俺だけ開ける聖域《ワークショップ》!~ガチャで手に入れたスキルで美少女達を救う配信をしてしまい、ダンジョンの英雄としてバズっただけではなく、追放されたパーティにざまあして人生大逆転!~
第11話『ご機嫌が直って、本当になによりです』
第11話『ご機嫌が直って、本当になによりです』
じゃあ俺はと言えば、集合時間が19時に対してそこまで家まで距離がないため、
仕事の切り替え時間だったため、雑務が始まるついでに俺もテーブルに座ることになった。
「
「なんのことかな。私は今、資料に目を通すので忙しいの」
「ははぁ……」
仕事が終わるのは18時。
それまで待っているのを俺が提案したわけだが、この空気感で後2時間も待機していなくちゃいけないってことですか?
「いろいろと聞きたいことはあるけど、状況から察するにダンジョンで出逢った人達ってことでしょ。まさか、現段階で最高の提案をした矢先にその通りになるとは思いもしなかった」
「美和ってやっぱり優秀だよな。俺が逆の立場だったとしたら、間違いなく質問攻めにしていたな」
「いや、最初にも言ったけど質問したいことは山ほどあるわよ。でも、それを実行したところで時間の浪費になるだけって判断したの」
「な、なるほど」
公私混合せず、物事を客観的に判断して冷静かつ平等に対処できるからこそ、優秀な受付嬢なんだろうな。
そんでもって、書類に目を通しながら俺とも普通に話せる、マルチタスク能力も相まってるに違いない。
「でもこうしていると、なんだか懐かしいな」
「なにが?」
「いや、さ。俺達が中学生だった時、美和が学級委員長で俺が終わるまで付き合っていた時があっただろ? それを思い出してさ」
「
「そうそう」
「でも不思議なことに、具材とかはわからないとか言ってた割には出来上がった料理は美味しかったのよね」
「作った俺も不思議に思ってたぐらいだからな」
俺が作った料理は、なにかのマジックなんじゃないかと疑われていたな。
裏で必死に調べているとか、全ては最初から子芝居で実は作れるものだけを料理していた説とか、いろいろと問い詰められた。
だが、実際に目の前で料理をしたり、美和から提案された料理を作ってみたら疑いが晴れたっけ。
「それもおかしな話だけど、私はてっきり鍛冶師と料理人の両立でもすると思ってたんだけど」
「まあ、な」
「――ごめん」
「そんなことを言ったら、美和が学校に通い続けて大学まで行くと思ってたんだけど」
「どこかの誰かさんが、がむしゃらに夢を追っかけるもんだから感化されちゃったのかもね。自分のやりたいことを貫き通すって、普通じゃできないもん。近くで応援したいって、そう思っただけ」
「探索者のみんなって本当に凄いよな。美和がそういう人達を応援したくなる気持ち、ちょっとわかるかも」
「はぁ……」
滅多に聞くことができない、美和の盛大なため息が目の前で起きた。
「でもさ、今の時代はいろいろな選択肢だってあるからね。私はただ学校という学び舎に通っていないだけで、教材を送付してらもって課題もやっているし、テストも受けてる。このままいけば、普通に卒業資格も貰えるから大学にだっていくことができる」
「そういえばそうだったな」
「随分と他人事のように言ってるけど、一心の方が大変でしょ」
「ま、まあまあじゃないか?」
俺は今、独り暮らしをしている。
美和が言っているのは、鍛冶師として日々勉強したり、探索者としての活動をしたり、家事も自分で全部やらなければならないことを言っているのだろう。
「俺からしたら、半日はこうして受付嬢として仕事をしながら、学校の勉強をしている美和の方が大変に見えるけどな」
「だとしたら、どっちもどっちね。隣の芝生は青く見えるの真逆」
「お、それ上手いな」
美和は目を通していた、書類をまとめて机にトントンと叩いて整えている。
ところどころサインもしていたから、作業が終了したということだと思う。
「その仕事って、2時間分なんじゃないのか?」
「まあ、そうかもね」
「優秀とはいえ、新人としてみられているってのはそれもそれで凄いな。いや、上司が気を利かせてくれているってことか?」
「私としてはどっちでもいいかな。でも、他の人と比べて特別視されているとしたら気分が悪い」
「美和は変わらないな」
「なによそれ」
いつ如何なる時も、自分が不利になる状況だったとしても平等を貫き通している美和。
なんていうんかな。
自分の中にある正義を貫き通せるのが美和なんだ。
どこかの誰かがの影響を受けたとか言ってたけど、美和の方がよっぽど自分の意思をもっているよなぁ。
もしかしたら、もっと前からそういう人達に影響を受けていたってことかもしれないが……その人、すげえ。
「そんなことより、気になることがあるんだけど」
「さっきの2人のことか? それに関しては、俺も出会って軽い自己紹介をしただけでそこまでわからない」
