第4話 テイムできてますが…?

「そうか…。みんな職を持って生きているんだ。

 だから、あのおっさん達のように笑顔になれるんだな…。」


ソメノさんがもう一度顔を曇らせる。


「耕さんやすえさん達は、昔は職を持っていたかもしれませんが、今は無職という事になります…。」

「ん?無職なのか?」

「はい…。それに、過去には戸籍があったと思いますが、今はその戸籍もあるのか無いのか分からないという事もあると思います。」

「それはどういう事なんです?」

「えぇと…、

イサークさんの世界でのスラムと一緒の扱いだと思われるのが一番手っ取り早いと思います…。」


 そういう事か…。

戸籍を持つとか、税金を納めていないヒトはヒトとみなされていない、という事か。

スラムに棲むヒトや孤児、税金を払えなくなったヒトと同じか…。


「すまない。こんな事を聞いてしまって…。」

「いいえ、この世界でも現実は良いものばかりではありません。」

「耕さんも、すえさんも大変なんだ…。」

「それは彼ら自身で決めることであり、私たちが決める事ではありませんよ。」

「ん?それはどういう事だ?」


「つまりだな…。」


耕さんが頭をポリポリと掻きながら、こちらに歩いてきた。


「俺たちは好き好んでこうしているって事だよ。

 国や行政といったものに極力頼りたくないんだ。

 勿論、ヒト様にも極力頼りたくは無いが、そうは言っても、腹が減る時は仕方がない。それに、こうやって、俺達に施しをしてもらえる場所があるって事はありがたい。それに、ここに来れば情報交換もできるしな。」

「イサークさん、耕さんたちはイサークさんと同じ冒険者なのかもしれませんね。」

「ほう!冒険者か。“敢えて危険を冒して進む者”か…。そりゃ、恰好良すぎる言葉だな。

 なぁ、いさくさん。俺たちはそんな恰好良いもんじゃなくて、落伍者とも言えるんだよ。」


 耕さんが笑うも、笑顔の中に寂しさが見え隠れしている。


「俺達は、この日本と言う世界についていけなくなったヒトだ。

 だから、みんなの力に頼り切って生きているという見方もできるんだ。

 まぁ、どっちに捉えたとしても、俺たちは俺たちだから変えようもできんが…。」


「耕さん、こんな事を聞いてしまってすまない。」

「良いって事よ。それに、こういった社会もあるってことを、むしろ目ん玉開いて、良く見てて欲しんだよ。外人さんから映った日本という社会を自分の国に帰ったら伝えて欲しいと思ってね。」


 スラム街には極力足を踏み入れなかった。

危険だという事もあったかもしれないが、それよりも彼らの存在を俺の視界の中に入れなようにしていただけかもしれない。


「耕さん…。」

「いさくさん、良いって良いって。

俺たちは自分の意志でこうなったんだ。

 後悔なんてしちゃいないよ。って言ったら恰好良くなるか…。まぁ、現実から逃げたのは事実だから、それはそれとして受け止めているから。

 で、いさくさん、この国では“働かざる者、食うべからず”という言葉があるが、あんた、どんな資格を持っているんだ?」


「しかく?しかくとは?」

「外人さんだったな…。えぇと、ライセンスだよ。職だよ、職。

例えば、ダンプの運ちゃんとか、ボイラー師とか…。」

「それだったら、テイマーだが。」

「テイマー?なんだそりゃ?ワンコの毛をカットすることか?」

「耕さん、それはトリマー。

テイマーってのは、動物を使役するヒトの事なんだよ。」

「調教師か?お手とかお座りとかさせるのか?」

「もう、違うよ。イサークさんはネズミと鳥を使役していたんだよ。」


ソメノさんが耕さん達に説明してくれる。

その間、俺は公園の周りに居る黒い鳥に目を移す。

黒くてピカピカしている綺麗な鳥だ。

この鳥の中にボスがいるはずなんだが…と、辺りを見渡すと、少し離れたところで、一羽だけ高い場所に停まっている鳥を見つけた。


「彼をテイムできれば、この群れを動かせるか…。」


 そう思いながら、その鳥の近くまで歩いていった。

その鳥は俺が近づいたことにも動じず、ジッと俺を値踏みしている。


「効けよ。テイム!」


 あれ?魔法紋が光らない…。

って事は、魔法は使えないって事か?


