第28話『ダンジョン攻略って、これでいいのか』

[おぉおおおおお]

[わお!]

[1撃か]


「これはこれで凄いな」

「すっごーい!」

「強い」


 第1層は駆け抜け、第2階層も同じくほとんど駆け抜けた先――第3階層で初見の【マオキー】を光の剣で斬りかかった結果、1撃で討伐することができてしまった。

 外見が小猿で、見た目通りにちょこまかと動き回れていたから、攻撃を当てるのに手こずってしまったけど。


「でもこれ、連発できないから次はこっちで」

「あちゃー。もう次が来ちゃったのか」


 地上で生息している猿と正確も習性も似ているな。


 さっきのは偶然にも1体だけだったのだろう、今度は群れを成して出現してきた。

 その数3体。


「危ない時は結界を使おう! それじゃあ1人1体ということでっ」

「わかった」

「や、やってみる」


 パッと見る限り、攻撃手段は拳やタックルぐらいだろう。

 攻撃的とはいえやはり上層部のモンスター。

 鋭い爪や牙の類は見当たらず、即死に繋がるような攻撃をされる心配はなさそうだ。


 それにしても、第一印象通りで猿にしか見えないな。


 全体を覆う茶色い毛、くりんくりんな丸目、笑っているのか威嚇しているのか生え揃った歯。

 犬のそれと一緒の細い尻尾、人間と同じ5本指の手足、赤みがかったお尻。

 沢山討伐していけば、いずれ背中に仲間を背負ってくる個体も出てきそうだ。


「すぅー、ふぅ……」


 光の剣と違って、今度は重量のある剣で戦わなくちゃいけない。

 大丈夫だ、自分が戦うのは1体。

 もしも危なくなったら、後ろにある結界へ飛び込んでいけばいい。


 2人は今、戦っている。

 攻撃を見定め、回避して出方を窺いながら。


 そうだ、俺だって洞察力を鍛えなくちゃいけない。

 しっかりと相手を観て、いつまでもその場限りの戦いを続けていては意味がないんだ。


『キィッ』

「ふっ」


 助走からの跳躍を右に半歩移動して回避。

 安堵してはせず、すぐに振り向く。


『キッキッキッ』


 攻撃を避けられて気に食わないのか、左右の手を交互に地面へ叩きつけている。


 悪いが、もう少しだけ攻撃パターンを把握させてもらうぞ。


『キーッ!』


[怒ってる怒ってる]

[これはいい立ち回り]

[あれか、すぐに倒さないのは攻撃パターンを見極めてたりするのか]

[いいぞいいぞ~]


 さっきと同じように走り出してきた。


「よっと」

『キッ!』

「だよな」


 学習したのか、または自棄やけになったのか攻撃に次ぐ攻撃を仕掛けてきた。


 俺は油断していなかったことから、着地とほぼ同時にさらにもう半歩移動して攻撃を回避。

 以前の俺だったら、回避したことに安堵してタックルをくらっていただろう。


 よし、これならいける。


「はぁああああっ」


 不格好だということはわかっている。

 だけど、ここがチャンスだ。


『キ――ィ』


 剣先を真っ直ぐマオキーへ向け、突進。

 勢いそのままに剣を突き刺して、抵抗されることはなく1撃で討伐することができた。


 しかしまだ。

 2人が戦闘している可能性に振り向くと、拍手を送ってくれている姿があった。


「やっるぅ~」

「グッジョブ」


[練習していた成果が出た!]

[やったああああああああああ]

[ないすぅうううううううううう]


「みんな、ありがとう……」

「ははっ、こっちの配信でも『おめでとうコール』が凄いよ」

「私達もあいつらは初見だった。同じ条件で全員が1人で倒すことができたっていうのは凄い」


 ここで天狗になっちゃダメだ。

 ダメだとはわかっていても、今は素直に嬉しい。

 対等に評価されるってことが、こんなに嬉しいなんて初めてだ。


 しかもみんなに祝ってもらって、これ以上のなにかがあったら間違いなく泣く。


「さてさて。次はもっと来ちゃうかもしれないから、ちゃちゃっと駆け抜けちゃうよー」

「数が多いのは勘弁だからね」

「わかった、行こう」


 俺達は駆け出す。


 階層間の移動は、階層のどこかにある階段を降りることで可能。

 これは前のパーティに居た時、経験をしたからわかる。

 だけど、3階層まで進んだことはなかった。


 あれ? そういえば、2人はダンジョンの中にある街へ行ったことがあるのに、さっきのモンスターと戦うのは初めてって言ってなかったか?


