第10話 町の用心棒

町の用心棒


そういうとこれでもかと胸を突き出す、まるでドーンを挑発するかのように。


「どうだい今夜あたり」

「すまないが遠慮しておくよ」

「なんだいつれないね~」


ラポーチは2人のやり取りを興味津々見ていたがその話半分しか理解できなかった。


「今夜はどうするの?」ラポーチ

「おい だから、変なことふきこまないでくれ」

「え~変なことじゃないだろ、国を出た巨人族で生き残りは少ないんだ、この町にいる巨人族もあたし以外は数えるぐらいしかいない、しかもあんたのように強そうなのはね」


そういつ死ぬかもわからないこの世界で生き残ったならば、女として求めるのはそういうことしかない。


「まあいいわ、でもその気になったらいつでも待っているから、あたいはいつもここで食事をしているから、本当だよいつでも待ってるから」

「お誘いはありがたいが、ご期待に添えるかはわからんぞ」

「あんたもいけずだね、まあいいわじゃあまたね」


彼女は椅子を立つとカウンターまで行き飲み物を頼んですぐにそちらの方へと行ってしまった。

だがその話口調もしぐさも先ほどのチンピラに対してのものとは180度違っている。


「あの人発情してる?」

「ラポーチ!」

「あ ごめんなさい」

「あまりその力を人前で話さない方がいいぞ」


神から授かった力は駄剣を聖剣に変える、それだけではない。

まあ鼻が利くというのもその一つなのだろう、たぶんそれらは彼女に備わったスキルの一つという可能性が高い。

12歳になったラポーチには現在わかっていることだけでいくつかの特殊能力が発現していた。

一つが聖剣覚醒・朽ち果てた剣をその手で触れると聖剣に変えてしまう。

2つめが聖女と言われる能力、ヒーリング・けがや毒などを手をかざすだけで直してしまう。

さらに最近になり発現したのが、そのよく効く鼻と連動しているらしい心眼。人の考えや行動が分かってしまう。

この3つが現在彼女のスキルともいうべき能力、魔法とは違うので呪文も魔法陣も必要ない。

鼻は昔から利いたので、今はさらに拍車がかかっている状態、たぶん今ラポーチにレドラの情報を詳しく聞いたならこう答えるだろう。


「もう10年以上子作りしていないしまだ年は35歳、スタイルだって崩れていなしいつでも相手できるわよ、というか相手してよ!あんた結構イケメンじゃない、まあいつでも待っているからね♡今やったら確実に子供を作れるかもよ、普通の男は相手にならないのよね、普段は喧嘩して憂さ晴らししてるけど、最近それもできなくて欲求不満なのよね」


と説明してくれるだろう。

それをあまり人前で見せてしまえば、この時代すぐに魔女だとか化け物だとか言われるか、またはその力を利用しようと悪いやからが接近してくる可能性が高い。

ドーンは後2年彼女を育て上げ、物事の判断が出来るようになったら彼女をしかるべき組織に預け別れようと思っていた。

この時代、軍も教会も殆ど同じように悪い人間で溢れている、どちらも権力を欲っするが為に人の心を操り自分達の思うように世の中を統べることしか考えていない。

ドーンが戦争に加わったのはすでに20年以上前のこと、先の村に来てから10年以上が経っている。


彼は村に来る前5箇所の戦地を渡り歩いた、最初に赴いたのは北の海から侵入してきた蛮族との戦い。

ブリタス聖王国の義友軍戦士として参加したが、義友軍とは名ばかり盟約を盾に弱小の国から兵士を無理やり連れて行く。

いわゆる戦士の強制連行、言う事を聞かなければ戦争の矛先は自分達の村や町に向けられる。

ドーンの村からは最初20人近くが戦士として借り出された。

北の海からの蛮族は巨人族よりは小柄だが、聖王国の人族よりは戦闘に長けていた。

お上品な聖王国の兵では蛮族の攻撃を防ぐ事が難しかった。

ドーン達巨人族が矢面に立ち蛮族を蹴散らし続けたことでようやく勝利することが出来たが。

ドーン達にもかなりの被害が出ていた。

村から参加した仲間は半分まで減り、そして約束だった帰郷も金の支払いも守られず。

更なる協力がなければ又村から強制徴兵すると脅されれば言う事を聞くより他は無かった。

そんな戦いを三度経験し、中には良い人族もいる事を知った。

戦いの中で知り合った2人の人族、一人は男爵位で豪快な笑い声が特徴のコーカス・マンシュタイン、もう一人は公爵位で王位継承権を持つカルマリン・ダハシュタイン・シュベリオール

、公爵のカルマリンは若くそして理想を持っていた、あれから10年以上経ちすでに彼も40歳近いはずだが、できれば彼にラポーチを預けられれば肩の荷が下りるはず。


ドーンはそう思っていたのだが、そこまでの道のりは国一つ以上をまたぐ旅になる。

そして男爵のコーカスに会うにはさらにその向こう側へと進まねばならない。

どちらも生半可な意思でたどり着ける道のりではないのだ。

だがそれ以外にラポーチを預けられる人物は居ない、途中で見つかれば全てが水の泡になる。


食事を済ませ残りの買い物をしようと店から外に出ようとすると、そこには遠征軍の予備隊がちょうど町に立ち寄ろうとしているところだった。


「本日はこの町で宿泊する新兵は町の外にテントを張れ」


その兵隊はブリタス聖王国辺境遊撃軍、いわゆる正規軍ではなく寄せ集めの兵隊だった。

しかもその指揮官はどこぞの子爵位で、素行の悪さで有名な男だった。


「まずいな」

「どうしたの?」

「ありゃ正規軍じゃねえ」

「正規軍じゃないとどうなるの?」

「規律も何もないくずの集りだ、近寄ると因縁を吹っ掛けられて面倒なことになる」


町の入り口近くに2列縦隊で並んだ兵は50人に満たないが、半分はまだ子どもといってよい。

どこかの村を回り徴兵してきたのだろう。

そして大人の兵は一癖も二癖もありそうな面構えの男達ばかり。

終始顔をニヤ付かせながら町人達に目配せをし、女性が通ると今にも襲い掛かりそうな目で嘗め回す様に見ている。


「問題を起こすなよ、まあ上手くやるならかまわんがな」

「へ~い」


そして男達は新米兵に野営の準備をさせ自分達は飲み屋兼食堂、もしくは娼館へと散っていった。


「あんた達、早く裏から出な」

「悪いな」

「良いって事よ」


レドラはすれ違いざまにウィンクをすると自分自身は店の外へと入り口から歩いて行った。

彼女はこの町の管理官に雇われている、問題事や今回のような素行の悪そうな兵士が町に入って、問題を起こさないように見張るのも彼女の仕事だ。

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