 そんな事を考えながらいると、さっきのトリが高いところから俺の眼の前に下りてくる。


「珍しい技を使うようだが、この辺りの人間じゃないな。」

「え、あんた…。しゃべれるのか?」

「というより、お前がそうしたんじゃないのか?」


 思考回路が追い付かない。

確か、テイムする際は光の紋様が出て、双方合意の上で主従関係を結ぶというものがテイムであったと教えられたが…。

 だが、このいつの間にかテイムが出来、それも意思疎通ができるようになっているとは…。


「で、あんた、俺達をどうするんだ?」

「あ…。すまない。

 できれば、俺と一緒に仕事をしてほしいんだが。」

「あのな…。俺たちはあいつらから見れば害にしかならない鳥だぞ。

 それを飼いならして、何をするつもりだ。」

「まだ、何も考えていないが、皆が生活できるくらいにしていければ良いと思う。」

「別に俺たちは困っちゃいないが、なんか面白そうだな。

これだけの群れを養うには…。そうだな…。食い物を毎日5kg。これが最低ラインだな。」


5kgが多いかどうか分からないが、一応テイムしておいた方が良いだろう。


「あぁ。できるかどうか分からないが、やってみよう。

 もし、ダメだった時は、その時は契約を解除してもらっても構わないから。」

「よし分かった。まぁ、今日は食事をとったから、明日から始めよう。

 俺はお前の傍に居るが、仲間は分散させるが良いか?」

「構わない。それで頼む。」


 何故かテイムできてしまった…。

どう使おうか迷うがしてしまったものは仕方がない。

俺の肩に一羽の黒い鳥が止まることとなった。


「あの…、イサークさん…。」

「ん?あ、ソメノさん…。」

「皆さん、びっくりしているんですが…。

 さっきから、いきなりカーカーと言い始めたら、いつの間にかイサークさんの肩にカラスが一羽止まっているという状況について教えてもらえないでしょうか。」


***


「凄いですよ!それがテイムというんですね。」


これまでのいきさつと、この黒い鳥、カラスというようだが、テイムした時の話をした。

ソメノさんは、目をキラキラ輝かせている。

耕さんは、面白いものを見るように終始ニヤニヤとしている。


「で、一日5kgの食べ物ですか…。そんなに稼ぐことってできますかね。」


ソメノさんが首をかしげる。


「あ、そんなの簡単だぞ。」


耕さんがニヤニヤしながら話し出した。


「コンビニで廃棄する弁当を社会貢献という名目で寄付してもらうんだよ。

 まぁ、俺達を助けると言った手前で集めるんだが、それも内緒でやらないといかんぞ。」

「耕さん、内緒というのは?」

「万が一、廃棄食品食って、腹でも壊したら大問題になるだろ。 

 今回は、カラスの食事だから問題はないとは思うが…。

何せ、野生の動物に餌付けしているってバレただけでも大問題になる世の中だぞ。

企業側のCSとか、信頼問題ってのがある。

まぁ、仲の良いコンビニの店長を何人か知ってるから、そいつらに内緒で頼むとするが、カラス達にもひと肌脱いでもらう必要があるな…。」

「カラスにですか?」


 耕さんとソメノさんが一生懸命話している姿を横目に、一人置いてきぼりを食らった俺は、カラスと戯れている。


「いさくさん、例えばだが、そのコンビニの周辺、半径100mのゴミ集積場にはカラスが侵入しないようにすることは可能かい?」

「へ?は?何て?」

「だから、コンビニの周辺100mのゴミを集める場所にカラスを来させないようにすることはできるかって事だが?」

「ちょと待って。コンビニって何?」

「いさくさんは知らなくても、カラス達は知ってるから、そのまま伝えてもらえれば分かるぞ。」

「そ、そうか…。それじゃ確認してみる。」


 肩に乗っているカラスに説明する。


「縄張り次第だな。

 俺の縄張りにあるコンビニだったら、それは可能だ。」

「縄張り次第という事だが…。」

「縄張りってどこからどこまでか、確認してほしいんだが。」


「この区全体が俺の縄張りだ。」

「って、あんた、耕さんの言葉が理解できるのか?」

「当たり前だ。俺達は言語理解くらい持ってる。

 だが、俺たちはお前たちと声帯の構造が違うから意思疎通できないだけだ。だから、こうしてお前に通訳をお願いしているんだが。」


 言われたとおり、耕さんとカラスとの会話の橋渡しをしていると、ソメノさんからは、

「なんかテイマーさんって、通訳士さんみたいですね。」と言われた。

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