カタリナは残酷で醜い真実に触れてしまう


 何かに意識が吸い込まれたような感覚が訪れ、終わり、目を開けると、私の記憶の中にある通りのお父さんといつもお菓子をくれたりして優しくしてくれたお父さんの部下達がいた。

 自分を見ようとするが、薄い靄のようなものに覆われて、何にも触れないし声もでない、干渉が出来なかった。

 私は第三者視点から真実を追体験していた。


「代表、遊戯天弱が麻薬の取引量を増加を求めています」


「遊戯天弱か。逆らうと面倒だしな。分かった増やしてやれ。その代わり愚民に流通させる分の品質は低下させて構わん。何、どうせ麻薬中毒者共にとって品質の違いなんて分かるわけがない」


「確かにそうですね」


「そういえば、例のお貴族様との取引はどうなっている」


「ああ、あの愚物ですね。今高品質の麻薬で麻薬漬けにしている所です」


「そうか。良くやった。たかだが男爵家とはいえ貴族は貴族だ。麻薬漬けにしてこちらの傀儡となれば商売がやりやすくなる」


「ええ。そうですね。最近は賄賂の通用しない憲兵も増えてきましたからね」


「まあ、その場合は不慮の事故で死んでもらうがね」


「はい。偶々偶然恨みを持った麻薬中毒者に襲われてね」


「ハハハハハハハハハハ」

「ハハハハハハハハハハ」

 醜く汚い笑い声が響く、ひたすらに響く。

 耳障りで気が触れそうな声が真実がカタリナの脳を犯した。

 



 え?

 今の光景は何?

 お父さんが麻薬取引をしている?優しかった皆が犯罪を犯してる。

 憲兵を殺して、貴族を麻薬漬けにしようとしている。

 待って、遊戯天弱、教科書にも出てくる最悪の犯罪組織じゃなかったけ・・・。

 悪徳貴族と悪徳商人が集まり、無実の人を奴隷にして弄ぶ、人を人とも思っていない地獄じゃなかったけ・・・。

 そんな組織とお父さんが繋がっている。


 ハハハハハ。


 嘘だ嘘だ嘘だ噓だ噓だ。


 こんなのは嘘だ。


 ビューーーーーーーン

 風が鳴るような世界が代わるような音と共に場面が代わる。


 お父さんとお母さんがベットの上で会話をしていた。

「ねえ、貴方。新しい奴隷欲しいな」


「またか。で?どんな奴隷が欲しいんだ?」


「そうね。金髪碧眼の美少年奴隷が欲しいから。甚振って甚振って良い声で鳴かせて絞め殺したいわ。その命が散る時の行為が最も気持ちがよいもの」


「分かった。用意しておこう。相変わらず良い趣味しているな」


「そういう貴方だって、少女を甚振って殺すのが趣味っていう良い趣味をしてるじゃない」


「ハハハ。そうだな。やっぱり自分より弱い存在を無理やり支配してるって感覚が何とも言えぬ快楽を俺に与えてくれる」


「分かるわよ。その気持ち」


「本当に君とは気が合うな」


「ええ。そうね。貴方」

 

「ハハハハハハハハハハ」

「フフフフフフフフフフ」

 醜く汚い笑い声が響く、ひたすらに響く。

 お母さんは少年を甚振り殺すことを趣味にしていて、お父さんは少女を甚振り殺すことを趣味にしている。


 おかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしい。


 違う違う違う違う違う違う違う違う。


 だって、お父さんは優しくて、お母さんも優しくて。

 私を愛してくれて、絶対そんな酷いことをする人間じゃない。

 ない筈なのよ・・・・・・・。


 その瞬間、無理やり閉じ込めていた存在していた記憶がカタリナの脳内に溢れ出した。


 それは5歳の時に家でかくれんぼしてる時に見つけた怪しい地下室。

 明らかに人の血痕と思わしく悍ましいそれ。

 人ではない、肉の塊。

 今でこそ分かる、人間が生き物が腐った時にするあの異臭。

 当時はそれが何か分からなくて、すぐにお父さんの部下の人に連れられて、何もなかったと、見なかったと約束したけど。

 アレはそういうことだったんじゃ・・・。


 違う違う違う違うわ。

 絶対に違うわ。


 嘘よ噓よ噓よ。


 だとしたら、私が今までアンクル商会を恨んでいたのは何になるの。

 アンクル商会が正義で私達が悪じゃないの。


 ビューーーーーーーン

 風が鳴るような世界が代わるような音と共に場面がまた代わる。

 

