第12話 お出かけデート
あっという間に時は過ぎるもので、高校生活初のゴールデンウィークが間近に迫っていた。
ゴールデンウィーク前日の放課後。
僕と重叶さんは一緒に下校しながら、明日からの予定について話し合っていた。
「明日からゴールデンウィークだけど、もちろんデートするよね?」
もはやデートをしない選択肢はないとでも言うように、重叶さんが切り出した。
「まあ、ゴールデンウィーク終わったらテスト期間だし、今のうちに遊んでおきたいよね」
僕もデートはしたいと思っていたので、特に否定はしなかった。
「じゃあどこ行く!? お家デートもいいけど、お出かけしたいよね!?」
パァっと顔を輝かせて、興奮した様子で重叶さんは声を上げる。
「そうだな……。映画とかは定番だけど、観たい映画とかある?」
「うーん。私はせっかくのデートだから、相生くんと沢山お話したいな。映画は観てる間お話出来ないし……。映画より相生くんを見てる方が楽しい」
つまり、映画デートはなしってことね……。
「わかった。それならショッピングにするか。ショッピングなら、商品見ながら沢山話せるだろうし。重叶さんの要望を満たせると思う」
「いいね! あ、じゃあさじゃあさ、本屋デートとかどうかな!? 相生くんと一緒にラノベについて話したい~!」
「ラノベについてはLINEとかで散々話してると思うけど、いいの?」
「実際に本屋で見ながら話すっていうのがいいの! 思わぬラノベとの出会いがあるかもしれないしっ!」
「それもそうか」
それにしても、本屋デートか。むふふ、僕もテンション上がってきたな……!
「楽しみだ」
「ねっー‼ 実際に何処かに出かけるデートって初だもんね‼ 楽しみすぎるぅ~」
「でも本屋だけってのも寂しいよね。他にもいくつか回る時間はあるだろうし」
「イオン行こうよ! イオン! イオンなら本屋もあるし服屋もあるし、色々なお店あるから一日いられると思う!」
「なるほど。オッケー。じゃあ、ここら辺で一番でかいイオンに行こう。後は日付だけど」
「明日‼」
食い気味で宣言してきた重叶さんに、僕は思わず笑みがこぼれてしまう。
「わかった。じゃあ、明日ね」
きっと、待ちきれないくらい楽しみなんだろうな。彼女の態度からそれが伝わってくる。
「デートっ♪ デートっ♪ 大好きな相生くんとデートっ♪ はぁ~、こんなに幸せでいいのかな~! ホントに楽しみ~!」
そこまで嬉しくされると、こちらまで嬉しくなってしまう。
「僕もすごく楽しみだよ。重叶さんとのデート」
「ふふ。夜はホテル行っちゃう?」
「え……!」
突然の提案に、僕はボッと顔が熱くなる。それを見て、重叶さんはニマニマと笑う。
「顔赤くしてかわい~! もう、相生くんのそういう反応ホントに好き! ぎゅ~」
正面から僕に抱き着いてきて、上目遣いで見つめてくる。
「明日の朝、家に迎えに行くね♡」
「お、おう……」
僕を見つめる重叶さんがあまりに可愛すぎて、彼女を直視出来なかった。
「耳まで赤いよ?」
「きゅ、急に抱き着くから……」
「ふふ。ふふふ。可愛い♡」
「……お、重叶さんも可愛いよ?」
「ありがとっ。よく言えました!」
「ば、バカにしてる?」
「してないよー? 照れながら言うの、初心で可愛いなぁって思ってただけだよー?」
その日の重叶さんは、やたらと上機嫌だった。
◇
翌朝。
【家の前で待ってます♪】
重叶さんからLINEでメッセージが届いたので、既に身支度を済ませていた僕は、家を出ることにした。
家を出ようとすると、姫奈が声をかけてくる。
「デート?」
「まあ、そうだな」
隠す必要もないので、僕は素直にそう答える。
「………………いってらっしゃい」
かなり間を空けた後、そう言って僕を見送ってくれた。
「いってきます」
僕もそう返して、家を出た。
家を出ると、すぐ目の前に重叶さんが立っている。僕は彼女の私服姿に、思わず見惚れてしまった。
白のワンピースに、ピンクのカーディガンを羽織っている。シンプルだが女の子らしさ全開のそのコーデは、普段の制服姿とのギャップを感じられて、特段と可愛く見える。
さらに、髪型もいつもと違っていて、綺麗な黒髪がハーフアップで纏められている。何故だろう。重叶さんのその髪型は初めて見たはずなのに、どこか見覚えがある。
「おはよう、相生くん!」
僕の姿を見た重叶さんが、ニコッと手を振りながら近づいてくる。
「おはよう、重叶さん」
僕も釣られて手を振りながら挨拶を返した。
彼女は僕の正面に立つと、服をアピールするようにクルっとターンした。
「ふふ、どう?」
「すごく似合ってる」
「見惚れてたもんね?」
「ま、まあね」
見惚れていたことを認めると、重叶さんは満足そうに笑った。
「髪型も、今日は気合入ってるね。似合ってるよ」
「ありがとっ。そう言ってもらえると、朝早くに起きた甲斐があるよー! ちなみにこの髪型、見覚えないかな?」
「見覚えか……」
重叶さんがこの髪型で僕の前に姿を見せるのは、今日が初めてのはずだ。だけど、彼女の言う通り、その髪型には何故か見覚えがある。
「ヒント。私たちの共通の趣味は?」
「共通の趣味?」
そう言われてパッと思いつくのは、やはりラノベだろう。今日も本屋に行く予定があるし、僕たちがお互いにラノベ好きというのは共通認識のはずだ。
ヒントがラノベだとしたら――。
その時、僕は閃いた。
「その髪型! 『SAO』のアスナか‼」
「せいかーい♪ 再現してみましたっ!」
どうりで、見覚えがあるはずだ。まさか、こういう形で僕らのラノベ好きを活かしてくるとは。流石に予想外だった。
「相生くん、アスナ推しって言ってたよね? だから、この髪型にしたら喜ぶかなって思って」
「確かに言ったけど……。まさか、ここまでしてくれるなんて思わなかった」
「ふふ、せっかくのデートだから、相生くんを喜ばせてあげたいなーって思って」
「ありがとう。すごく嬉しいよ」
僕がお礼を言うと、重叶さんは腕にぎゅっと抱き着いてきた。その瞬間、ふわりと甘い香りがして、何から何まで気合が入ってるなと思った。
彼女がここまでしてくれたんだ。僕も、今日は彼女を喜ばせるために頑張らないと。
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