俺氏、父親の脳を破壊してしまう(比喩)
今日、俺の息子の一人、次男のダレルアが不治の病である魔力結晶にかかっていることが発覚していた。
不治の病というが、治療法がない訳ではない。
ただ、これらは治療法というよりも、エリクサーやアムリタ、高レベルの回復魔法で無理やり体の組織を作り替えて、魔力結晶を取り除く力技である。
魔力結晶以外のほぼ全ての病気をこの方法で治すことが出来る。
そして、これらの方法は現実的ではない。
一つ目の方法のエリクサーを1年間服用する。
エリクサーとは古い傷や余りにも大きすぎる様な身体欠損は無理だが、たいていの傷を一瞬で再生させる、体力と魔力を全回復させる希少なポーションだ。
一つ買うのに100万ゴールドはかかる。ただ、これでもアンクル商会のおかげで安くなった値段であり、数年前までは一つ1000万ゴールドは余裕で超えていた。
そんなエリクサーを1年間分、かかる必要でいえば3億6500万ゴールド
伯爵家である我が家ならば用意できない金額ではない。
ただし、問題は毎日1本ものエリクサーの供給があるかどうかだ。
アンクル商会の登場でエリクサーは安くなったし、安定供給がされるようになった。それでもエリクサーは貴重であり、俺の息子以外にも怪我や病気で苦しみエリクサーを必要としている人はたくさんいる。
アンクル商会でも売りに出されればすぐに売り切れてしまう人気商品の一つだ。
伯爵家の力を使えば無理やりエリクサーを買い占めることも出来なくはないが、そうなれば暴動が起きる可能性もある上に、助けられる命が助からなくなるということである。
俺は自分の息子に他の人の必要な分のエリクサーを無理やり奪い去って治療したよなんて言える人間ではなかった。そしてダレルアもそうまでして生きたいとは思っていなかった。
2つ目の方法、得意属性レベル8以上の回復魔法、具体的には完全回復やオールリカバリー、ドヘホマイズ、神の奇跡等々、これらの回復魔法を1年間以上続けてかけて貰うことだ。
このレベルの魔法を使える人は最上位Aランク冒険者やSランク冒険者に聖女様や王室専属回復魔法師ぐらいだ。
とてもではないが我が家に1年間も拘束できるような人材ではない。
最後のアムリタは論外だ。
神に選ばれた天才が長年の研鑽を積み鍛えた上で貴重な素材を惜しげもなく使用し、1年以上の月日をかけてようやく作れるか作れないか神々の霊薬。
飲むだけでありとあらゆる全ての傷を治療し、体そのものを生まれ変わらせ、最初に呑んだ一回だけであるがステータスすら上昇させることの出来る至高の液体。
国宝として保管されるような代物であり、過去のオークションの結果では974億ゴールドという驚異の値段がつくレベルだ。
我が家で買えるわけがなかった。
私は絶望して、諦めていた。
愛する妻と共に泣きながら治療する用意をするのが難しいことを伝えた。
ダレルアはそんな俺達にお礼を言ってくれた。
今まで生きてきた人生は幸せだった。
愛してくれてありがとう。
俺の分まで他の兄弟たちを愛してくれ。
と。
俺は妻と共に泣くしかなった。
気が付いたら一緒にいた、もう二人の妻達も一緒に泣いてくれた。
俺はなんて無力なのだろうか。
何が伯爵家当主だ。
ただ生まれに恵まれただけの男だ。
それでも俺は誓った。
全力で息子達を娘達を愛そうと、悔いが残らないよう愛してやろうと。
ダレルアが死ぬまでの間は出来る限り一緒にいて愛してやろうと。
そう心の底から誓ったのだ。
その次の日のことだった。
俺の息子の一人、五男のグレンが何事もなかったかのように得意属性である錬金魔法のレベルが8になっていて、偶々アムリタを作れたから兄に使ってくれとかいってアムリタを渡してくれた。
いつもの謎の口癖であるファーーーって言いながら。
ファーーーって言いながら。
・・・・・・・・・・・
は?
アムリタって国の宝物庫奥深くに鎮座されるような国宝だぞ。
過去にオークションで974億ゴールドという我が家の全ての財産を処分しても捻出できないような金額を叩き出した物だぞ。
一つ揃えるだけで何億ゴールドとかかるような素材を惜しげもなく使用してやっと作れるかどうかの霊薬だぞ。
神に愛された天才が長年の研鑽を積み重ねた上で作成で1年以上はかかる筈だぞ。
グレンって今11歳だぞ。
・・・・・・・・・
は?
え?
どういうこと?
――――――――――――
お父さん余りの事態に脳のキャパシティーがオーバーしました。
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