第13話 絶対絶命
絶対絶命
「ぺっなんだいこれは?」
「さ~なんだろうな」
投げつけたのは痺れ薬、それもかなり高純度なもの、毒蛾の一種から取れる燐粉と麻薬を混ぜることで出来る、かなり高価なものだが。
敵を無力化する方法の一つ眠らせておくか麻痺させておけば後は簡単、この隊の戦闘方法がこれだ。
闇夜に紛れ敵の宿舎に侵入し全員薬で麻痺させておいて殺して行く。
本来ならば痛み止めとして使用するものだが、粉のまま投げつけて相手がそれを口や鼻から吸い込めば即効性が高くなる。
この世界ではまだ注射針のような便利物はまだ無い、使うときにはこのように投げつけるかまたは食い物に混ぜたり刃物に塗り込み切り付けたりと用法は様々。
この隊はこの薬を大量に所持し、あらゆる悪事に使用していた。
「な 目が…」
口や目から摂取した薬はわずかだがそれでも体の自由を奪い戦闘力を削る。
「どうした、さっきまでの勢いは?」
レドラは、とっさに逃げる事を判断した。
「くそっ!」
「おめえらやっちまえ!」
身長で1メート以上大きいレドラだが意識の半分を薬で持っていかれればひとたまりも無い、だが彼女は必至で抵抗した。
「ガンッ」
「ドンッ」
「オラオラ」
「グッ!」
「オウッ」
「バンッ」「バキッ」
「おいまだかよ」
「しぶといぜ」
「あっこら逃がすな!」
レドラは堪らず隙を突いて彼らの包囲網を突破し逃げ出した、薬で朦朧となった頭を何とか意識だけを保ち遊撃隊のキャンプ脇の林の中へ、わき目も降らず奥へ奥へと入って行く。
「はあはあはあ」
(まずいもう足が動かない)
体中をナイフで切りつけられ無数の傷を負ってはいたが、致死性の傷だけは免れていた。
なおも追ってはどんどん近づいてくる、時に転がり膝を付き又走っては躓いて必至に逃げる、だが彼女の逃走もそこまでだった。
「てこずらせんじゃねえよ」
「げへへ」
「さてと、それじゃあそろそろ味見させてもらうか」
「く くるな!」
遊撃隊のキャンプは町の入り口から100メートルとは離れておらず、南の山を根城にしていたドーンとラポーチ達からもそれほど離れていなかった、それとこの地区には途中には川があり二人はよくその川を使うためにたまたまこの時、遊撃隊がキャンプしている川の近くまで訪れていた。
「おじちゃんおねえちゃんが襲われてる」
「なんだって」
「おじちゃん任せてあたしが気を引くから」
1kとは離れていない山裾から川へと水汲みに来ていた2人、300メートル離れた下流でレドラと遊撃隊の男たちが出す汗の匂いがラポーチの敏感な鼻を刺激した。
そして2人は足音を出さないように川の近くまで行くと、目の前では力尽き河原で座り込むレドラの姿が目に映った。
「まじ、めんどうかけやがって」
「それにしてもでけえな」
「巨人族だからな」
「はじめてだぜ~大女は~」
そこへ駆けつけたドーンとラポーチ、まずはラポーチが声をかける。
暗がりのせいかドーンが別の方向から近づいて来るのが彼らにはわからなかった。
「おじちゃんたちいけないんだよ」
「なんだ~おめえは!」
「おいおりゃこっちの方がいいぜ~」
「てめ、ぬけがけすんな」
「ベーだ」
「追え逃がすな!」
ラポーチが声をかけ気を引きレドラを助け出すという作戦は上手く行く、かわいらしい少女と大女どっちが男どもの気を引くかなど聞かずともわかる。
だが暗闇にまぎれた山の中へ入り込む彼女を探すのは、先ほどまでレドラと追いかけっこしていた兵士達にはかなり困難になっていた。
「ちきしょう逃げ足だきゃはえ~な」
「はあはあ」
結局川向こうまで走らされ、諦めて戻ってきたときにはそこで身動きできず倒れているはずのレドラの姿は何処にも見当たらなかった。
「おい大女は?」
「何処に消えた?」
「さがせ!」
勿論レドラはドーンに助け出され彼らの住処へと運ばれた、彼女の怪我は見た目以上かなりひどい状態だった。
痺れ薬だけでなく毒の付いた小剣で何箇所も切り付けられ。
