第23話『試行して実践して無限大』

「ですが、どうしましょう……」


 流れに身を任せていこう、と思ったけど、自分の名付け方が壊滅的なことはなんら変わらない。


「新しくスキルを開発する、ということだと思うのですが……練習をしていく、そしてそれを習得したものが具現化するということですよね」

「大体はそんな感じだね。だから、名付ける最初が一番肝心かも」

「うへぇ」

「どうかしたの?」

「こんなタイミングで申し訳ないのですが……俺、ネーミングセンスが皆無でして」

「あー、なるほどなるほど。わかるわかる、わかってあげられるよその気持ち。私も最初はとっても苦戦したからね。だからといって的確なアドバイスはできないんだけど」

「皆さんのスキルから考察するに、言葉になるイメージがそのままスキルに反映される、ということで間違ってないですか?」

「うんうん、その通り」


 そうなると、ここで考える方向性としては名前を考えるというより、何かしらの現象……つまり、名称を考えた方がいいってことかな。


「でも今思えば、シンくんのスキルって2段構えみたいな感じだったからどうかわるかはわからないけど」

「たしかに……」


 自分のスキルを活かせるのは前提条件として、今欲しいのはやっぱり防御面。

 攻撃手段に使える、武器を取り出したり鍛錬することはそのままできるはず。


 この案に確証はないけど、紅城あかぎさんの基準となっているのは紅の盾。

 でもこれは盾が主軸となってはいるが、紅という部分にその役割が含まれているのだと思う。


 義道ぎどうさんも、スキルを風のように使ったり、仲間を強化するようなスキルだった。

 これも、暁という部分が風などの役割を含んでいるからこそ、その派生としてスキルを構築しているんだろ思う。


 だとすれば、俺の元となるスキルは聖域でありワークショップの部分で……ん?


「あの、機密情報だというのは重々承知しているのですが、夏陽かやさんのスキルって『舞』とか『舞う』をそのまま『まい』や『まう』という感じですか?」

「うんうん、そうだね。だから、他の名前でも……ほほ~、そこに行き着くんだね。私だってそれに気づくのにかなり時間がかかったのに」

「え、そうなのですか?」

「そうなんだよ。私は、今シンくんが気づいたことの通りだから、全然違和感なく過ごしてたの。だからこそわからなかったんだけど」

「ああ、たしかに。当事者じゃないとあんまりピンとこないですもんね」

「まあ、ここからは本当に言えないからごめんなんだけど。でもね、それは正解だと思うよ」


 今の話から確定できた情報は、俺のスキルは『聖域せいいき』と『ワークショップ』の2つで1つのスキルとも言える。

 だから、聖域の方を強化するスキルにもできるし、ワークショップの方を強化することもできるということ。

 もしかしたら、聖域を防御以外にも使えるのかもしれないし、ワークショップをもう少し別の使い方ができたりするのかもしれない。


「スキルガチャなんて、そんなものなんだよね。1つの呼び方しかないのに凄いスキルもあるし、シンくんとかみたいに実質2つのスキルを手に入れている人もいる。だけど、ヒントなんて誰もくれないから気づかない人もいるし、自力で辿り着く人もいる」

「本当に神様がダンジョンのモンスターへ抵抗するために与えてくれたスキルガチャだというのに、なんとも言えない気持ちになりますね」

「ねー」


 しかし、どうしたものか。


「正直、ネーミングセンスはないんですけど欲しい効果はあります」

「ほうほう」

「今のところ、攻撃面は不足していないと思っているのですが、どうしても防御面が不安なんです。見ていただいた通り、ある程度どんな攻撃も防げるのですけど、どんな攻撃でも1撃で壊れてしまうので」

「あー、たしかにそうだね。じゃあ、あの盾を参考にしてみるといいんじゃないかな」

紅城あかぎさんのですか」

「そう。でも、シンくん的には前方からの攻撃を防ぐだけじゃなく、たぶん今のを維持したいって感じだよね?」

「そう……ですね。欲張りだとわかっているのですが、メンバーも護ることができたらいいなって」

「それはたしかに欲張りさんだね~」


 戦闘技術が向上したり、スキルが強化されたからと言って、俺自身……いや、心が急成長するわけではない。

 もしものとき、頭の中が真っ白になってしまうかもしれないし、【トガルガ】みたいな強力なモンスターと対峙したときのことも考えておきたいから。


「ん~、結界のような感じになるってことだもんね~。光の壁……輝く壁……閃光、あ!」

「ど、どうしましたか」

「閃光ってそのまま、光るって今の結界のイメージじゃない? そして、柔軟な頭を意味する閃くってシンくんを現しているような言葉だと思うの」

「【閃界せんかいのワークショップ】――いいですね、いいですね!」

「おぉ、いい感じなんじゃない!?」

「夏陽さん、ありがとうございます!」

「スキル【閃界せんかいのワークショップ】かぁ~、いいねぇ~」


 神様が居るとして、スキルガチャが本当にそのままの意味で用意されたものだとして。

 この言葉遊びみたいなことが、本来の用途なのか、はたまたイレギュラー的なものなのか。

 どうしたって確認できる相手はいないんだけど、天罰が下っていないのなら大丈夫な範囲ということにしておこう。


 なんせ、最前線の【暁天ぎょうてんの導き】の皆さんがやっていることなんだし。


「そうそう、ちなみになんだけど。スキルの強さとかって精神面が大きく関与するものだから、何をするにしても意思を明確に、目標を見失わないことが重要になってくるよ」

「え」

「だからこそ、新しいスキルの使用方法を手に入れるのが大変なんだよね。何回も失敗するし、焦ったりすればするほどスキルに拒絶されたりもするから」


 あ、あれ。

 ということは、もしかしてのもしかして。

 スキルの結界が1撃で壊れてしまっていたのは、俺の精神的なところが弱かったから……ということ……?

 戦闘の場数が少なく、精神的に落ち込んでいたとはいえ、もしもそれが本当だったとしたら結構ショックなんだけど……。


「よしじゃあ、やってみよう」


 いつも通り、少しだけ腰を落として、拳を握った右手を前に左手を添える。


「はい! 【閃界せんかいのワークショップ】――ですよね」

「まあ、これが普通だから大丈夫」


 例を見せてもらったからこそ、発動すらしないことに違和感も疑いもない。


「それそれ、じゃんじゃんいこー。一応、酷いときは吹き飛んだりもするから」

「な、なるほど……【閃界せんかいのワークショップ】」

「はいはいどんどん」

「【閃界のワークショップ】」

「あーよいしょ」


 夏陽さん、俺はわんこスキルをやっているわけじゃないんですよ?


「【閃界のワークショップ】――っわ!?」


 本当に、スキル発動時に吹き飛ばされてしまい、お尻を勢いよく地面に叩きつけてしまった。

 どちらかといえば、弾かれて飛ばされた、という方が正しいのかもしれない。


「そうそう、そんな感じになるのが何回もあると思う」

「前もって教えてくださりありがとうございます。痛ってぇー」

「まだまだー!」

「やってやりますよ!」

「その意気だー!」

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