十一月二日 4

 令和五年十一月二日。

 昼休み。

 木島美空は結局なぜ自分が火村の推理ショーの場に呼ばれたのか分からなかった。

 月原は冤罪の当事者で、水崎にはその冤罪を晴らす役割が与えられた。美空だけが何の役割もないまま推理を聞いていた。

 ただ、美空は火村の推理を聞けてよかったと思っていた。

 昨日の朝、部室にいるときに何か壊れる音や落ちる音は聞かなかったかと火村に訊かれ、美空はテントが壊れる音を聞いたことだけを答えていた。しかし、火村との会話が終わった後にあることを思い出した。昨日、部室の窓を閉めた後に何かが落ちる音を聞いたような気がしたことだ。軽音部のバンド演奏が聞こえる中で小さく何かが落ちる音が聞こえたような気がしただけだったため、ずっと気のせいだと思っていた。気のせいではなくても、バンドに関係する音だと思っていた。

 美空は窓を開けた。部室内に風が舞い込む。

 顔を突き出し下を覗き込む。文芸部に入ってからの二年半で初めてのことだった。

 昨日も部室の下を見ようとしたが、昨日は出来なかった。金子の死体があった場所であることは知っていたし、そのときは、火村との会話のせいで、落下した音は聞き間違いではなく金子が落ちた音だったのではないかと思ってしまっていたからだ。

 さっきまでは、自分の聞いた音は金子が転落死したときの音なのではないかと思っていた。そして、タイミングからして自分が窓を閉めたことが、金子の転落の原因になったかもしれないと思っていた。

 もやもやした気持ちのまま火村の推理を聞いた。彼女の推理では、金子が転落したのは一時半から二時の間ではないかとのことだった。美空は文化祭当日は十二時までしか部室にいなかったため、聞いた音は金子が転落した音ではない。そのことが分かって、美空はようやく安堵できたのだ。

 自分が彼女の推理ショーに呼ばれた理由は分からないが、聞いてよかった。

 美空は窓の外に広がる青空を見ながらそう思った。

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