第6話 聖剣覚醒

聖剣覚醒


だがそうこうしているうちにラポーチ達以外にも次々と子供が洞窟へと入ってくる、村人は全員ここが安全だと知っていた。

困ったときにはこの巨人が助けてくれることを、だが彼はそんなことまで考えてはいなかった。

ただ逃げ延び生をつなげていくため村に少し居座った、ただそれだけ。

村人達は彼のそんな気持ちまでは知る由も無い、この状況に大男は判断を迫られた。

戦うかそれとも逃げ出すか・・


「おじちゃん、怖いの?」


ラポーチから見れば大男も普通の大人も自分より大きく、その区別などつかない。

判断が付くとしたら、その白いひげと独特なにおいだけ。

ラポーチは生前覚えた見分け方で大男が恐怖でちじこまっている事を知っていた。


「何で解る?」

「おじちゃんやさしそうだもん。優しい人は怖がりなんだよ」

「ここにいたほうが良いよ」

「だが・・」

「外は危ないよ」


「ラポーチ、だめだよそれじゃ父さんと母さんが」兄

「助けてくれないの?」姉

「うえ~ん」他の子供


「すまん、少し考えさせてくれ」


そういうと大男は奥の壁の中へと入っていった、なぜか分からなかったがその場を去る大男の後ろをラポーチは付いていく。

壁の裏側には大男の私物やベッドなどが置かれ、彼がそこで生活していたのだと一目で分かった。


「おじちゃんのおうち?」

「なんで入ってきた?」


好奇心に駆られ後を付いてきたラポーチ、そしてあるものを見つける。

大きな鉄の板、それは錆びてそしてひしゃげていた。


「それなーに?」

「これは剣じゃが、もう使えん」


剣先は折れ、焼付けが甘いせいなのかところどころ曲がり、ツバさえもなくなりかけた。

朽ち果てようとしていた錆びついた剣だった。

ラポーチはなぜか興味を持った、やや茶色く錆び付いたその板、ラポーチには板にしか見えない大きさ。

だが彼女が手を触れた瞬間にその剣は姿を変えていく。


ピカッ!

「何をした!」


その錆びれた剣は輝きだしそして見る見る内に形を変えていく、数秒後まるで打ちあがったばかりとでも言うがごとく光り輝く大振りの長剣がいつの間にかそこにあった。

刃渡りは1メートルを超え幅は20センチはありそうな美しい剣、さっきまでさび付き折れ曲がっていたはずのただの鉄の塊が、いつのまにが美しく輝く大剣へと姿を変えていた。


「こ これは」


大男はその剣を手に取ると、ぶつぶつと独り言をつぶやき始めた。


(我この世によみがえりし時、正義をなす者の手に収まるならば必ずや虐げられた民の力となろう)

「剣が語りかけてくる」


大男はなぜか剣を持ったまま少し考えていたが、ラポーチの顔を見てにやりと笑うと、置き捨てられていた鎧と兜を身につけ戦に行く準備を始めた。

まるで剣に魅入られたのか彼の顔からはすでに恐れなど消えていた。

準備が終わると大男は壁の奥から出てきて子供たちに話しかけた。


「私は村を助ける、約束を果たす時が来た、子供たちよここで待っていてくれ必ず敵をやっつけてくる、それまで絶対に洞窟から出てはいけない、解ったね」

「うん、おじちゃんがんばって」

「おじちゃんありがとう」

「うん」


それからの大男は、洞窟を出ると最初の民家へと向かって行った、案の定3人の盗賊がその家の女を陵辱していた、まずは納屋で女を犯していた盗賊に大男の剣が振りぬかれる。


ズバッ!


女の上にまたがっていた盗賊の首がごろんと転がり、女はそれを見て気絶した。

大男は次に家の中で物色していた盗賊が金目のものを持ちながら外へ出てきたところで一閃。


「お~こりゃいいものみつけた・・」

ズバッ!

「どうした、いいものって・・」

ズバッ!


