第22話『復習して思考して可能性』
「さて、じゃあさっそく本題にっと」
「よろしくお願いします」
今までのやり取りから、その様子はこれから伝えようとしている言葉を整理しているのだろう。
「戦闘力向上ってなんだか難しそうに聞こえるけど、実は至ってシンプルで経験の差って話なんだよね」
「もちろん、戦闘技術を磨いたり勘を頼ったりすることもある。でも、一番はどんな戦いだったとしても実戦の場数を踏んだ方が強くなるスピードは速い」
そのまま、拳を突き出したり、体を左右に逸らしたりしている。
「特に大事になってくるのは、相手の攻撃を見極めること。これは、回避能力を高めるだけではなく、攻撃のチャンスが生まれるということでもある」
「回避は攻撃にもなり防御にもなる、ということですね」
「理解が早くて助かるー。そして、見極めるということは同時に相手の動きを観察して癖を見つけたりすることができるんだよ」
「得意不得意やパターンを探るということですね」
「そうそう、そういうこと。一番わかりやすい話をすると、右手で剣を構えている人間に対しては左側に回ると攻撃を回避しやすいし隙を突きやすいってな感じで」
「相手の死角を狙い、反撃のタイミングを計る、と」
「理解力高すぎて助かるんだけど、そこまで簡潔に言語化されちゃうと教える意味がないような」
「いやいや、そんなことはないですって。ヒントを貰って、自分で解釈しているだけなので」
夏陽さんは背中を丸めて盛大なため息を零している。
若干気怠そうに見えるけど、その理由を深く考える必要はなく、きっとそのままなんだと思う。
「さて、後は実践をしていこう。と、言いたいところなんだけど。本題はここからなんだ。シンくんも軽く体を動かしておいた方がいいよ」
「え、あ、はい」
見様見真似でシャドーボクシングはできないから、俺はとりあえずその場で軽く飛び跳ね続けてみた。
「スキルガチャってあるでしょ? あの、神様が人間にダンジョンへ抗うための最終奥義的な感じで世間一般的に広まっている、あれ」
「はい」
「あれって、本当のところはどういうつもりなのかわからないし、勝手に人間が美化しているだけかもしれない。しかも、そもそも論として本当に神様の代物なのかも仮説でしかない」
「そういう言われると、まあそうですね」
「私たちも結論に行き着いたわけじゃないんだけど、わかったこともある。それが、スキルの使い方」
「たしかに、皆さんのスキルは俺なんかより常軌を逸していると思います」
「向上心……というか、私たちに向ける観察力はかなりあるシンくんなら、何か気づいていることがあったりするんじゃない?」
気恥ずかしいような言われている気がするけど……思い当たる節はある。
常軌を逸したスキルの披露会だった昨日、思うことはあった。
そして……。
「世間一般的には1つしか所有することができないスキルが複数個あった」
「ははーん、やっぱり見込み通り。着眼点が素晴らしいね。つまり、私たち――というより、リーダーが導き出したものなんだけど」
「え? ということは、何かの手段を用いると複数個のスキルが本当に所有できるんですか?」
「のんのんのん。まだ探せる点あるはずだよ。答えに最も近いものが」
あの迫力あるスキル、圧倒的な攻撃力や防御力。
それらは圧巻の一言。
両者共に激しい動きはなく、冷静にスキルを使用していた。
他に注目するところ……? 無駄のない動き、服装、防具? スキルの豊富さ……ん?
「義道さんが使っていたスキルが、【暁の導き】【暁の軌跡】。紅城さんが使っていたスキルが、【紅の盾】【紅の断絶】。どちらにも共通しているのが、名前の一部を流用している……?」
「うわー、嘘でしょ大正解。私が話を振ったんだけど本当にそこ気付いちゃう?」
「ここでは神様ってことにしておくね。それで、神様はどう考えているのかわからないけど、リーダーは言葉の豊かさと可能性を人間に求めているのではないかって。正直、最初は『この人、いよいよ頭がおかしくなったんじゃないか』って思ったんだけど、言われた通りにやってみるとあら不思議」
「神様相手に確認はできないですけど……実際にできたということは、そういうルールがあるんですかね」
「まあでも、言うのは簡単なんだけど現実はかなり難しくってね。それを、まずは実践して体感してみようって話なの」
「なるほど、そういう理由があって人目が無いような場所に来たんですね」
「お察しの通り」
夏陽さんは、『スキルを他人に観られるのは、あまり好ましくない』、そう言っていた。
しかし、俺は既に配信でやってしまっているから、耳が痛い話なんだけど。
でも、スキルのバリエーションが増えてきたら変わったり……?
「【舞う
「なるほど、こういう感じになっていたんですね」
「名前の由来は、『花が剣のように舞い上がるように』って感じ。剣と手や指にワイヤーみたいな線が繋がっていて、物凄く自由に複数の剣を振り回すことができるの」
「まさに、回避が防御でもあり攻撃でもあり、防御が攻撃でもあり、という感じなんですね」
「そうそう、そういうこと。だから、この戦闘技術を教えるのは私の得意分野ってことなの。逆に言ったら、それ以外の――盾を使った近接戦闘とかっていうのは私じゃ教えられないんだけど」
夏陽さんの剣は、もはや剣自体に意思が宿っているかのようにも見える。
「そして、私のバリエーションにない感じにスキルを使ってみると――【天剣の舞】――っと、こんな感じになっちゃうの」
夏陽さんがスキル名を言葉にして、握っていた剣が少しだけ光った後すぐに光が粉々に砕け散っていった。
「だから、スキルを手に入れることができた人でも、最初にスキルを発動できた名前でしか呼ばなくなるの。戦闘中にこんなことになれば大変なことになるからね」
「……なるほど。理屈とかは理解できませんが、なんとなくわかりました」
「じゃあ、試しにやってみよっか」
「わかりました」
とかすんなり受け入れてるけど、名前を付けるってだけでもかなりハードルが高い。
無駄に考えずに使えって状況なのはわかっているけど、難しいものは難しい。
スキル【
「【守護の
いつも通りに右手を前に出して、いつも通りに結界が展開――しかし、すぐに結界が粉々に砕け散っていった。
流れでそのままやってみたけど、見た目的には反動があってもおかしくない感じだった。
なんかこう……結界の砕け方も、いつもの攻撃されて砕ける感じではなく弾かれるように砕けた感じだったし。
「なるほど、こういう感じなんですね。たしかに、こんなことが戦闘中に起きたり、何回もこんな感じになるんだったら試そうと思わなくなりますね」
「そうそう、そういうことなの。こればかりは体験してみないとわからないからね。ちなみに、自分のものにできる目安や条件はあるのですか?」
「あると言えばあるんだけど、ないと言えばないんだよね~」
「えぇ……」
「わかるっ! 私も、最初はその気持ちだったから痛いほどわかってあげられるよ」
「でも、それをこれから試していく。ということですよね」
「さすがの察し力! ということで、このままじゃんじゃんやっていこー!」
「お手柔らかによろしくお願いします」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます