俺だけ開ける聖域《ワークショップ》!~ガチャで手に入れたスキルで美少女達を救う配信をしてしまい、ダンジョンの英雄としてバズっただけではなく、追放されたパーティにざまあして人生大逆転!~
第27話『変わらなきゃいけないと、わかってる』
第27話『変わらなきゃいけないと、わかってる』
「――という感じのことがあって、いろいろと凄いことになっちゃったんだ」
「あまりにも非現実的すぎて理解が追いつかない……」
「わかる。私達もあの時は理解するまでに時間が掛かったもん」
「うんうん。私なんて、なにかのドッキリ番組かなって思いかけたもんね」
タレントを試すなんて、業界的にエンターテイナーというわけなんだろうか。
もしも自分が逆の立場だったら、と考えるとあまりにも怖すぎる。
だけど、2人ともなにかを隠しているような気がする?
「その1件で、2人はお偉いさん方になんて言ったの?」
「それは……あれだよ。こう、カッコいい感じに言い返したの」
「気になるんだけど」
「いいの。
「えぇ……」
「細かいことは気にしないとして。一心くんって普段はどんなことをしてたりするの? 家に帰らないとダメな理由とかってある? ペットを飼ってるとか」
「いいや? 特に帰らないといけない理由はないよ」
もしものことがあったら、と考えて家を出る時はガス栓を締めてブレーカーまで落としている。
鍵は全部閉めてるし、確認されたようにペットを飼っているわけでもない。
誰かと予定……はないし、数日家を空けるとしたって問題ないし……可能性としてあるとすれば、
「私達もこれから数日はお仕事がないの。だからってわけじゃないんだけど、ダンジョンのもっと先に行こうって相談なんだけど」
「え、それって俺達でも大丈夫なの? どう考えても簡単ではなさそうなんだけど」
「たしかに、ちょっと大変ではあるかも。ちなみに目的地としているのは第6階層なの」
「私達がバラバラだったら、たぶん無理だと思う。だけど、今ならみんなの力を合わせればなんとか行けると思う」
「否定ばっかりはしたくないけど……大丈夫なのかな」
自分でも言っている通り、可能性を自ら切り捨てるのはもったいない。
せっかく誘ってもらっているし、そんな考えは間違いなく自分だけじゃ出てこないもの。
チャンスなのはわかっているんだけど、やっとモンスターとの戦いに恐怖心が薄れてきたというタイミングで大丈夫なんだろうか。
強くなりたい――そう思ったのは確かだけど、身に余る挑戦なんじゃないか……。
「正直に言うと、あまりにも未知すぎて怖い。普通の人が3人だったら、そういう挑戦をしていい頃合いだと思う。だけど、俺は……」
「うん、わかってるよ。だから強制じゃない。一心くんが嫌だっていうのなら、別のタイミングで全然大丈夫だよ」
「私達はパーティなんだから、互いの意見はちゃんと尊重し合う」
「……」
こんな、常にリスクばかりを考えてウジウジしているから、強くもなれず成長もすることができずに前のパーティを追放されたんだろ。
自分の欠点を、ちゃんと自分で理解できているじゃないか。
だというのに、また同じことをするのか? 自分を命の恩人と言ってくれた2人に気を遣わせて? 情けなく新しい1歩も踏み出せないっていうのか?
……俺は、誰のために強くなりたいと決心したんだ。
「もう1度、いや、何度も言うけど、俺は怖い。怖くて怖くて心配で仕方がない」
「うん」
「だけど、ここで踏み出さなくちゃいけない。踏み出さないと、今までみたいに足を引っ張るだけの存在に成り下がる未来が簡単にみえる」
「大丈夫」
2人は、優しく頷いてくれている。
きっと俺の心境が複雑で、言葉に詰まっているのを気づいているんだと思う。
だってのに、俺は目線を合わせては逸らして……今も尚、できない理由を探して言い訳を考えている。
この光景をもしも配信していたり、誰かが観ていたとすれば、なんと滑稽な光景が広がっていることだろうか。
……なんて優しい人達なんだ――って、甘えてちゃいけないんだ。
「……だからさ、こんな俺だけど。こんなリーダーで申し訳ないんだけど、2人の手を貸してほしい。不甲斐ない俺と、一緒に戦ってほしい」
「もちろんっ」
「当然。私達はパーティなんだから」
「
もしかしたら、自分からこんな感じに意見を言ったのは初めてかもしれない。
前のパーティで扱いが雑だったから、というわけではなく、前のパーティでもウジウジと考えたりして言えていなかっただけだ。
こうして言ってみると、心が少しだけ晴れたような気がする。
なんてないことなのに……こんな人間がパーティにずっと居たら、目障りで仕方がない気持ちも理解できてきた。
だからこそ、少しずつだけでも変わらなきゃダメなんだ。
「じゃあじゃあ、決まりってことで! これから1週間よろしくねっ」
「うん。よろし――え?」
「決まってよかったね。事務所の人達も最初はビックリしてたけど、快諾してくれたし、物事はやっぱり順調に決まっていくに限る」
「もしもしお2人とも、俺の耳がおかしくなっていなければなんだけど……今、1週間って言っておられましたか?」
「うん。そうだよ? どうかしたの?」
「いやいやいや。1週間って、芸能人の2人が……」
「そうそう。最初に、私達は予定が空いているからって言ったね」
「まだまだ! 急に仕事が入って事務所から……」
「そう。最初に、説明した通り。これからは事務所が全面的に協力してくれるようになったから、ね」
「……」
これ、もしかして回避する口実ってなにもないやつ?
