俺だけ開ける聖域《ワークショップ》!~ガチャで手に入れたスキルで美少女達を救う配信をしてしまい、ダンジョンの英雄としてバズっただけではなく、追放されたパーティにざまあして人生大逆転!~
第9話『美少女達を助け、パーティへ加入する』
第9話『美少女達を助け、パーティへ加入する』
勢いよく駆け出し、運よく他のモンスターに出会うことなく声の元へ駆け着けることができた。
のはいいものの……。
俺なんか眼中にない。
このままじゃ、あの人達が危ない。
勢いよく駆け出し、運よく他のモンスターに出会うことなく声の元へ駆け着けることができた。
のはいいものの……。
「こっちに来ないで!」
「あっちにいけ!」
ある程度の予想はできていたが、倒れている少女2人が大型のモンスターに襲われている、という構図が広がっていた。
一目見ただけでも、少女達は怪我をしているのがわかる。
『ンガアアアアアアッ』
戦闘してたからであろう、赤い毛皮の熊は明らかに興奮状態。
一瞬でわかる、実力差に声は出ないし、足がガクガクに震えてしまう。
俺がこのまま飛び出していったところで、肉壁にしかならないし、下手したら攻撃を止めることすらできないかもしれない。
頭の中のかっこいい自分そのままいけたなら。
まるで物語の英雄みたいに行動できたなら。
もしも自分に護れるだけの力があったなら。
「いやあああああ!」
「こっちにくるな!」
俺なんか眼中にない。
このままじゃ、あの人達が危ない。
――一か八かに賭けるしかない。
全力で走り出す熊の前へ、駆け出す。
『ガアアアアアアッ』
「はああああああっ」
2人を背に、熊の前へと滑り込めた。
それでどうする。
俺にはこいつを倒すだけの力はない。
――いや、たった1つだけ、ちょっとした時間だけ稼げるやつがあるじゃないか。
「
猪よりも激しい猛進。
その勢いじゃ止まることはできないだろ。
「こい!」
眼中にないままなのか、それとも止まるということを本当に知らないのか。
スキルの能力を知っていても、全身が委縮してしまうほどの迫力で走ってくるは――。
『ガッ――ッ』
結界に突っ込んできた熊は、何倍になっているかわからない全体重を顔面で受け止めるかたちで止まった。
そして、結界も想定通りにパリンッという音と共に粉々に砕け散る。
しかしここから。
完全に停止した熊との距離はたったの2メートルぐらい。
目と鼻の先に居るこのモンスターと――。
「……あれ?」
襲ってこない。
それどころか、微動だにしない。
恐怖心から両腕で顔を隠していたけど、恐る恐る隙間から熊の顔を覗くと白目になっていた。
次の瞬間。
『――』
ドスンッ、と音を立てて横に倒れてしまった。
そしてすぐ白い灰になって、消えていく。
なんということでしょう。
まさかのまさか、あの巨体な熊を討伐してしまった。
この俺が、どうやっても敵う道理がない俺が。
どれぐらいの強さかはわからないが、確実な格上のモンスターを討伐したことに声を大にして喜ぼうとしたら、後ろから声を掛けられて体がピクッと動いてしまった。
「助けていただいてありがとうございました!」
「本当に助かりました」
本来の目的が、この2人を助けるためだったのにもかかわらず、あまりにも目の前のことに必死だったから忘れてしまっていた。
助けたのなら、立ち上がる手助けをするまでがセットだろうに……。
「いえ、俺は大丈夫。2人は大丈夫そう? 歩く手助けぐらいならできるけど」
「なんとか大丈夫です。ひとまずここから離れましょう。通路のところは比較的安全だと思うので」
「わかった」
「あ、
「そうだね。ありがとう
2人は配信者だったのか……とか言ってる場合じゃないな。
俺も配信をつけっぱなしだったから、切っておかないと。
言葉では「大丈夫」なんてことを言っていたけど、本当は片ぐらいは貸してあげるべきなんだろうけど……お節介だと思われたくないし、なにより男に触られるのが嫌なのかもしれない。
