第3話 おっさんの会合

 振り返ると、50代?60代の男性数名が集まっていた。


「外国人なんて珍しいねぇ。ほわっちゅあねーむ?」

「耕さん、英語かどうかは分からないよ。ぼーぼーねんじー?」

「お、すえさんは博学だね。ドイツ語かい?で、意味は何だ?」

「いや、知らね。」

「知らないのに使ったんかい!」


 言語理解のスキルがあるせいか、何故か分かってしまう。


「はじめまして。イサークと言います。住んでいた場所はネービです。」

「おぉ!通じたぞ。

 日本語おじょーずですね!」

「ありがとうございます。」


 耕さん、すえさん以外にも、たーさん、うめさん…、全員の名前が覚えきれない。

少し戸惑っていると、耕さんが助け舟を出してくれる。


「外人さんには日本人の名前を覚えてもらうは難しいから、今日はこれくらいにしようや。」

「ま、そうだな。追々話すこともできるし。で、あんちゃんはここに来る前はどこにいたんだ?」

「おい、すえさん!さっきネービって言ってただろ。で、ネービってどこだ?」

「あ、そりゃ、多分“セン〇クリス〇ファー・ネービ〇”の事じゃねえか?」

「は?そんな国か地名か分からんような所あるんか?」

「確かそんな国がどっかにあったと思うぞ。」

「うひゃ、流石耕さんだね。世界をマタにかけていた社長さんだ!」

「ははは。今じゃしがない耕さんだよ。」

「違いねぇ。で、あんちゃん、そんな国から何で日本に?出稼ぎか?」


 何か掛け合いが面白いな。

ポンポン会話が飛び交っている。それも一定の流れでだ。

聞いていて心地よい。


「昨日、城円寺に居ました。でも、その前の事は覚えていないんです。」


「みんな、あまり質問攻めにしないであげてね。

 イサークさんは昨日の雷に打たれて記憶喪失になっているんだと思うから。

 それよりも、皆早く準備しないとご飯なくなっちゃうわよ。」


ソメノさんが助け舟を出してくれ、皆が料理の方へ向かう。


「イサークさんも、みんなの後ろに並んでね。」


皆の後ろに並び、白い塊と茶色の飲み物をもらう。


「イサークさんは外人さんだから、お箸は使えないと思うから、これね。」


お、スップンではないか!これなら食える。

しかし、この白い塊は何だ?小さな穀物が固められているのだが。


まじまじと見ている俺を見て、すえさんが教えてくれた。


「いさくさん、これはな“おむすび”って言って、米だ!こうやって、ガブって食べるんだぜ。」


三角の一つの頂点にかぶりついた。


「ん~。うめ~!やっぱ日本人は米だよ。コメ!」


そうか、こうやってガブっと食べればいいんだな…。

一口食べる…、が、口の中に異様な味が広がり、むせてしまった。


「何ですか?このすっぱ、辛いものは…。」


「あ~、そういや外国には梅干しってのはないんだったな。」

「いきなり日本文化の洗礼だな。“かるちゃーしょっく”って言うんだっけか?」


 皆が笑いながら、おむすびを食べている。


「いさくさん、それは中に梅干しって酸っぱいモノが入っていてな。それがまた食欲をそそるし、何よりも今日のような暑い日にはもってこいの食べ物だ。」

「最初は酸っぱかったが、もう大丈夫だ。

 自分の街にも“ピクルー”というモノがあったから。」

「お!ピクルスがあるんだ。なら問題ないな。

 あ、このスープは“豚汁”って言ってな、いろんな野菜やら豚肉が入ってるから健康にいいぞ。」

「豚肉は、よくよく探さないと見つけられないがな。」

「ははは、違いねぇ。でもよ、週一回でも、こんな“ごっつぉー”を食べさせてもらえるだけでもありがてえんだよな。」

「そうそう、これも所長さんや、ゆえちゃんのおかげだよな。」


 みんな笑っている。ヒトが良さそうだ。

“とんじる”という辛いスープを飲み、おむすびも平らげた。

不思議と安堵感が生まれた。


「よいしょっと。

 で、イサークさん、少しは思い出せた?」


ソメノさんが汗をぬぐいながら隣に座った。


「あ…、ソメノさん…。食べ物ありがとう…。」

「いいの、いいの。これも私たちの団体の仕事だからね。」

「仕事?」

