俺だけ開ける聖域《ワークショップ》!~ガチャで手に入れたスキルで美少女達を救う配信をしてしまい、ダンジョンの英雄としてバズっただけではなく、追放されたパーティにざまあして人生大逆転!~
第10話『え、そんなことを急に言われても……』
第10話『え、そんなことを急に言われても……』
「……」
その、あまりにも鋭利な視線を俺に向けるのだけはやめていただけませんか。
たぶん少しだけ言いたいことはわかると思うのですが、俺も急展開すぎて未だに理解が追いついていないんですよ。
「せっかく私がパーティを探してあげているのに、まさかの美少女2人をつれてくるなんて許せない」
という感じで怒ってらっしゃるのですよね?
わかりますよ、その気持ちは十分にわかりますとも。
「"
いや怖い、怖いですって。
俺は終始、半笑いでなんとかやり過ごそうとしているけど……
だから、言葉にも若干のさっきは込められているし、俺の名前を読み上げている時も強調されていた。
「それでお願いします。後、パーティリーダーの変更手続きも一緒にお願いすることってできますか?」
「はい大丈夫です」
「じゃあ
「え?」
「え?」
「え?」
俺と美和と
当然、事前の打ち合わせなんてなかったし、
そしてみんなが
「
「細かいことは気にしない気にしない。リーダーになったからって、そこまで負担が増えるわけじゃないですよね?」
「それはそうですが……。
「でも、一心くんがレベル5で私達はレベル2。パーティの中でレベルが一番高い人をリーダーにするのってそこまで不自然な理由ではないと思いますけど」
美和は、つい数日前に俺がパーティから追放されたことを気に掛けてくれているんだと思う。
実際に気持ちが切り替えることができているわけではないし、さっきパーティに勧誘された時だって心に棘が突き刺さったままだった。
流されてここまで来てしまったが、そもそもパーティに入ることだって抵抗がある。
もう少し戦闘に慣れてからがいいだろう、と思っていたがまだまだ即戦力には遠い。
そんな状況でパーティに入ったとして、一発芸のようなスキルだけにどれだけの需要があるかなんて考えなくてもわかる。
またパーティから追放されたら、今度は探索者として再起不能になってしまうかもしれない……。
「
「本当にその通り。ねえ春菜、そうしない?」
「そ、そうだよ。俺も状況を理解できていないし、ね?」
「……わかった。でもその前に、気になることがあるんですけど、いいですか?」
「いかがなさいましたか?」
笑顔が眩しく人当たりのよい――そうだ、俺の陰の空気とは違った、陽の雰囲気を身にまとう春菜は1歩踏み出してカウンターに両手を突いた。
「あの、さっきから気になっていたんですけど、私と真紀に対しては名字で呼んでいるのに、なんて一心くんだけ名前で呼んでいるんですか?」
「……レベルが高いということは、お2人より前からここに通われていますから。少しだけ仲良くなったので、そこからです」
「そうなんですね?」
え、なにこの状況。
いや、冷静に考えたら探索者に平等でなければならない受付嬢が、個人に対して私情を挟んでいるだけではなくひいき目で観ている、というのはあまりよろしくないのか。
「そうだ。美和とは偶然にも話が弾んで、そこからなんだ」
「ふぅーん、
あ、と思った時にはもう遅かった。
「お気に入りの探索者と仲良くできるのっていいですね。でもそれって職権乱用って言うんじゃないんですか?」
「実は俺と美和は小さい頃からの幼馴染なんだ」
「え?」
どうしてかわからないけど、口論になるぐらいだったら言ってしまった方がいい。
もしも口外してはいけなかったとしたら、お叱りの言葉は甘んじて受けよう。
「嘘でしょ……幼馴染って、物語だけの存在だと思ってた」
「そういうのでやっているような感じで家が隣とかではないんだが、親の付き合いで何度も互いの家で遊んだり、同じ学校に通っていたりしたんだ」
「それで、こうして働き始めても良好な関係と……強すぎる」
「ということだから、とりあえずあっちで話し合おう」
「……わかった」
少し不機嫌そうな春菜の背中を押して、美和にアイコンタクトで「また後で」と合図を送ってこの場を離れた。
施設の一角にあるスペースまで移動して腰を下ろす。
「それで、俺がリーダーになるって話はどういう理由があるんだ?」
「さっきも言ったけど、レベルが一番高いからだよ」
「理に適っているとは思うけど、ついさっき話したけど俺は間違いなく即戦力になるほど強くない。そんな俺がパーティリーダーになってしまったら、他の人からなんて思われるかわからないじゃないか」
「ん~。私達も仕事柄、他人からの評価は必ず付きまとってくる。でもさ、そういうのって私を大事に思ってくれているから、聞き耳をもって受け入れる必要があると思うけど、そういう人達以外の評価ってぶっちゃけどうでもよくないかな?」
