第7話 村を去る

村を去る


次の日村は盗族の死骸の処理と殺された家族の埋葬に明け暮れた、ラポーチの親は運がよかった。

戦うのではなく隠れる選択をしたからだ、彼女達の親は子供達が逃げた方向の草むらに隠れた。

もし子供達を盗賊が追いかけたならば立ちはだかろう、そう心に決めていたが。

誰もいないと知った盗賊は家の中を物色した後、次の家へとすぐ向かったので命拾いしたのだ。

そして盗賊がいなくなった後、彼らが次の代表となり今後の事を話し合った。


「俺は反対だ!」


村人、残った大人はわずか13名、しかも大人の男は3人だけだった。

ラポーチの親である、クレールそして妻であるホホトマ他5名は村をどうするか話し合った。

この中でも一番年上なのはクレールとなった為、彼が話し合いの進行役を務めたが。

この人数でさえも話は分かれた。

村を捨てるのかそれとも継続して住み続けるのか…

そこに大男が声をかける。


「わしはこの村を出なければならん」

「え!どうして?」

「この話はいずれ噂になる、わしは捕らえられ又戦場に戻されるか、逃亡兵として殺されるだろう、その時おぬしらはわしのせいで迷惑するじゃろう、軍隊も盗賊と大して変わらぬ」

「クレールおぬしはどう思う」

「私はここに残って村を立て直す」

「だが男は殆ど殺されたんだ、働き手が少なすぎる」

「今期の収穫は何とかできるところまでする、食料があればその先村をどうするか考えるのは後でも出来る」

「せっかく今期は豊作なのに、捨てることはできない」

「俺の案は住み続けるが村は閉ざそうと思う」

「外との交流を止めるというのか?」

「村の中心部を閉じてしまえば、離れた民家まで来て襲おうと思うやからはそうは居ない」

「確かにそうだが、食い物はどうやって売るのだ?」

「この村から隣村までは20k近くある、年に一度収穫を持ち寄り隣村へ売りに行く」

「出来るだけ交流を避けて暮らそう、そうすればこんな山奥に村があるとは思わないだろう」

「俺たちに残された道はそれしかない、他の土地を探そうにも、又そこには盗賊や軍隊が来るかもしれない、この場所ならば俺たちの方が良く知っている、可能な限りそう言うやつらが入り込まないようにするんだ、もちろんそれだけじゃなく俺たちも戦えるようにしよう」


そこまで話を聞いていた大男が口を開く。


「わしが少し戦い方を教えよう、但し今は作物の収穫が先だ、収穫が終わったら一時わしに従ってくれ、戦い方を教える」


大人13人子ども20人、この人数で出来る事は少ない。

だがそれから約一月で麦の収穫が終わり、残りは芋類の収穫だけになり、その間大男の主導の下戦闘の訓練は続いた。


「いいぞ、そこで振り下ろす」


男も女もそして子共も、収穫が終わると大男の教えに従い収穫後の1時間を戦闘訓練に当てることにした。

そして2ヶ月が過ぎ、村に行商人がやってきた。

前にも来たことがある行商人ではあるが、村の中心部であった場所を見て驚いた。

そこには人の気配がまるで無かったからだ。

店があった場所は壊れて崩れ落ち、残った建物も屋根は落ちてしまっていた。

ちょっと見ただけで分かる、そうすでに村の中心だった場所は廃墟と化していた。


「誰もいないのか…」


その様子を影で隠れて見ていた村人は、この行商人はこのまま行かせることにした。

そうすることで噂が広がり村が無くなったと思わせたかったから。

数分して行商人は村から引き帰して行った。


「これでいい」


村人は少し離れた場所にある小屋の残骸で待つ大男と話し合った。


「だが、どうしてもここから離れるのか?」

「わしはどうしても行かなければならない、それにラポーチのことも有る」


大男の名はドーン・ボルカノ、巨人族の戦士でありその昔神と呼ばれた種族の末裔だった。

だがそれは彼も大昔に少し聞いただけ、今はただの落ちぶれた戦士。

それでも一度戦士として立ち上がったならば、しなければならないことがある。

彼はラポーチの親にだけは本当の事を話した、ラポーチが持つ能力を。

始めは信用していなかったクレールも目の前でラポーチの力を見てしまっては信じるしかなかった。

それは村の中心部にあった雑貨屋で見つけた古ぼけた剣をラポーチが手で触れた時、たまたま武器を探す為一緒に訪れていたクレールが、目の前で朽ち果てていたはずの剣が見る見るうちに美しい剣に変わって行くのを見たことだ。


「ラポーチ今何をした?」

「何もしてないよ触っただけだよ」


その力は人に知られれば争いの火種になる絶対隠し通さねばならない力、一度誰かに見つかったならば必ず災いを呼ぶだろう。

どうして自分の娘がこのような力を持ってしまったのか、クレールには分からなかったが。

その力が彼には天から授かったのだと、そう思うしかなかった。

そして天から授かったならば、それはこの村に居ていいものではないことぐらいすぐに想像が付く。

その昔クレールも祖父から聞いたことがある聖女伝説、貧しい村に神の力持つ少女が現われた時、この世に大いなる災難が訪れるだろう。

そして少女は聖女としてこの世に遣わされた神の代行者であり、戦いを諌める旅に出るのだと。

現にこの村の危機を一度は救ったのだ、例えそれが他のものに力を与えるだけのもので彼女自身には戦う力が何も無くとも。

それだけでもこの力の影響力は凄まじいものがあるのだ。

彼には娘としてラポーチが側に居てほしい気持ちはあっても、それ以上に恐れを抱き始めていた。


(どうすればいい・・)


そして大男ドーンにこの事を相談した。

本当に聖女ならばつき従う騎士が必要だ、ドーンもうすうす気付いていた。

運命なのだと、だから彼は決心したラポーチを連れてこの村を出る決心を。


「ラポーチの持つ力がどういうものなのか、私にも分からぬ、ただ言える事は彼女の力は戦いに必要だと言って良い」

「ああそれは分かる」

「彼女の力を知ろうにもここに居ては何も分からぬ、まあ人に話すにも信用できねば無理なことだが」

「ではどうする?」

「私はラポーチを連れて旅に出ようと思う、それにはおぬしの許可が必要だ」


クレールは少し考えていたがドーンの申し出に答えることにした。

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