文化祭の後 5

 令和五年十月三十一日の夜。

 灯子の部屋。

 仁は全て話し終えた疲労感を感じながら「どう?」と灯子に訊いた。

 あまりにもザックリとした質問だということには、質問してから気が付いた。

「寝過ぎだな」

「え?」

「寝過ぎ」

 塔子はスマホの画面を何度かスクロールした。

「仁からの情報だけだと分からないけど、木島と別れた時間を仮に九時二十分だったとして、木島と別れた直後にペンキの溢れた階段が通れるようになってたとしたら、午後一時までの三時間四十分、アリバイがない訳だ」

 灯子は仁の話を聞きながら要所要所でスマホにメモを取っていた。灯子はそのメモを見ながら言った。

「階段が通れるようになったのが一時だった場合は、部室棟に閉じ込められていたってことになるけど、閉じ込められている間に誰かに姿を見られている訳でも、出てくるところを見られている訳でもない。本当は、部室棟から抜け出して盗みを働いていたんじゃないかって思われても仕方がない」

 仁は頭がくらくらしてきた。

「ちゃんと起きてて、部室棟から出れるようになったタイミングで、木島と一緒に出てれば、出れるようになるまでの間は部室棟にいたって言い張れたんだよ」

「………………」

「そして、教室に戻ってカバン持って帰れば犯人扱いされなかったし、カバンがすでになければ──まあ、それは探し回ってるのが不審で疑われてたかもしれないか」

「………………」

「疑われてたかもしれないけど! でも、体育館に行ってグラウンドに行ってっていうルートを辿ってれば、校舎にいなかったってアリバイになったかもしれないだろ」

「………………」

「……聞いてんの?」

「……聞いてる」

「………………」

「なんか頭くらくらしてきた」

 灯子がため息を吐く。

「まあ、仁の視点からの話では他に怪しい人間がいないけどさ、他にも怪しい人間がいてそいつが犯人っていう証拠が残ってる可能性もあるし、そんなに──」

 言葉をそこで区切って、灯子が手を仁の額に伸ばす。

「帰って寝ろ。熱あるぞ」

「あー、それでくらくらしてるのか」

「……送ったほうがいい?」

「大丈夫」

 心配気な灯子に見送られながら、仁は自宅へと帰った。

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