足や腕の腱も何箇所か切られ動きを封じられていたのだ、そして彼女の体からは大量の血液も失われていた。
「おじちゃんお帰り、大丈夫だった?」
「ああラポーチのほうは?」
「上手く捲けたよ」
「それは良かった、だがレドラはかなりまずい状態だ」
「おじちゃんあたしが何とかしてみるよ」
「分かった、任せる」
住処にしている岩で作った即席の家、中は思ったより広く雨や風もしっかり防げるように工夫、されていた。
下には寝藁を薫蒸したベッドさえこしらえなかなか快適な住処になっていた。
そこへレドラを寝かせ、まずは服を脱がす。
「おじちゃんは外を向いていてね」
「わ 分かった…」それを見てドーンはそそくさと出ていく
そう言うとラポーチは丁寧に服を脱がせ体を拭きながら傷のある箇所を確認、不思議なことにその作業だけですべての傷が塞がって行く。
さらにラポーチはレドラの胸の上に手をかざし言葉を唱える、それは普通の言葉でありどこかの異国言や古代言ではない、だがその言葉は歌のようにも聞こえていた。
「お姉ちゃんを治して!」
次の瞬間彼女の手を光が包むと、さらにレドラの体まで光が包み込む。
数秒、たった数秒の出来事だった。
「うう…ん……」
「まだ起きちゃだめだよ」
「ここは?」
「私とおじちゃんの家」
「おじちゃん?」
後ろを向きながらドーンが話す。
「そ そう言うことだ」
「そう言うって、あたいはやつらに…いっ…」
「まだ寝てなきゃだめよ」
「助けてもらったようだね」
「これでチャラだな」
「いや、これじゃ借りはこっちの方がでかくなったみたいじゃないか」
あのままやられていれば死ぬのは決まっていた、遊撃隊の兵士はそう言う命令を司令官から出されていたのだから。
「やつら初めからたくらんでいたようだね」
「そうだな、それでどうする?」
「やられたらやり返す、それが掟だ」
「おまえ一人じゃ無理だったのだろう?」
「そ それは…」
「やめておけ、やつらはかなり狡猾だ、もしやつらを皆殺しにしても結果は同じだ、二度とこの町には戻れない」
「くっ!」
「それより何でこっちを向かない?」レドラ
「じ 自分の姿を見てみろ!」
「えっ?○×△□ 服が…」
「邪魔だったから脱がせちゃった」ラポーチ
「え~まさかあんたも見たのかい?」
「いや」
「見たよ~全部~」ラポーチ
「う 嘘を言うな!」
「ほんとかい?」
「嘘だといっている…」
「いいわこれで決まったわね、あんたに命を預けるよ、ここから去るときは一緒だ 良いよねダーリン」
「…」
「ふふふ」
「ラポーチおまえ~」
「いいじゃない、一人より二人でしょ」
「巨人族が2人じゃ目立つだろう」
「それよりも好きあっている2人が一緒に居ない方がだめだとおもうよ」
それを聞いて2人ともに顔を真っ赤に染める。
ラポーチの心眼+鼻眼(びがん)はドーンの気持ちがレドラを好いているという判断を下していた。
長い戦闘と逃避行の果てに髪や体毛は白髪に変化していたが、ドーンの年はまだ50歳までは行っておらず。
実は婚姻もしたことが無いし、まじめな為いわゆる童貞に近い。
レドラから誘われたときには、すでに魅入られていたと言ってよいのだが、真面目過ぎるのだ彼は。
最初の目的に邪魔になる事はしてはいけないと心に刻んでしまっている。
端から彼女を連れ出そうという気は無いし、この先の旅には邪魔になると考えている。
逆にラポーチは2人ともお供になればその方が安全ではと言う考え、普通に考えればその通りなのだが。
この国この世界は未だ混沌としていて、戦に次ぐ戦で弱い者の頭上には危険な事が何時起こってもおかしくないぐらいなのだ。
双方の考えはどちらも正しくどちらが良いとも言えない、だがそれならば自然に任せる事が一番良いのではとラポーチは考えた。
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