第6話 不意打ちのキス
そして、放課後。
教室の掃除を終わらせた後、図書室前で重叶さんと合流する。
「お疲れ様、相生くん!」
僕を見つけるなり重叶さんはすぐに近寄ってきて、ぎゅっと手を握ってくる。
「妹さんから連絡はあった?」
今日の重叶さんは、こんな感じで逐一姫奈のことを心配してくれた。彼氏の妹というだけの関係性なのに、ここまで気にかけてくれるなんて優しい人だなと思った。
「連絡は来てない。きっと、今頃寝てるんじゃないかな? 何かあったら連絡しろって伝えてあるし、何もないってことは大丈夫なんだと思う」
「そっか。朝の妹さんを見て、すごく心配だったから良かったよ」
「今朝、初対面の妹にいきなりひどいことを言われたのに、心配してくれるんだね。てっきり、重叶さんは妹のことを嫌いになっちゃったかと思ったよ」
「正直、胸ぐらを掴まれて『お前を絶対に認めない』って言われた時は少し傷ついたよ。だけど、相生くんの話を聞く限り、今朝の妹さんはちょっとおかしかったんだよね? アレは妹さんの本性じゃないってことだよね?」
「そうだと思う。多分、僕に急に彼女が出来たから、戸惑ってしまったんだと思う。だから、心にもないことを言っちゃったんじゃないかな。どうか、妹を許してやって欲しい」
「大丈夫だよ。相生くんの家族とは、良好な関係を築いていきたいから。私は気にしてないよ」
「それなら良かった。妹が落ち着いたら、改めて妹のことを紹介するよ」
「ありがと。あ、そうだ。それでね、私、ちょっと考えたんだけど、聞いてくれる?」
「うん。なに?」
僕は頷いて、彼女に話の続きを促す。
「私、相生くんだけじゃなくて、妹さんとも仲良くなりたいの。だから、相生くんさえ良ければ、妹さんのお見舞いに行きたいんだけど、迷惑かな?」
そこまで妹のことを想ってくれているのか。
重叶さんのその優しさに、僕は惚れ直してしまいそうだ。
「迷惑どころか、すごくありがたいよ。そこまでしてくれるなんて思っていなかった」
「これくらい当然だよ。私、相生くんの彼女にふさわしい女性になりたいの」
その言葉に、僕はジーンと来てしまった。
重叶さんは僕なんかには勿体ないくらい素敵な女性だと思う。むしろ僕の方が、彼女に見合う彼氏になれるように精進しなければならない。
「それじゃあ、これから一緒に僕の家に行こうか。あ、でもその前に、妹のために買いだしに行ってもいいかな? あいつ、バナナが好きだからさ。買ってあげようと思って」
「もちろんだよ。近くにスーパーがあったと思うから、そこに行こうか」
重叶さんの許可を得たので、僕たちは手を握ったまま、スーパーへ向かうため歩き出す。
「あ、ちょっと待って」
彼女が足を止めたので、一歩前に出ていた僕は立ち止まり、振り返る。その瞬間、
――ちゅっ。
唐突に、彼女の唇が僕の唇と重なった。
突然の出来事に、僕の頭は真っ白になる。
数秒間その状態を維持した後、彼女の唇は僕の唇から離れて行く。
僕が呆然としている中、重叶さんは照れたように身体をもじもじさせている。
「えへへ。こういうの、してみたかったんだ」
彼女のその仕草が可愛すぎて、僕の心臓がドクンと跳ねた。
「不意打ちはずるいって……」
こういうことは、心の準備ってものが必要なわけで……。何の身構えもなしにいきなりされてしまうと、どうしていいのかわからなくなる。
「あはは、ごめんね? でも、相生くんのそういう反応が見たくて、つい。てへっ」
可愛らしく微笑む重叶さんを見ていると、全てを許してしまいたくなる。
「また今度、ちゃんとやろ?」
約束だよ、と重叶さんは僕の手を握り直して、自然と恋人繋ぎになる。
(こんなにも幸せでいいのだろうか……)
未だに夢の中にいるような感覚が抜けないが、これは間違いなく現実だ。
重叶さんと恋人になれた幸せを少しずつ噛み締めていこうと思う。
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