第5話 今後のお仕事

大まかな事が決まった。

肩に乗っているカラスのボスを“クロウ”と名付け、一緒に行動することにする。


 俺と耕さんたちは、コンビニ5店舗を回り、処分する食品を分けてもらい、この公園に集める。

日中は近所の目もあるので、午前3時に収集、4時にこの公園に集合する。

 カラス達は、午前4時にこの公園に集合。ただし一声も出しては…、あ、鳥だから鳴いてはいけないが正解か。

ご飯を食べたら持ち場に戻り、他の動物がゴミ集積場所を襲わないように見張ること。


「イサークさんは人目につくから、何か良い手段を考えないといけませんね。

 私のところに転がり込んだ外人さんって事で…、異世界人との禁断の恋…。ムフ~!

 なんか凄い展開になってきそうですね~。」


ソメノさん、どこか遠くの世界に行ってるけど、いつ戻って来るのか…。


「いさくさん、食い物は何とかなったと思うが、あと2つあんちゃんが生きていく上で決めなくちゃいけない事があるぞ。」

「あ、衣類と住む場所…。」

「まぁ、そうだな。ただし、衣類は金と同じ考えだ。俺達も細々と仕事をしているから。」

「どんな仕事を?」

「いさくさん、そう丁寧に応対しなくても良いぞ。

 あんちゃんは、もう俺達の仲間だから、もっと自分を出せば良いと思うぞ。」

「そうか…、ではなく、そうですね。

 耕さん、すまないね。初めて話すヒトにはどうしても強がって見せてしまったり、逆に丁寧になったりしてしまうんですよ。」


「え、そうだったんですか?」

「ん?ソメノさんは気づいていなかったのか?

 冒険者ってのは、最初に舐められたら終わりだから、少しでも自分を強く見せようとするために言葉もぶっきらぼうになる。でも、受付とかには丁寧に応対しないと早く処理してくれないから、使い分けているんだよ。

 これだけ短い時間で、冒険者という性格を見抜く耕さんは凄いヒトだね。」

「あっはっは。夕映ちゃんとは年季が違うよ。」

「たかが20年くらいじゃないですか!」

「夕映ちゃん、そう怒りなさんな。

 こう見えても、昔は人事担当として働いていた事もあるんだぞ。

 ヒトを見る目は、そんじょそこらのヒトよりも持ってるぞ。

 あ、いけね。話が脱線した。

 でな、いさくさん。

 衣服を整えるには多少の金が必要だ。

 俺たちは毎日清掃業務や日雇いの仕事をしてるが、いさくさんはどうする?」

「日雇いというのは、一日働くだけでいいんですか?」

「あ、すまん。そういう意味ではなく、一日働き、働いた分のお金をもらうって事だ。

 あとは、住み込みで働くって話もあるが、こんな都会でそんな仕事は今は無いな。

 深夜の清掃業務なら紹介することはできるが、住み込みではないからどこかに棲む場所を決めておく必要があるが。」

「耕さん達はどこに住んでいるんですか?」

「それは聞いちゃいけない話だ。

 俺たちは“ホームレス”と呼ばれている。つまり“家が無い”んだ。

 でも、寝起きする場所はある。いさくさん、これがどういう意味を持っているか分かるかい?」

「誰かに家を知られたく無いという事でしょうか。」

「だな。

 今日日の若い輩は、俺達を社会の落伍者として見下している。まぁ格差社会の世の中だから、自分たちよりも立場の弱い者を虐めて自己満足する輩も多いんだ。

時々、俺たちの仲間がそういう輩に暴行されて怪我したり、最悪の場合死ぬこともある。

でもな、俺達に暴行を加えた奴らは若いせいか、罪が軽いんだ。

ヒトを殺したのに、5年もムショに入れば出て来てしまう。そんな世の中なんだよ。

ヒトの命ってのは格差によって違うものなのか?

それからだよ。俺がこの社会に嫌気がさしたのは…。」

「そうでしたか…。

ムショが何かは分かりませんが、ヒトを殺したのに5年で済むんですか?