だって、最初に言った時は断られたし。
傍からすれば意気地なし、なんて言葉で表されそうな感じに2人の後ろをついていくと、さっきぜんそくで通過したばかりの通路に辿り着いた。
無我夢中で走っていたから忘れていたけど、基本的にモンスターは通路へ侵入してこないんだったな。
常に誰かの後ろを歩いていた俺は、そういうことにも無頓着だった。
だからこその無能なんだろうけど……。
「何か考え事ですか?」
「あ、ああ。ごめん。ちょっとね」
「私達は回復をし終えましたので、ここからはお気遣いなく」
ダンジョン、しかも怪我人が目の前に2人も居るというのに、集中せずに別のことを考えてしまっている、というところもなんだろうな。
1人になってから、自分がパーティから追放された理由が痛いほどわかってくる。
「まずは自己紹介から。私は
どこかノリノリだが礼儀正しく頭まで下げて自己紹介をしてくれたのは、赤い長髪の女の子。
「じゃあとりあえず、同い年だから敬語は無しにしない?」
「そうだね。うん、わかった」
「春菜ったら……普通、自己紹介でそこまで包み隠さずに曝け出すのはおかしいよ」
「いやいや。だって、私達はついさっき助けてもらったんだよ。あのまま誰も助けに来てくれなかったら、あのまま死んじゃってたでしょ。恩を仇で返すのはダメじゃない?」
「それはそうだけど……」
そう反対しているのは、黒髪のロングポニーテールの女の子。
言われてみればそうだ。
普通は、自己紹介で年齢や職業まで伝える人はかなり稀。
そもそも探索者というのは、ダンジョンに居れば考えなくてもわかることなんだから、別の方は言わなくてもいい。
ってか、サラっと受け流したけど、モデルってマジぃ!?
こうして落ち着いたタイミングだからこそ、直視してしまうが、モデルと名乗れるほどのスタイルのよさだと思う。
しかも探索者として体を動かしているのだから、痩せているというより引き締まっている体、というのがちょうどいい表現だ。
「
「わかったわかった。私は
「え? ちゃんと全部言わないとダメでしょ?」
「……動画投稿と芸能人をやってる。16歳」
ニコニコな少女とツンとした少女。
どちらの主張も理解できるが故に、全部聴いてしまったことに罪悪感を覚えてしまう。
え、てか今、芸能人って言ったよね?
もしかして俺って、とんでもない人達と話をしている可能性がありませんか?
「あ、2人して活動はしているけど、まだまだ駆け出しなの」
「な、なるほど。あ、俺は
「なるほどなるほど。じゃあ、
「いいの? まあ確かに、今だけだしその方が話しやすいか」
この2人とはこれ以上の付き合いはなさそうだからな。
人前に立つ仕事をしているってのもあるけど、探索者としても俺より上だし。
あの大熊に襲われていたのは災難だったけど、少なくとも俺が1人で戦えるより先に居たのだから間違いない。
俺は今日、あのモンスターを運良く討伐できたことと、美少女2人と話すことができただけで全ての運を使い果たしたな。
「それにしてもさっきの凄かった。あんなの見たことない」
「たしかにたしかに。あれってもしかして、スキルガチャってやつで手に入れたスキルって感じ?」
「ああ、そうだ」
「うわーっ。ということは、さっき迷いなく私達を助けてくれたし、スキルも持っているってことはかなりの高レベルなんじゃない?」
「同い年だというのに、どれだけの修羅場をくぐってきたのか気になる」
「……」
そんなはずがない。
ありえない。
レベル5なんて、ただの数字で何の指標にもなっていない。
俺は弱い、弱すぎる。
どうせこれから付き合いがあるわけじゃないんだ。
嘘を吐いたって、誤魔化したって意味はない。
見栄を張ったところで、どうせすぐにバレる。
「俺はレベル5」
「おお~、私達はレベル2なんだぁ。やっぱり強いんだ」
「でも不思議。噂でしか聞いたことがないけど、スキルガチャを回すのってもっとレベルが上がってからって憶えがある」
「……」
