カタリナは振り返る
私が最も幸せだったのは6歳の時だったと思う。
お父さんがいてお母さんがいて、お父さんの商売は上手くいっていて、周りの大人たちも皆私に優しくて、欲しい物があれば何でも買って貰えて、何だってして貰えた。
皆笑顔で皆が大好きで皆幸せなあの日々。
ただ、その幸せは一瞬にして崩れることになる。
そう、憎きアンクル商会のせいで、アンクル商会は私から全てを奪った。
上手くいっていた筈の商会から客を奪った。
お金を奪った。
優しかった周りの大人達が次々と私の側からいなくなって、いつも笑顔だったお父さんから笑顔が消えた。
よく分からず理解も出来ないままに、お父さんがいなくなり、商会は潰れて、あっという間に底辺に落ちた。
お母さんと一緒に逃げる様にスラム街でその日暮らしをすることになった。
幼く力もなかった私は憎きアンクル商会の炊き出しや援助のおかげで生きることが出来た。
施設に入らないかという誘いもあったが、それを受け入れてしまうと自分の中の何かが壊れてしまう気がして逃げてしまった。
逃げて逃げて逃げながらもお母さんと一緒に暮らした。
まだ私の中でお母さんが唯一の心の支えだった。
暮らしていたけど、ある日、お母さんは首を吊って死んでいた。
ボロボロの家の中は特に荒れてなかったし、盗むようなものもないが、何も盗まれてなかった。
自殺だった。
私の中の何かが壊れた音が聞こえた。
それから私はアンクル商会を私とお母さんから逃げたお父さんを恨むようになった。
恨んで恨んで恨んでひらすらに恨んだ。
ただ、私の冷静な部分はアンクル商会が本当に悪ではないと理解もしていた。
アンクル商会はただ商売をしただけ、私達家族を陥れようとも地獄に叩き落してやろうとも考えてはない。
ただ、結果的にそうなってしまっただけ。
商売という世界でみればしょうがないと言えることだって、理解していた。
それでも許せなかった。
許せなくて許せなくて、許せなかった。
だから復讐をしようと決めた。
その為に努力して、努力して、努力した。
ひたすらに努力して足掻き続けた。
才能があったのか、努力は身を結び、あの英雄学園に給与型の奨学金を貰って入学することが出来た。
その奨学金はアンクル商会からのものであった。
結局私は色んな所でアンクル商会に助けられていた。
それが悔しく悔しく、逆恨みだって分かってても恨まずにはいられなかった。
そして、英雄学園にて出会ってしまった。
アンクル商会・十二統括者の一人・グレン・アスフォールに。
グレン・アスフォールは全てを持っていた。
貴族という最高の生まれに、優しい家族、圧倒的な力、権力に財力。
私から全てを奪ったアンクル商会の十二統括者が私の持ってない物の全てを持っている。
これが許せるわけがなかった。
だから観察して、直接接触して理解した。
絶対に勝てないと。
せめて嫌がらせをしようと思った。
グレン・アスフォールと仲の良いモブイ君に近づき、落とし、仲違いさせてあわよくば殺してやろうと思った。
その為に行動を起こして、周りと馴染むために浮かない為に仲良くしておいた友人達とモブイ君とでダンジョンの潜ることに成功した。
ここでモブイを落として私の物にして見せる。
そう思っていたが、友人達が普通にモブイ君に惚れてしまっていた。
待って、違うの。
モブイ君を落とすのは私じゃなければならないのに。
じゃないと復讐が復讐が出来ない。
負けないように段々とモブイ君に対するスキンシップが大きくなっていた。
自分でも何でこんなに大胆になってしまってるんだろうと少し戸惑いながらもモブイを手に入れる為にどんどん激しいスキンシップをしていった。
何かもう訳も分からず傍から見たらイチャイチャしながらダンジョンを進んでいった時、とある階層に転移した。
その階層は真ん中に大きな水晶のようなものと、異質なナニカがいた。
そのナニカは人の形をして紫色のローブを深く被っているけど、よく見ると顔が一切存在しなくて、生命から感じる生の気配というものがなかった。
「皆、今すぐ俺の後ろに下がれ。コイツはヤバい」
いきなりモブイ君が聞いたことないような大きな声をあげだした。
その頬には冷や汗が流れていた。
「大丈夫ですよ。今は私から危害を加えるつもりはありませんよ。ここは【過去鏡の真実部屋】ですよ。
階層クリア条件は簡単ですよ。この過去投影の機能・【貴方の最も辛く苦しい過去の記憶を追体験して貰う】のですよ。
因みに隠された機能として、【貴方が本来であれば知らない記憶もアカシックレコードに接続して追体験できる】のですよ。
非常に非常に素晴らしいですよ」
「物品鑑定・なるほど本物のようだな。
分かった。それは、俺が受ければいいのか」
モブイ君が率先して前に出る。
ただ、私は気になってしまった。知らない記憶も追体験できるということに・・・。私の最も辛く苦しい過去はアンクル商会によって全てが奪われて父が一人で逃げて、母が自殺したあの時だ。
だからこそ思ってしまった。これを利用したら一人で逃げた父の行方が分かるかもしれない。
父に復讐が出来るかもしれないということに。
でも、それ以上に怖かった。あの頃の記憶を想い出すのが、追体験させられるのが心の底から怖かった。
「のんのんのんですよ。受けて貰うのは貴方ですよ」
ナニカが私の方を指さした。
「私ですか?」
願ってもないチャンスかもしれなかった。
でも、私の足は震えていた。
「そうですよ」
「カタリナ、大丈夫か?もし無理そうなら俺が替わるぞ」
「のんのんのん、それは駄目ですよ。貴方じゃないと駄目なんですよ」
逃げ道はなかった。
でも、逃げ道がない方が覚悟を決めやすかった。
大好きだった時にお父さんが昔、言ってたな「挑戦なくして何も得られない」って。
覚悟を決めよう。
「モブイ君、私やってみるよ」
「素晴らしい。素晴らしい。素晴らしい。素晴らしい。素晴らしいですよ。では良い追体験を」
私は過去投影の宝晶に触れた。
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