「何故だ。何故だ。何故だ。クソったれた。アンクル商会め。麻薬の規制なんてしおって、せっかくの金蔓を治療しやがって、せっかく麻薬漬けにしたクソ貴族も殺しやがって。クソクソクソクソ。死ねよ。アンクル商会が」

 一人、書斎で物を壊しながら暴れるお父さんがいた。

 その眼は血走っていて正気の沙汰ではなかった。


「残念ながら死ぬのは貴方です」

 突然、全身黒づくめの怪しい男が現れた。

 今の私だから分かる。明らかに場慣れした佇まい。一切魔力を感じさせない隠蔽能力。この怪しい男はかなり強い。モブイ君には及ばなくても、私なんかよりはずっと強い、最低でもBランク冒険者に匹敵する力を感じた。


「お前は、まさか、アンクル商会の手の者か。クソ、護衛はどうした。何のために高い金を払ったと思ってる。おい、おい、出て来い。・・・クソが殺したのか?」


「それを知った所でどうするのですか?私はただ任務をこなすだけです」


「ま、待て。金を払おう。いくらでも払おう。それよりも麻薬の方が良いか?絶対に味わえない快楽を味わえるぞ。命を助けてくれるのならば幾らでも、ぐぁぁぁ」

 お父さんの右腕が飛んだ。

 放物線を描いて綺麗に飛んだ。


「おい、元麻薬中毒者からの助言だ。殺されたくなかったら二度とその汚い口を開くな」


「は、ふゃ、ふゃい、ぐぁぁぁぁ」

 左腕が飛んだ。

 その攻撃は私の眼でも捉えきれない程早かった。


「口を開くな。次は殺す」

 お父さんはみっともなく泣きながら首を何度も縦に振った。


 お父さん、一人で逃げたと思ってたけど、これはアンクル商会に殺されたってこと・・・。

 でもある意味それは当然の報い、人々を麻薬漬けにして搾取した当然の報い・・・。


 ビューーーーーーーン

 風が鳴るような世界が代わるような音と共に場面が代わる。


 そこには白衣を着た大きな胸の女性が飛び切りの笑顔を浮かべていた。

 同性の私ですら少し胸がときめいてしまいそうな可愛らしい笑顔だった。


 だけど、その下、眼下には板の上に裸で拘束されたお父さんがいた。

 腕は切断されたままだった。


 女性は笑顔でお父さんのお腹を切り裂く。

 お父さんが叫ぼうとするが口が縫い付けられていて、うう、ううう、という声にならない呻き声だけが響く。


「さぁて、今日はどんな実験をしようかな。どの内臓を切除すれば死ぬのか実験しても良いし、魔物の心臓を移植しても生きることが出来るのか実験しても良いな。

 あ、でもこの実験体は人を麻薬漬けにして富を築いてたんだっけ?

 じゃあ、全身に直接麻薬の成分を注入してみたらどうなるか実験しよう。

 よし、そうしよう。

 いやあ、楽しいな楽しいな」


 それから始まった光景は思わず目を背けてしまう程惨い物であった。

 麻薬・・・様々な種類があるが、この世界における麻薬は基本的に魔力を活性化させて、気分を向上させるものがほとんどである。

 ただし副作用として異常なまでの中毒性と魔力回路を傷つけ使い物にならなくさせる効果を持ち。

 粗悪品であると毒性まで持っており蓄積すると命を蝕み最終的に惨い死を迎える恐ろしい物である。


 そんな麻薬を、それも粗悪品を全身に注入するとどうなるか。


 答えは簡単。


 全身の魔力回路が異常な活性化を起こし、異常なまでての高揚感はむしろ毒となり、神経が異常なまでの敏感になり、まるで直に露出して風にあたるだけでも地獄の痛みを味わうことになる。