「2人って、以前はどうやって街まで行ったんだ?」


 階段に辿り着いて、安全面が確保されて降り始めたから質問してみる。


「あ~、前回は偶然にも前に強そうなパーティが居て、ちょうどいいからって追いかけていったら1回も戦闘をしないで街に着いちゃった」

「あの時はさすがに視聴者に笑われまくったよね」

「そうそう。『それってありなのかよ(笑)』とか『ズルすぎ(笑)』って感じにね」

「な、なるほど? その光景を思い浮かべたら、なんだか視聴者の気持ちがいとも簡単に把握できてしまう」


 ダンジョンの中に明確なルールやマナーは基本的に存在はしない。

 だからこそ、2人がそうやったようなことも一応は許される。

 大雑把には他パーティに迷惑が被るような行為は"悪"とされているが、今回のそれはなにも迷惑をかけていない……と、思う。

 美談のように語っているということは、そのパーティに直接的な嫌味を言われたわけではないのだろうし……?


[あの時は、観ているこっちはハラハラだったけどね]

[安全そうだとは思ったけど、ぶっちゃけ心配で仕方がなかったよね]

[本人達は楽しそうだったのがまた怖かった]


「お2人さん、こちらの配信で当時の苦情が寄せられていますよ?」

「みたいだね。こっちの配信でも大体そんな感じのことがコメントされてる」

「あー、なるほど。だから階段までの道のりは知ってたんだ」

「そうそう。迷いのない一直線だったでしょっ」

「1回の往復だけなのに、以外と憶えているもんなんだね。自分でもちょっとびっくりしてる」


 あれ、じゃあ帰りは戦ったんじゃ?


「純粋な疑問なんだけど、帰りってどうしたの」

「帰りは他のパーティが街から出るのを監視し続けて、同じことをした!」

「さすがに怖かったからね。安全策をとるしかなかった」

「なるほどなぁ、自分の命が最優先だから仕方ない……って、おい。というか、じゃあそもそもなんで街に行こうとしたんだよ」

「行ってみたかった!」

「話を聴いた時から興味があった」

「ははは……」


 行動理由が、まさかの興味本位だった。

 なんてことを、まさか事務所が許可したわけでもないだろうし、完全に独断専行ってわけなんだろう。

 たぶんその日の内に帰ったから気づかれずに済んだんだろうけど、バレていたら間違いなくこっ酷く説教されていたと思うぞ。


 まあでも、興味本位で行動できなかったら探索者なんてやってない、か。

 俺も同じように。


「だからこそこれからの階層は、本当の冒険になる」

「……冒険か。その響き、いい。冒険、か」

「いいねぇ~、冒険!」

「厳密には私達は探索をするべきなんだろうけど、ね」

「それはそう。こんなに階層移動だけを目的にダンジョンを駆け回る探索者なんて、俺らみたいな初心者ではまずいないだろうしな」


 もしもこれがまかり通っていたら、今頃ダンジョン内はモンスターが溢れ返っていることだろう。

 なんせ、モンスターというのは人間を排除する様に出現し、攻撃してくるのだから。


「そろそろほぼ初見・・の第4階層! 気合入れていくよーっ」

「正直、緊張してきてる」

「だとしたら、俺は観てもないからその倍以上は緊張している自信がある」


[こっちまで緊張してきた]

[前までのノリとは違って、これはこれでいい]

[頼むから、全員が無茶なことはしないで]


 視聴者にも、たぶん俺達の緊張が伝わっているんだろう。


 今までは階段を降りる時、あまり感じなかった少し冷たい風が過敏に感じる。

 風に当てられてか鳥肌が立ってしまっているけど、冷たいからなのか、それともこれから起きることに臆しているのか。


 怖いのは確かだ。

 だけど強くなりたいと、2人の役に立てるようになりたいと思ったんだから、恐怖心に怖気づいている場合じゃない。


「俺も2人も、挑戦はしても無茶はしないようにしよう」

「了解っ」

「だね」

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