第5話 暗転そして転帰

暗転そして転帰


ある時そんな何気ない生活に終わりが近づいていた、私たち親子が住む家は村の中心部からはかなり遠く、5k以上は離れた森の近くに位置していた。

民家は1k~3k置きにあるという寂れた農村その中でもかなり外れの位置に属していた。

だが採れる麦や芋はそこそこの量があり今期もやや豊作という状況だった。

そんな寂れた村だが、ある日私の住む村は盗賊に目をつけられた、悪い奴らが食べ物のにおいを嗅ぎつけたのだろう、この村はその日 十数人の盗賊に襲われる。

この世界盗賊は珍しくない、戦争の後食えなくなった兵士が落ちぶれ徒党を組んで食べ物がある村や町そして商人を襲い金品や食料を奪っていく。

問題なのはその盗賊がちゃんと頭を使って考える奴らか、それとも後先考えずにむさぼりつくす奴らかということ。

前者であればある程度の食べ物や金を渡せば襲わずに去っていく、まあその後も何度か袖の下を渡さなければならないが。

後者は奪いつくし殺しつくす、後のことなど考えない。

残念なことに今回訪れた盗賊達は後者だった。


「ギャー」

「たすけてー」

「お許しをお許しを」

「ザクッ、ズバッ!」


村の中心部には数件の店や村長の家がある、そこは盗賊に襲われあっという間に占領された。

次に盗賊達はそこを根城にさらに私たちがいる外れの農家を1軒ずつ、盗賊の子分が3人づつに分かれ食い物やお金そして女を求めて探し回る。

言うことを聞かなければ容赦なく殺され、女子供は凌辱され持て遊ばれ、そして奴隷として売る為に集められていく。

村の中心部にある数軒の民家からは煙が上がり、遠目からもそこで何があるのかが分かった。

それに襲われた時の合図として狼煙が上がっていた、村ではこんな時のために黒玉と呼ばれる狼煙玉を緊急時には火をつけることになっていた。

誰かが狼煙玉に火をつけたのだ、ろくな武器を持たない村人には抗うすべなどなかったが、捕まりさえしなければ何とかなる、逃げることさえできれば。

そう考えたラポーチの父と母は自分たちが囮になり幼い兄弟を逃がすことにした。


「お前たちは逃げるのよ」

「どこに逃げるかわかっているわよね」


幼い私には分からなかったが兄と姉はどこに逃げるのか知っているようだった。

他の家の子も皆、盗賊や戦争に巻き込まれたらどこに逃げるか教えてもらっていた。

それは村から数キロ離れた森の奥、その森には魔物が住んでいるといわれていた。

そんな危ない場所へなんで逃げろというのか?

ただ幼い私には兄弟の後をついていくしか方法がなかった。

生い茂った草をかき分け幾つもの枝を折りながら、私たち兄弟は森の奥深くへと入り込んだ。

何キロ歩いただろう、たどり着いたその先には洞窟がありその入り口はかなり大きく、巨人でも通れそうな天井の高さがあった。


「お兄ちゃん怖くないの?」ラポーチ

「大丈夫だよ3人いれば」姉

「一人だけ残るか?」兄

「いやだ一緒に行く」


目からは涙を流し体中傷だらけの子供3人、姉だけはやや大人びてはいるがそれでもまだ10歳、責任感の強い彼女は怖さを押し殺し覚悟を決めると先頭を歩き始める。

暗い洞窟の中へ。

やがて洞窟だと言うのに明かりが見えてくる、なんで明かりが…

そこには積み上げた岩で囲われた塀がありその隙間から小さな明かりが数か所から漏れていた。


「だれじゃ!」


声がする方を向くと大きな男が立っていた、頭髪は長くあごにはひげが生えどちらもほぼ真っ白、そう白髪だ。

だがその男にはそれ以上の特徴が有った、見上げるほどの身長と其の体躯。


「何をしに来た?」

「お お父さんとお母さんがここに行けと」兄

「助けて村が 村が」姉


兄弟は声を発するが私はその大きな男をぽかんと見ていた。

その大男は一瞬歯を食いしばるが、次の瞬間首を振りこう言った。


「帰れ、わしには何もできん」


だが兄弟たちは尚も食い下がる。


「父さんと母さんがそう言ったんだ、ここへ行けって」兄

「もう帰れないよ~」姉


「おじちゃんはなんでここにいるの?」ラポーチ


私は兄弟たちの言葉とは違いそんなことを考えていた、特に何も考えていなかったから出た言葉だった。

その大男は巨人族、だが彼はそれ程大きいわけではない、それでも身長が3メートル以上はあり、幼い子供たちから見れば強そうに見えた。


「なんでここにいるかだと・・」

「怖くないよ、私小さいもん」

「おいラポーチ何言ってんだ!」兄


不思議な顔をして見上げる5歳の女の子、はるか上には白いあごひげを蓄えた初老の大男の顔。

過去にこの大男は戦争で戦ったことがある。

そう戦ったことがあるのだがそれは始めだけ、その後は逃げ出したのだ。

体の大きさから巨人族は勇猛果敢だと恐れられていたが、それは一部の巨人族だけ。

実はおとなしく心優しい一族。

そんな巨人族だが時代は彼らをそっとしておくなどという事はできなかった。

何度目かの戦いの後、彼は途中で逃げ出しこの村の洞窟に住み着いた。

もちろん村の人全員が知っており農繁期には農作物の収穫の手伝いをしたりもする。

但しこの村に軍隊が来れば彼はつかまり牢屋へ入れられ、一方的な裁判の果てに斬首刑になるだろう。

今助けに出てもこの子らの父や母は帰ってこない、それにもし自分が出ていき盗賊をやっつける事が仮にできても、その後は?逆にやられでもしたら子供たちも捕まり無駄死にするだけ。

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