俺の1週間の予定は……くっ、なさすぎる。
そんでもって、あまりにも用意周到すぎて家に帰る口実すら思いつかない。
「で、でもさ。それだけの期間があるからと言って、ダンジョンで1週間も過ごすってわけではないでしょ? ほら、女の子だったらお風呂とかその――」
「あ~、気遣ってくれるのはありがたいんだけど、ダンジョンの中にある街って聞いたことがない?」
「……行ったことはないけど、そういえばそんなところがあるんだったな」
「その街っていうのがさっき言った第6階層なの」
「な、なるほど」
前のパーティに居た時、俺は宿で留守番だった。
特に護るものがなかったから、留守番と言うよりは邪魔者を放置していたっていうのが正しいんだろう。
当時は、そんなことも考えつかないで別のことを考えていたっけな。
「私達も行ったことがないから、慎重に進んでいくことになると思うけど……たぶん、1日あれば着くと思うの」
「最初の2階層分ぐらいは駆け抜けても大丈夫そうだからね」
「なるほど。そう考えれば、注意して進むのは3階層分だけってことか」
「そうそう。意外と行けそうな感じしない?」
「たしかに」
それにこっちにはスキルもある……し……あ、忘れてた。
「合流したら伝えようと思ってたことがあったんだった。完全に忘れてたよ」
「なになに」
「凄く気になる」
「期待してもらって申し訳ないんだけど、朗報となるか悲報となるかはなんとも言えないんだ。スキルを発動するね」
そろそろ、なにかのアクションを付け加えた方がいいのかな、と思いつつもただ唱える。
「
なんら変わりのない、そろそろ見慣れてきた結界が生成される。
「それで、ここから。明確ではないんだけど、剣の形を想像すると……」
「わあっ」
「なにそれ凄い」
空中に、不確かな形状をした光の剣が生成される。
「しかもこの剣、幻覚とかじゃなくて当たり判定があるんだ」
「ふむふむ」
結界の外まで歩き出て、剣で結界に斬りつけた。
「おぉ」
「ほう」
剣と結界は、光の欠片になって粉々に空中へ消えていく。
「と、まあこんな感じ。実際にモンスターへ攻撃をしたわけじゃないから威力がどんな感じになっているのかはわからないんだけど」
「凄い、凄いよ!」
「1つのスキルで、効果は1つまで。としか聞いてなかったんだけど、凄いね」
「そうなんだ。俺も全く同じ認識だったから驚いてるよ」
「というか、いつの間にか1人でダンジョンに来てたんだ」
「言われてみればそう」
「あー、いや。これには深い理由がありまして」
「ねえ一心くん? これからは無理はしない、って約束したよね?」
「えーあー、そんな約束をしたような、していなかったような」
「そうだ
「なになに?」
話の途中だというのに、春菜と
すぐに話は終わったらしく、ニヤニヤとした後すぐに真剣な表情に様変わりした。
「街に着いたら宿に泊まるから部屋の数を決めなくちゃいけないと思うんだ」
「そ、そうですね」
「であれば、当然お金が必要になる」
「は、はい」
「私達って、貯金が最近の趣味になってきてて~。だからちょっと節約しようと思うの」
「あー。言われてみれば俺も金がない」
「じゃあじゃあ、一心くんの分も私達が払うから」
この展開もしかして……。
「2部屋になるんですよね?」
「ううん、部屋はみんな一緒の1部屋にするって話っ」
「えぇええええええええええ」
「ちなみに拒否権はなしで」
「えぇええええええええええ」
この感じ、本当に逃げ道がなさそうだ……。
「わ、わかりました……」
「それじゃあ出発ーっ!」
「楽しみになってきた」
これから先、本当に大丈夫なんだろうか……。
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