「そう。うーん。簡単に言えば困っているヒトを助けるって仕事なんだ。」

「そんな仕事があるんだ…。

 俺が住んでた街では、あそこのおっさん達のようなヒトが沢山いたが、助けるという事はしなかったな。あ、教会が孤児を育てていたくらいか…。

 でも、何で彼らに食事を提供するんです?」

「うーん…。それを言うと難しい話になるから余り言えないね。

 でも、一つだけ言えることがあるとするなら、彼らが元気に生きてるかどうかを確認できるって事かな。」

「皆、仲が良いんですね。」

「そうだね。イサークさんの街では、そんな事はなかったの?」

「仲の良い人は数人いた。でも、そいつたちも一人居なくなり、また一人居なくなったりして、気づいた時は俺一人になって…。」

「あ、ごめんなさい…。聞いちゃいけない事だよね…。」

「いや、構わないよ。

 俺たちは冒険者だから…。自分の身は自分で守るって事だ。

 危険を冒しながら生活する者だからね…。」

「でも、イサークさんは生き残ったんでしょ。それって強いから生き残ったんだと思います。凄い事だと思います。」

「ソメノさん、ありがと。

 でも、俺は強い訳じゃないんだ。職業がテイマーだから、危険な依頼は受けなかったというのが正解だよ。」

「え、嘘。テイマーさんなんですか?

 どういった動物をテイムしてたんですか?」

「ソメノさんはテイマーを知っているのか…。凄いな。

 俺は強くはないから、森ネズミと尾長鳥だけ…。」

「ネズミとトリですか、それでも凄いです!で、どんな事をしてたんですか?」

「薬草採取だよ。ネズミは得意だからね。」

「トリさんは?」

「上空からの偵察。魔物が居ないか見張ってくれてた。」

「それって、凄い事じゃないですか!」

「そうなのか?」

「だって考えてみてください。見張り役が居れば安全に採取ができるんですよ。だから強いんですよ!そりゃ、剣とか魔法とか使って魔物を倒すヒトは凄いと思いますよ。

 でも、こうやって生き残っていく術を持っているヒトを私は尊敬します。」

「ソメノさん、ありがとう。

 そう言ってもらえると少し活力が出てきたよ。

 あ、一つ聞いていいかい?」

「はい。何なりとどうぞ。」

「この世界には俺のようなテイマーが居るのか?それとももっとすごい奴が居るのか?」


 ソメノさんの表情が一瞬曇る。


「イサークさん…。

 この世界では剣や魔法は使えないんです。」

「そうか…。では、どんな職業があるんだ?」

「そうですね。いろんな職業があります。

 悪いヒトを捕まえる警察官や、火事や事故の時、ヒトを助ける消防士、ヒトの病気を治す医者、公務員や保育士、教師、弁護士…。」

「ちょ、ちょっと待って。

 そんなにいっぱい職があるのか?」

「はい。ヒトが生きていく事を助けるために必要だと感じた職があるんだと思います。だからいっぱいの職があるんだと思います。」

「この国は凄いな…。ヒトが生きていくことを助けるために必要な職もあるんだ…。」

「そうでもありませんが…。」

「ん?それは何故だ?」


「例えば、さっき話したように、イサークさんのように身元が判明されないヒトは、正規な職には就けません…。

それに税金を納めなくてはいけません。」

「そうですか…。では、俺はこれからどうしたら良いんでしょうか…。」

「そうですね…。記憶が戻ることが一番なんですが、イサークさんは既に記憶があるんですよね。」

「昨日までどういった場所でどんな生活をしていたのか、詳細に話すことができるよ。」

「イサークさんが異世界で過ごしていたという事が、この世界では信じてもらえないんですよ。」

「しかし、ソメノさんは理解してくれたが…。」

「わ、私は…。

 ファンタジーやおとぎ話といったお話が大好きだし、ラノベも好きだし…。

 でも、そういったヒトって、空想癖や妄想癖があるからと言われ、あまり相手にしてもらえないんです…。“夢見る夢子ちゃん”なんです。」


 何かよく分からないが、思想や何かまで統制されているんだろうか…。


 少し怖くなった。

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