エピローグ

 令和五年十一月二日。

 午後四時三十分。

 火村灯子は仁からの報告を受けて安堵していた。

 仁の冤罪は晴れたらしい。おそらく、仁の力ではなく水崎の力だろう。

 自室のベットに寝転がる。

 寝転がってから、自分が制服のままであることに気付き、

「最悪……」

 灯子は潔癖症で風呂に入ってからベットに入ることにしていた。それが仁の冤罪が晴れた安堵から気が緩み、制服を着替えないままでベットに入ってしまった。ゆっくりと起き上がり、風呂場へと向かう。

 服を脱ぎシャワーを浴びる。シャワーのお湯が身体中の汚れを洗い流していく。

「………………」

 流れていくお湯を見ながら、脳裏に金子の死体を思い出していた。金子はずぶ濡れで血はほとんど雨に流されてしまっていた。つまり、金子は雨が降る一時よりも前に転落死している。靴の裏に泥が詰まっていたのも雨で泥濘んだ地面を歩いたからではなく、サッカー部が水浸しにした地面を歩いた際に詰まったものだろう。実際に金子が転落死したのは、ミイラ男姿の金子が生徒会の撮影した動画に現れた数分後。十一時半を過ぎた頃だろう。

 ただ、これは誰にも話していない。

 灯子は一時半から二時に金子が転落したと思っていると、仁と木島は思っているはずだ。そして、水崎は事実はどうであれ一時半から二時に転落死したことに異論はないはずだ。

 木島に関しては、金子が部室棟を登る直前の時間に部室の窓を開けていたのが動画に写っていたため、鉢合わせて殺してしまったか落下する原因でも作ってしまったかと思い、仮説を話す際にいてもらったが、反応を見る限り杞憂だったようだ。

 文化祭を無茶苦茶にしようとしていた金子のせいで、文化祭を成功させようとしていた水崎やただ部室にいただけの木島が不利益を被ることがないようにと、灯子は一時半から二時に金子が転落死したという仮説を立てた。もちろん仮説が正しくないことは分かっているが、仁の冤罪が晴れた以上、灯子はこれからさき窃盗事件にも転落死にも言及するつもりはない。

 全てをシャワーで洗い流し、灯子は風呂場を出た。部屋着に着替え自室へ向かう。今度こそベットに横になる。

 灯子は今後は探偵の真似事はしないことを心に誓った。

 自分は真実を解き明かせなかった。

 真実は分かったかもしれないが明かさなかった。

 灯子は静かに目を瞑った。

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久しぶりの青春 睡田止企 @suida

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