 俺のいたところは、ヒトを殺した者は鉱山奴隷として一生過ごしますよ。

 まぁ、そいつらは半年もしないうちに死にますがね。」

「そんな制度もあるんだな。世界は広いな…。

 だから、住む場所ってのは、教えないってのが暗黙のルールなんだ。」

「要らないことを聞いてしまい、すみませんでした。」

「謝る必要は無いぞ。

 後は、いさくさんがどうするのか決めることだ。」


「あ、あの…。私もお話しさせてもらって良いでしょうか。」


ソメノさんが話に入って来る。


「もし、イサークさんが、その何とかって国のヒトであれば、パスポートを発行してくれるんじゃないですか?」

「セン〇クリス〇ファー・ネービ〇か?

 夕映ちゃん、あの国はパスポートを販売してる国だって聞いたことがあるぞ。

 再発行なんてするより、売った方が効率的だから、いつになるのか分からんぞ。

まぁ、それよりも俺達と同じように、目立たないように生活していた方が良いと思うが。」

「そうですよね…。

 記憶喪失だからと言って、病院に数年入院して、それから戸籍を新規に取得ってのも気が遠くなる話ですものね。

 そんな事言ってて、明日にでも前の国に帰る事もあると思いますし…。

 では、私のアパートに空き部屋がありますから、そこで住んでもらいましょうか。」

「あ、夕映ちゃんってアパートのオーナーさんだったな。」

「父と母が残してくれたものだけどね。

 取り敢えず、落ち着くまではそこで寝泊まりして。」

「ソメノさん、すまない。」

「良いの、良いの。

 それよりも、イサークさんの国の話をもっと聴かせてくれると嬉しいな。」

「いさくさん、良かったな。破格の対応だぞ。」

「ソメノさん、何から何まですみません。少しの間お借りします。」


***

**


「ソメノさん…、アパートというのが家だと推測できたんだが、これは一体どんな砦だ?」


 ソメノさんに引き連れられてやって来たのは、灰色の石でできた高い建物だった。


「あ、これ?父と母が残してくれた遺産。アパート経営をすることになってて。

 とは言っても、全部企業に任せてあるから、私は何もしなくてもいいんだけどね。」

「すまないが、こんな砦のような所でなく…。そうだ、この砦の地面にテントでもはって生活するってのは。」

「不審者として通報されますよ。

 うーん…、じゃ、もう一つのアパートに行きます?ってボロボロだけど。」


歩いて数分の所にあるアパートに着く。

 うん、前の砦よりは良い。

木造の塀よりも強い鉄のようなもので作られている。


「ここは、今住んでいるヒトが居ないから、イサークさんだけで住んでね。

あ、それと、お掃除とかもしてくれると嬉しいな。」

「あぁ。それくらいなら出来るよ。

 ソメノさん、すまない。

 少しの間、お借りするよ。」

「あれ~~?イサークさん、元の言葉に戻ってる!

 私も耕さん達と一緒のしゃべり口調でないといけないよ。

 あ、そうだ!イサークさんにここの管理人をしてもらおう!」

「管理人とは?」

「このアパートというか、建物の管理をしてもらうヒト、当然敷地の草とか掃除もしてね。

 そうね…。報酬はここでの寝泊まりに合わせて15万って所でどう?」

「その管理を何をするのか、それにじゅうごまんという所がどこにあるのかが分からんのですが…。」


「あ、そうだった…。」


ソメノさんは、アパートの1階のカギを開け、ブレーカーを上げる。


「とりあえず、住める環境にはなってると思うけど。説明しておくね。」


アパートの部屋にあるものを一つずつ説明してもらう。


***


部屋の中には魔道具が沢山置いてあり、中でも小さな板を押すと火が出る魔道具や、取っ手をひねると水が出るモノ、紐を引っ張るとライトの魔法が出るもの、小さな扉を開けたり、四角いボタンを押すと氷魔法のような風が出てくる魔道具が沢山ある。

 この日本という国は、鉱物の資源国のみならず、魔導国でもあったのだ。

 とんでもない国に来たものだと恐ろしくなった。


 その後、ソメノさんにこちらの世界の金銭について教えてもらうこととなった。

10円が鉄貨、100円が銅貨1枚、1,000円が小銀貨一枚、10,000円が銀貨1枚、その上には金貨もあるが、そんな買い物はしないことで。まぁ100万円が金貨1枚らしい。

さらに、この国では紙がふんだんに使用されており、お金まで紙でできていた。

それに、一枚一枚同じ絵が描いてあり、精密にできている…。

どれだけ凄い職人がいるんだ、と感心してしまった。


 底知れぬ力を持っている国だ…。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る