 その上で毒が全身を巡り、その敏感になった神経に強烈な痛みを及ぼす。


 声も出せないような地獄の痛み。

 気絶しようにも気絶出来ない程の痛み。


 あっという間に精神が崩壊して、白目を向き肉体も生きることを拒否して死を迎えた。


 否。


「回復魔法・完全回復。何、勝手に死のうとしてるの、実験はまだまだこれからだよ」


 そして、数多の弱者を麻薬漬けにし、自殺に追い込み、少女を支配して殺すことに至高の喜びを覚えた最悪の犯罪者は一人のマッドサイエンティストの手によって地獄の痛みと苦しみを味わいながら後悔の果てにその生を終えるのだった。




 ビューーーーーーーン

 風が鳴るような世界が代わるような音と共に場面が代わる。



 今度は全てを失い、貧困に喘いでいた頃、それでもお母さんがいてまだ何とか心の健康を保てていたあの頃だった。

 暴風でも吹いたら吹き飛びそうなあばら家の中でお母さんが、虚ろな目をしていた。


 半ば屍のような状態であり、あの頃の少年を甚振る快楽を忘れられない屍。

 それでも醜く生にしがみつく屍であった。


 その屍の元に一人の屈強な男が現れた。

 その屈強な男は今から5年前、カタリナのお母さんの手によって拷問され捨てられた少年であった。

 捨てられた後、スラム街で泥水を啜って生きてきたが、病にかかり命を落としかけていた。

 そこをダーネスに拾われ、育てられ、今までの遅れを取り戻すかのように身体が成長し、必死の努力と戦闘の才能のおかげで、レベルは50を超え100人の部下を持つ立派なダーネス第六暗殺部隊隊長にまで上り詰めた。


 そして偶々部下から今回の顛末を聞き、上司の許可を取り復讐を行うことにした。


 ただ、彼はやせ細り輝かしき日々の夢しか見ていない屍を見て、復讐する気をなくしてしまっていた。


「これが、俺の過去の汚点か・・・俺の元ご主人様か。ハハハ。醜くいな」

 自嘲気味に男は笑う。


「な、何者よ。こ、来ないで」

 大きな体を持った自分に怯えるその姿は彼の記憶の中にある高笑いしながら自分を殺そうとした化け物とは似ても似つかなかった。


「本来であれば、同じ境遇で死んでいった同士達の為にも出来る限り惨たらしい死を与えたい。だが、その気も失せた。せめて安らかに」

 

 糸を操り、首を絞める。

 抵抗を見せようとするもレベル50越えの暗殺者に敵うわけもなく、あっけなく死んだ。



ビューーーーーーーン

風が鳴るような世界が代わるような音と共に場面が代わる。


一人で逃げたお父さんに憤りを覚える自分。

自殺した母親に屍で泣き、アンクル商会とお父さんに復讐を誓う自分。

全てを恨んで憎んでこの世界で自分が最も不幸で可哀想な人間だと思っていた自分。

アンクル商会はむしろ正義であったのにも関わらず、恨んで恨んで恨んで、見当違いの悪意を振りまいている自分。


嗚呼、何て、何て愚かなのだろうか。


私はこれからどうすればいいんだ・・・。

私は・・・私は・・・私には何が残っている・・・。






―――――――――――――――――――


 自分で書いててアレだけと重すぎてビビる。

 オタクに優しい清楚系ギャルを曇らせたかった。

 きっと誰かの性癖に刺さると信じて。

 大丈夫、両親クズ設定だから、しょうがないって奴だ。オタクに優しいギャルことカタリナちゃんはモブイが幸せにしてくれるぜ。

 モブイもモブイで過去クッソ重いし。

 お似合いだね。(作者人の心とかないんか?)

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