「私もそれ聞いたことある」
「もしかして、1人で活動していることに関係している?」
「え? 偶然じゃないの? 1人で活動している人ってかなり少数派だよね」
なんて言えばいいんだろうな。
明るく気さくに振舞って「実はパーティを追放されちゃったんだよね」と言うべきか。
それとも、今だけのことだから「かなりの苦労をしたもんだ」と誤魔化すか。
――どっちにしても惨めだな、俺。
ならいっそのこと、恥なんて捨てて正直に打ち明けてしまった方が楽なんじゃないか。
ああそうだ。
どうせ、俺は俺なんだから。
「実は俺、元々一緒に活動していたパーティから追放されたんだ。だから今は1人ってわけ。ちなみに、理不尽なってわけじゃない。俺が戦力外――ほとんど戦うことができないほど無力だったからだ」
「え……」
「……」
「笑っちゃうよな。ついでに、俺は駆け出しの鍛冶師でもあるんだけど、その才能だってほとんどありはしない。こんな俺には、"無能"って言葉がお似合いだよな」
さて、これくらいでいいだろう。
今の話を聴いて、この2人だってある程度は理解してくれただろうから、後は俺がこの場から立ち去って終了。
と、振り返ろうとした時だった。
「詳しい事情とかはわからないけど、私は笑わない。事実がどうなのかはわからないけど、少なくとも私達は
「そうね、私も同意見」
「本当に戦闘が得意じゃないかもしれないけど、そうだったとしても勇敢に戦ってくれた。この事実は誰がなんて言おうと覆ることはない。だよね、真紀」
「そんなの当たり前。もしも誰かが否定してきても、絶対に私達が肯定する」
「……」
なんだろうこの気持ち。
目頭が熱くなって、言葉が上手く出てこない。
俺は今、探索者になって初めて認められた。
今の今まで、誰かに褒められたことすらなかった俺が、今。
嬉しい、なんて言葉だけじゃ表すことができない。
閉じた口が歪んで、呼吸が少し乱れて、目に涙が溜まってきている。
初対面の人達が目の前に居るのに、泣き――。
「じゃあここで提案なんだけど。もしも一心くんが良かったらなんだけど、一緒にパーティを組まない?」
「ちょっと春菜、何を急に言い出しているのよ」
「真紀は嫌なの? 別に、男アレルギーとかがあるわけじゃないんだし、いいじゃん。それに、あのカッコいいスキルを使える人なんて他に居ないよ? 私達だってレベルは低いんだし」
「まあ別に、嫌とは言ってない」
「真紀ったら、ツンツンしちゃってぇ~」
「してない!」
唐突にかなり衝撃的な提案をされたものだから、渦巻いていた感情が綺麗さっぱりどこかへ飛んでいってしまった。
2人の言い分は理解できるからこそ、なんて返せばいいのかわからない。
「確認だけど、俺は間違いなく戦力外だ。2人が想像しているよりもずっと。なんなら、レベルだって1相当だ。そんな無能が一緒のパーティに――」
「もー。だからさっきから言ってるでしょ。別にそんなの、これから一緒に強くなっていけばいいじゃない。誰だって得意不得意はあるんだし、パーティならそれを補ってこそでしょ? 違う?」
「そうだけど……」
「春菜は言ってることは正しいけど、勢いで押しすぎ。一心くんにもいろいろと考えることはあるんだし、それを配慮してあげなきゃ」
「むむぅ……」
「でも、私も春菜が言っていることには同意。多すぎるのは問題だけど、パーティが3人になったらやれることの幅は広がるんじゃない? それぐらいは納得してくれるよね」
「それはそうだけど――」
「はいじゃあ決定ー!」
「えっ」
俺が肯定したタイミングを待っていたかのように、言葉を遮って両手を包むように握られた。
「じゃあこのまま申請をしに行こーっ!」
「私達も十分に休憩ができたしね。走ってダンジョンから抜けよ」
「一心も走れるよね」
「ま、まあ?」
「よーっし、じゃあレッツらゴーっ!」
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