文化祭の後 4

 令和五年十月三十一日の夜。

 灯子の部屋。

「結構長いな」

 真っ暗な窓の外を見て灯子が言った。灯子は伸びをしながら、

「一旦、休憩して何か食べない?」

「そうだね。あー、そういえば、今日なにも食べてないや」

 灯子が部屋を出ていく。

「お湯沸かしてきた」

 灯子が部屋に戻ってきて言った。灯子の両親は家に帰ってくるのが遅く、灯子の夕食は自炊が多い。

 灯子はベットに寝転がって目を瞑った。灯子の家ではお湯を沸かすときに電気ケトルを使用している。そのケトルにはお湯が沸いても何か音を立てて知らせる機能はついていない。このまま眠ってしまわないか心配になる。

「灯子」

 仁の呼びかけに灯子は、自分のスマホの画面を見せるだけで返した。スマホの画面上では、タイマーが起動しており、あと約四分半後にアラームが鳴る設定になっていた。

 そういうことならと、仁も休憩することにした。

 黙って目を瞑っていると、自分がかなり疲れていることを自覚する。

 激しい雨に打たれたことによる肉体的疲労と、免罪までの流れを追体験する精神的疲労。その二つが一気に自覚される。

 一度目を開こうとするが、瞼が重すぎて開かない。

 朦朧とする意識の中でアラームの音が聞こえた。

 灯子は特に眠りに落ちていた訳ではないようで、アラームを切ってすぐにベッドから起き上がる気配がした。

「味適当でいい?」

「うん」

 灯子が部屋を出ていく気配を感じる。重い瞼をなんとか開く。

 しばらくして帰ってきた灯子の両手にはカップ麺。片方が塩で片方が醤油だった。

「タイマーつけてないから、適当に食べて」

 仁の目の前の机に醤油の方が置かれる。疲れのせいか、醤油ラーメンの匂いを嗅いでも食欲が湧いてこない。

 灯子はスマホの画面を見ている。ある程度時間が経ちカップ麺が出来ても、それを啜りながらスマホを見ていた。

 仁は、食欲が沸いていなかったが食べ始めると空腹を思い出し、一気に食べ進め、食べ終わる頃には、逆に食欲が沸いていた。

 灯子はカップ麺を食べ終わった後もしばらくスマホを見つめていたが、仁に向き直り、

「じゃあ、体育館に行ったところから何があったか聞こうか」

 仁は続きを話し始めた。

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