないことを確認し、再び歩き出す。


「結界の方は全然わからないんだけど、その現象はなんとなくね。剣が壊れなかったのは、結界が剣に吸収されたからなんじゃないかな」

「え?」

「なんかこう、ゲームとかであるじゃん。残機ざんきシステム? みたいなのってあるじゃん。失敗して良い回数的なやつ」

「あー、ありますね」

「元々の武器が残機0。でも、結界を吸収して残機1になったんじゃないかなって」

「そうなるとあの瞬間に、しかも無意識にそれができてしまう……ということになりますね」

「そういうことになるね。だけど、この仮説だと納得できるかなって」

「たしかに納得はできてしまいますね」

「最初のスキルは、“一時的な作業場”という感じで今は“攻防一体の作業場”って感じになるのかな」

「攻防一体の作業場……なんだかおかしな感じになってきてますね」

「鍛冶師――いいんじゃないかな。『己の武器は己で鍛えて、己の戦場は己で整える』って感じで。まるでリーダーみたい――おっと、最後の一言だけは聞かなかったことにして」

「は、はい」


 入り口からそう遠くなかったから、すぐに辿り着くことができた。


 そして、端末を起動。

 歩きながら連絡先を指定し、内容を考えながら歩こうとしていたんだけど。


「え」

「どうかしたの?」

「『そこまで時間の猶予はないんだけど、これからお昼を一緒に食べない?』――って連絡が」

「何、彼女?」

「いいいいいえ、違います! パーティメンバーです!」

「なるほど。で、どうする? その場に私が居ると、いろいろとマズそうだけど」

「……どうしましょう」

「お昼の時間だけなら、私は全然平気だよ。せっかくだし、行っておいで」

「ごめんなさい、ありがとうございます」

「いいのいいの。それじゃあ、集合は――14時ぐらいにまたここで大丈夫?」

「はい、よろしくお願いします」

「それじゃあ、楽しんでおいでね~」

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