「そんな、よくわからない人達とどうしてパーティを組むことになったかは、今のところ置いておくとして」
美和さん、とっっっっても目が怖いです。
「ダンジョンで手に入れたスキルを試したりしていたってことなんでしょ? そして、その延長線上であの人達と出会ってパーティを組むことになった」
「ほとんど情報を出していないのに、なんでそこまでわかるんだよ」
「そんなことはどうでもいいの。それで、どうだったの?」
「まず、スキルガチャで手に入れたのは『聖域』と書いて『ワークショップ』と読む。実際に使ってみた効果は、聖域という意味を持つには相応しい結界を張ることだった。実感、なんでも攻撃を1撃だけ完全に無効化できる」
「『聖域』と書いて『ワークショップ』ねえ。聞いただけだとパッと想像はできないけど、どんな攻撃でも完全無効化ってかなり強いんじゃないの?」
「簡単に言うと、半円のドーム状になっている結界。半径2~3メートルぐらい。高さは2メートルと少しぐらい。なんでもって言うけど、俺が軽く剣で小突いただけでも壊れるからな」
「なるほど。それは使いどころをしっと考えなきゃいけないね。能力的には強いけど、再使用までの時間があったりするんじゃないの?」
「ご明察通り。一応、感覚的に計ってみたけど固定ではなかった。30秒だったり2分だったり。試した回数が少ないから統計としてはまだまだ確定ではないな」
しかし、試していたのがダンジョン最序盤のモンスターなんだから、ほとんど正確じゃない情報なんだよな。
「聖域が、結界。なら、ワークショップの効果は? 意味合い的には作業場とかだけど」
「それが全くわかっていない。そもそもスキルって効果は1つなんだし、俺の鍛冶師と関係しているんだと思う。実際のところはわからないけど、ダンジョンで安全を確保できる……キャンプとかそういうので役に立つのかなって」
「ダンジョンで夜を迎えるっていうのは珍しくない。その上で、どんな攻撃でも無効化できる結界の中に居れば、安全が確保される。――そう考えると、そのスキルはかなり重宝されるんじゃないかな。地味だって意見はあるかもしれないけど、なんだか職人って感じがする」
「言われてみればそうだな。目立たないが」
「でも、鍛冶師の作業場を護るためにある結界。という捉え方もできたりしないかな」
「というと?」
「私は鍛冶師についてほとんど知らないから、イメージで喋るからそこは許してね。鍛冶師って、武器を鍛錬したり精錬したり、武器を研いだり調整したりすると思うの。じゃあ、ダンジョンという、いつ危険な状況に陥ってしまうかわからない状況下で安全が確保できる、絶対的な防御があったとしたら便利じゃない?」
「言われてみればそうだな。鍛冶師としての作業はどれも集中力が必要になってくる。そして、作業中はかなり視野が狭くなってしまう」
「でしょ」
言われてみればそうだ。
どこからともなく襲い掛かってくるかもしれないモンスターから、身を護れる手段としてのスキルなのかもしれない。
それに、まだ試していないけど他の人を結界内に入れることができたら、もっと使い方の幅が広がる。
「どっちにしても、まだまだ試行錯誤していけばいいからね」
「だな」
「それで、配信の方はやってみたの?」
「おう。チャンネル名は【鍛冶師の探索者】。アカウント名は【シン】。で、始めた」
「……随分と一心らしい、真っ直ぐな命名ね。チャンネル名なんてそのまんまだし、アカウント名もそのまんまじゃない」
「べ、別にいいだろ。うだうだと考えていたら、いつになっても始められないし。そんなんじゃ提案してくれた
「ふぅーん。そうなんだ。ふぅーん」
「なんだよそれ」
「いやあ、べっつにー。今日のことは許してあげようかなって、そう思っただけ」
え、なになに。
会話の途中で、なぜ機嫌がよくなってくださったんですか?
理由はわからないけど、終わり良ければ総て良しってね。
というか、やっぱり怒ってたってことじゃん。
あ。
「そういえば、最後に訊きたいことがあったんだ」
「なに?」
「ダンジョンで熊――」
「あ!」
「え、なに」
「もう時間になっちゃった。退勤作業してこなくちゃだから、いってくるね」
「おおう。じゃあ俺はここで待ってるよ」
まとめてある書類を抱えて
ダンジョンで戦った? あの赤毛の大熊って、どう考えてもあんなところに出現するモンスターじゃないよな。
もしかしたら美和に訊けばどんなモンスターなのか調べてもらえそうだったが、まあいいか。
そんなの、美和とはいつでも会えるんだし、急いでいるわけじゃないしな。
くぁ~、これからステーキかぁ。
楽しみで仕方がない。
最後に食べたのはいつだったかな。
まあいいか。
今から楽しみすぎて大声を出したい気分だ!
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