第13話 アイドルとか観なくてよくない?

 目的地のイオンに着くと、僕たちはさっそく本屋に向かう。その途中、店内に気になるポスターが貼られているのを見かける。


「へえ。今日、ここでミニライブがあるんだって」


 僕は足を止めて、ポスターの内容を読み上げる。


「地元のアイドルがこのイオンに来て、ステージでライブするらしい。立ち寄れば無料で観れるらしい。これって結構レアじゃない?」


 僕はアイドルというものにあまり興味はないが、生で、それも無料でライブが観れるなんて機会は、そう多くはない気がする。


 そのアイドルは五人組の女性グループらしく、ポスターに写っている宣材写真はみんな結構可愛い。まあ、アイドルなのだからみんな可愛いのは当然かもしれないが。


「今日の午後一時からライブするらしいけど……せっかくだから観に行かない?」


 僕がそう提案すると、


「――それはありえないかな」


 隣に立つ重叶さんは淡々と、感情の読めない声でそう告げた。


「え、ありえないって……なんで?」


「……わからないかな? ミニライブを観に行くってことは、相生くんが長時間私以外の女の子を見つめ続けるってことになるよね? そんなの許可できるわけないよね? それってアウトだよね?」


「いや、でも相手はアイドルだよ……?」


「それって関係なくない? アイドルであろうと何であろうと、女性ならアウトだよ。もしも相生くんがアイドルの女性にガチ恋しちゃったら私死ぬけど。耐えられないんだけど。私がいるんだからアイドルとか観なくてよくない? 私ならどれだけでも見つめていいよ。私が相生くんのアイドルになってあげる」


 重叶さんは淡々と話していたけど、そこには明らかな怒りが垣間見えた。


「まあ、百歩譲って、姫奈ちゃんは許すよ。だってあの子は妹だし? 流石に妹と全く関わらないっていうのは無理だからね。それに、姫奈ちゃんには女性として負ける気がしないし。だから、百歩譲って姫奈ちゃんを視界に入れるのは許してあげてるの。でもそれ以外は無理なんだけど。アイドルとか絶対ダメだよ。だからこのミニライブは観に行かなくていいよね?」


 どうやら、姫奈と関わることは許してくれるらしい。だが、それ以外の女性と僕が関わるのは、重叶さん的には基本アウトらしい。


(そこまで僕のことを想ってくれているのか……!)


 僕は少し感動してしまった。


「ごめん。さっきのは失言だった。確かに、重叶さんっていう恋人がいるのに、女性アイドルのミニライブを観るなんて重叶さんに失礼だよね。不安にさせてごめん」


 僕はさきほどの発言を撤回し、彼女に謝罪する。


「ふふ。わかってくれたならいいんだよ。相生くんなら、ちゃんとわかってくれると思ってた。だから大好きなの」


「許してくれるの?」


「うん! その代わり、今日のデートは私だけを見てね?」


「もちろん」


 重叶さんは、僕の腕を抱き締める力を強くした。彼女の豊満な胸が、僕の腕にぎゅっと押し付けられる。


「私なら、アイドルとじゃ出来ないことも沢山させてあげる……♡」


 ちゅっ、と彼女は僕の頬にキスをした。不意打ちだったこともあって、僕の頬はかぁっと熱くなる。


「と、とりあえず、本屋に行こうか!」


「ふふ。顔赤いよ? 照れてるの?」


 重叶さんに顔が赤くなっていることを弄られながら、僕たちは本屋に向かった。

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