責務からの解放を

◇◇◇

「鴉紋ちゃん?どうしたの。」

雅は春の族の官女の民族衣装を着ている。

「シキのコンビニで売っていた桜入りのクッキー買ってきたんだ。一緒に食べよう?」

微笑む鴉紋。


◇◇◇

雅は2人分の紅茶を入れて椅子に腰かける。

2人の間にはクッキーを置かれている。


「久しぶりね。こうして鴉紋ちゃんと顔を合わせて話すのは」

雅が感慨深そうな顔をする。

「そうだね。僕が王族にいた時以来だから」

鴉紋は眉をさげる。


あの頃は兄さんや雅ちゃん、紅葉さんと一緒によく遊んでた。

「鴉紋ちゃん」

気遣うような視線を向ける。


「雅ちゃん僕が言えた義理じゃないけど、夏の族に戻る気はない?」

彼女は自分の意思を変えないと思ってる。

だけど、問わずにはいられなかった。


「私は自分の意思で夏の族を出たの。戻る訳にはいかないわ」

凜として話す雅。

「そう..だよね。雅ちゃん食べようか」

鴉紋は話を変えるようにクッキーを手に取る。

「ええ」


その時、食べたクッキーは甘くて紅茶とよくあっていたのを覚えてる。


春の族が夏の姫を見つけてから、2日目の出来事だった。


紅茶を飲み終わりクッキーを食べ終わったタイミングで、鴉紋は席を立つ。


「じゃあ、また。雅ちゃん。誰か来ると危険だから。部屋に結界を張っておくね?」

ニコッと微笑んだ。

「鴉紋ちゃんクッキーありがとう」

雅がお礼を言ってから、鴉紋はドアを閉めた。


(結界。私を外に出さない為の策だろう)

結んでいたリボンをほどく。

優しさに触れて迷いそうになる。


雅は瞼を閉じるとあの日の出来事を昨日のように思い出す。

血に染まったキサラ。倒れる姉を思い出す。

胸をぎゅっとつかむ。



「あの時、私は決めたのよ。四季族の王の責務からキサラを皆を解放するってー...」




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