「春菜、どうでもいいは言い過ぎだよ。でも、実際にはそう。特に、敵意をもって陥れようとする人の意見は間違いなく聴く価値がない」
「お~、真紀もズバッと言ってるじゃん」
「それはそうでしょ。しかも一心くんがずっと気にしちゃってるのは前のパーティメンバーじゃない? 詳しい理由はわからないけど、穏便にことが進んでパーティを脱退したならまだしも、最初に訊いた言葉は『追放』だった。その人達に恩を感じているのかもしれないけど、過去に縛られている時間があったら前を向いた方がいいと思う」
「……」
さっきからなんなんだよ、この2人。
真紀が言っている通り、俺はずっとみんなのことが忘れられず心残りがある。
そして、役に立つことができていなかった自分のせいにしていた。
でも、なんとか頑張ってみようって決めて、たった1人でも頑張ってみようって決めたのに。
ずかすかと土足で俺の心に入ってくるだけじゃなく、優しく寄り添ってくれて……。
まるで俺の悩みなんてちっぽけで、無意味みたいに。
「あのね、さっきは本当に死んだと思ったんだ。まだまだやりたいことがあるのに、まだまだお父さんとお母さんに育ててくれた恩を返せてないのに、こんなところで死んじゃうんだって。そんな時、一心くんは私を、私達を助けてくれたんだよ。恩ぐらいは返したいと思うのが普通じゃない?」
「……」
「それは本当にそうだね。私だって同じ。あの時、本当に死ぬんだって思った」
「だよね。そんな恩人をパーティに加えたいって、不思議な話じゃないと思うんだ。一心くんだって、逆の立場だったら恩返しをしたいって思うよね?」
「……うん」
「そ・れ・に、私は結構尽くすタイプなんだよ」
春菜は、ぐちゃぐちゃに感情が渦巻いている俺へ向かって可愛らしくウインクをした。
ここまでしてもらって、理由までちゃんと説明されているのにもかかわらず、まだ怖がっている。
今はこうして優しく接してくれるが、後々からまた同じ結末を辿ってしまうのではないか、と。
「やっと理解出来た。
「
そういうことだったのか。
だけど、立場が変わっただけでパーティを抜けられることだってありえる。
でも……ここまで誠意を伝えられているのに、断るのは違うよな。
「……わかった。俺がリーダーを務めることにするよ」
「お! やったーっ!」
「大変だと思うけど、よろしく」
「ほとんど何もわからないけど、俺も頑張ってみるよ」
「そうそう、その意気っ」
春菜は俺の手を握って上下にブンブンと振り回す。
抵抗ぐらいはした方がいいんだろうけど、なんだか両肩に重くのしかかっていた何かがフッと落ちたみたいで力が入らない。
しかし、急にストップした。
「ねえ最後に確認したいんだけど、さっきの受付嬢の子と、本当に幼馴染なの?」
「ああ、本当だ。かれこれ10年……ぐらいの付き合いになる」
「うわあ……なるほど。わかったよ」
「そんなことより、早く申請を済ませに行こう」
偶然にも
「ではこちらにサインをお願いします。一心はこっちにも」
「敏腕受付嬢は仕事ができすぎて困るな」
「困ることなんて何もないわよ」
「なあ、今日の夜とか空いてる?」
「予定はないわよ。どうかしたの?」
「いやさ、迷惑を掛けたから。お金は無いからそこまで出せないけど、一緒にご飯でもどうかなって」
「え! いくいく!」
「お、おう」
いつも冷静な美和にしては随分と食いつきが凄いな。
あれか、今にも倒れそうなぐらい空腹なのか。
優秀だから、きっと人より仕事を回されたりして疲れているんだろうな。
「ぐぬぬ……」
「春菜、少しは自重――」
「そのお食事会、私達も参加していいかな? 私、お金なら持ってるから。新しいパーティの結成記念ってことで」
「いやいや春菜、とりあえず私も一緒に巻き込むのやめて?」
「一心は、私を食事に誘ってくれたんですけど? どうして
「理由はしっかりと説明しましたよね、
なんで名前を知っているんだ、とは一瞬だけ思ったけど、よく見たら向かって右胸ら辺に名刺バッジがあった。
てか、今これどういう状況?
「ち、ちなみにどんなものが食べられたりするの?」
い、一応は訊いておかないとな。
一応。
「食べ放題ステーキ」
「よし、みんなでご飯を食べに行こう!」
「おい一心」
「それでいいのか一心くん」
「美味しいものをみんなで食べた方がいいに決まっているからな」
今の俺、最高にいい感じの決め顔をしてるぜ。
「よし決まりーっ!」
「ぐぬぬ……」
たぶん気のせいだろうが、どこかでなにかがバチバチとぶつかり合っているような気がする。
まあ、気のせいだろう。
そんなことより、数カ月ぶりのステーキ!
うっひゃあああああ。
楽しみで仕方がないぜ!
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