その間約3分、外回りを任された盗賊3人はあっという間に物言わぬ死体となった。

その後も大男は一軒ずつ農家の家を周り同じように3人一組で回っていた盗賊達を合計15人全てを切り伏せた。

残る盗賊は村の中心部にいる5人だけ、時刻はすでに夜へと変わり空も暗くなり村の中心には焚き火が炊かれていた。

盗賊の首領は焚火の前で椅子に座り、子分たちが戦利品を持ち帰るのを待っていた。


「おい外回りに出たやつら遅すぎないか?」

「しっぽりやってるだけならこんなに時間はかからねえはずだ」

「おいおまえちょっと見てこい」

「へい!」


夕日はすでに山の向こうへ沈みこみ、辺りには季節風だけが舞っている。

5つのグループに分けた子分たち、探し回るにも少々時間がかかりそうだ。

だが親分の命令とあらば、そんな事を言ってはいられない。

見て来いといわれてすぐに見て回れる距離ではない、そう考えると子分は他の手下にも分散して見回るよう手配をした。


「俺はこっちに行くからおまえとおまえはあっちを頼む」

「判った」

「おう」


村の中心部には残った親分と手下が1名、手下1名は捕まえた女子どもの見張り。

しかも今は女一人に夢中で何処で何が起ころうとそちらには興味も無い状態だった。

そこへ暗闇から大きな影が近づいて行く。


「うぇへっへっ」

「いやよ やめて!」

「じっとしてりゃすぐ済むからよ~」


盗族の手下の背後から影が覆いかぶさる。


「何だ?誰だ?」


後ろを振り向く子分、次の瞬間首がころりと転がった。


ザシュ!

「きゃ~~~」


女子どもを捕まえて押し込んだ納屋の方から悲鳴が上がるが、まさか親分は子分がやられたとは思っても見なかった。


「なんだ!」

「おい!どうした?」

「くそっ!どいつもこいつも何処ほっつき回ってやがる」


親分は焚き火の側を離れ声がした方へと歩いて行く。

だが行く先の手下はすでに骸になり、そこには地獄への案内人が居ることなど知る由も無かった。


「大丈夫助けに来た、もう少し静かにしていれば盗賊はいなくなるから、我慢してくれ」

「あ はい」女


陵辱されそうになった女は剥ぎ取られた布を手に大きな影を見ながらおびえていたが、それがいつか見た洞窟の大男だと知ると、彼女はふっと気が抜け体を横たえた。

大男もそれを見て次の盗賊を倒しに移動を始める、少し歩き通りへ出るところで盗賊の親分と鉢合わせする。


「おめえ なんだ!」

「おまえ許さない」

「糞!こんなときにあいつら」


大男は剣を手にその大きな体を前へと走らせる、普段はのっそりとしか動かないその体を。

大男は勢いよく足を踏み込むと盗族の親分へと一直線に近づいて行く。


ドンッ!

「がっ!」

キンッ!


両者の剣がぶつかり火花を散らす。


「このやろ~」

「悪者は死ね!」

「う~くそ~」

(む無理だこんなやつかなわねええ)


盗族の親分はそう考えると、次の瞬間思いっきり横に剣を交し大男の剣をいなすと、その足で一目散に逃げ出した。


(無理・無理・むり~)

ザッ!


だが、それを大男が見逃すわけは無い、しかも脚の速さはその時大男の方が早かった。

いわゆるバーサーカー状態のはずなのだが、大男はその状態でありながらも意識はしっかり保っていられた。

それは手に持った剣の力だった、正義を行なうものに力を与える。

それは意識を取られず正義を認識しているならば何事にも屈せず戦えるという意味。

逃げた親分の背後から突き出された大男の剣は、たやすく彼の背中から胸へと突き抜けた。

盗賊の統領は剣でつかれた胸のあたりから大量の血を噴き出しながら数歩あるくと崩れ落ちそして死んだ。


ズシュ!

タッタッバタッドサッ・・

(こ こんなはずじゃ)


この日辺境の村を襲った悲劇は思いもよらない形で幕を閉じた、まさか戦火を逃れ隠れ住んでいた大男が村を救ったなどと、誰も考えはしない。

そしてもう一つあれほど錆び汚れ折れ曲がった剣がまさかあれ程の能力を持つ剣に変身するとは誰も思わなかっただろう。

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