第26話『合流前に、ウォーミングアップと配信』

 今日の集合は午後から。

 なら時間まで体力を温存しておく方が利口……だとはわかっていても、ついダンジョンに来てしまっている。


 大丈夫、さすがに無理をして2人に迷惑を掛けるわけじゃない。

 ウォーミングアップ程度に体を動かしたり、スキルの使用感をおさらいするだけだ。


「もはや、この姿までも配信してしまうのはどうなんだろうか」


 こんな惨めな姿を配信するなんて滑稽だ、なんて思われるかもしれないけど、そもそも貼る見栄もない。

 だったら、成長していく過程を配信するスタイルでやっていけば、それはそれでありなんじゃないか……?


 元より自分の力だけで獲得した視聴者数でもないんだし、気に入らないと感じて離れていってしまうのなら、それは遅かれ早かれそうなっていただけのこと。


 バンドをトントンと叩いて、配信準備を整え――【配信開始】を押す。


「あーあー、おはようございます」


 最初に設定したら、自分で操作しないと勝手に変更されないとわかっていても、つい音量調節をしようとしてしまう。

 しかもまだ視聴者数は0人と表示されているのにもかかわらず、配信を開始した瞬間から誰かに見られているような感じがして緊張する。


 まだまだ配信慣れしていないということだな。


「今のところは1人で配信をしていきます」


 声出しはこれぐらいでいいだろう。

 まだ誰も観に来ていないしな。


 ――よし。


 まずは素振り。


「ふんっ――はっ――」


 特殊な訓練をやるわけじゃない。

 上段から下段への振り下ろし、突き、薙ぎ、下段から上段への振り上げ。

 それらを足を踏み込んだり、戻ったり、開いたりしながら行う。

 本当に地味で、こんなのを配信上で流して意味があるのか疑われても仕方がない内容。


 だけど自分が主役の配信で着飾っていても、すぐにボロが出てしまう。

 最初からそうだとわかっているからこそ、俺はありのままを配信する。


「――はっ――はっ」


 20振りぐらいしたから休憩。

 前のパーティに居た時は、剣の重みに振り回されている感覚があった。

 走り出したら斬る以外のことはできなく、それで何度も迷惑を掛けたのを憶えている。


 だけど今は、自分に重心を残している感じで剣を振れている。

 体力面でこうして休憩をとらないといけないっていうのは、まだまだこれからってことだ。


[おはようございます! 練習配信とは素晴らしい]

[一番乗り逃した。おはようございます!]

[わかるわかる。俺も剣道をやってたから、基本が大事なんだよな]

[おはようございます。日々鍛錬とはまさにこのこと。思いのまま頑張ってください]


 うわあ、集中していてコメントが来ていたことに全然気づけなかった。

 視聴者数6人。


「皆さんおはようございます! こんな時間から配信を観に来てくださってありがとうございます」


 無視してしまっていたのではないか、というのと、緊張のあまり声を張って挨拶をしてしまった。


[移動時間に観ております]

[10時ですからね。トイレに入ってる数分間だけお邪魔してます]

[有限の時間を無限に生きる]


 そうだよな。

 つい口走ってしまったけど、朝早いわけでもない普通に昼間だ。


[有限なのか無限なのか]

[いやどっちやねん]


 視聴者同士がコメントでやり取りをしている、なんとも不思議な風景にクスリと笑ってしまう。


「初見の方がいらっしゃいましたら申し訳ございません。皆さん、俺のスキルは憶えていますか? あの結界みたいなやつ」


[はいはい、あのピカピカしたやつですよね]

[もちろん!]


「ありがとうございます。それなんですが、昨日1人で試行錯誤していたところ新しい仕様に気付くことができました」


[ほほぉ]

[ちょいちょい、それも配信してくれていたらよかったのに!]

[せやな。全然観るのにもったいないザマすよ!]

[多重人格者の方ですか?]

[うるさいザマす]


「そ――それでなんですけど、早速やってみます」


 ギリギリのところで笑いを堪え、話を続ける。


聖域ワークショップ展開! ――と、ここまではいつも通りといった感じです。まだ1度しか試したことがないので、失敗してしまったらごめんなさい」


 剣を想像する。


 すると、空中に光が灯り始め――光の剣が形成されていく。


[ええええええええええ]

[なんじゃそりゃ!]

[すっげえええええ]

[なんだなんだなんだこれ]

[うっひょおおおおお]


 つい気になってしまってコメントを確認すると、昨日の俺とほぼ同じ反応をしてくれている。


「実はこれ、昨日初めて発見したんです。今もあんまり理解できていなくて」


 光る剣を手に取り、剣先を観てみたり裏返してみる。

 特に目立ったことはなく、本当に光っている剣といった感じ。


「攻撃の威力とかもわかっていないんですけど、結界に攻撃するとどっちも消えるということはわかっています。やってみますね」


 剣を握ったまま結界の外まで歩き出て、振り返る。

 昨日やった通りに、剣を持ち上げて結界にぶつける――と、結界はパリンッと砕け散り、剣も同じく光の破片となって粉々になっていった。


「と、こんな感じです」


[ほほぉ]

[なるほどなるほど]


「どちらも使い方次第なんだと思うんですけど、今日の合流後に試してみたいと思います」


[誰にも教えてもらえないから大変だよね]

[なんだかゲーム攻略配信を観ている感覚になってきた]


「そうですね。いろいろと大変ですが、頑張っていこうと思います」


 誰かに教えてもらえたら、と思うことは何度もある。

 だけどそれに甘えれば、自分の成長に繋がらない。


 自分で試行錯誤して、しっかりと戦力にならないと。


「後はこのままお昼ぐらいまで体力を温存しながら練習したりします。退屈な配信になってしまいますが、雑談を交えながらゆったりとできたらいいなと思っています」


[おk]

[はいはーい]

[雑談枠、了解]

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