春の章③秋の王との駆け引き

夏の王。雅

通称夏の姫。8年前より突如出奔。

王族会議、夏の王を除く四季族の王が一同に返す。それぞれ臣下を伴っている。

「いつになったら夏の姫が見つかるんでしょうね。紫音」

冬の王。雪(せつ)が嫌みめいた口調で言葉にする。

「いつになったら?寿命が長い四季族にとって、たかが、8年は当てはまらないのではないかな。冬の王」

僕の返しに雪は眉間に皺を寄せる。

「紫音さん、本当に春の族は雅の所在地を知りませんか?」

盲目の青年。炎のように赤い髪をしている。

秋の王の紅葉は静かにつげる。

「どうしてそんなことを聞くんだい?紅君」


「俺ら秋の族は癒しや生命を司る春の族や夏の族と違って、空気や匂いに敏感なんですよ」

「っ...!」

にやりと笑う紅葉

「紫音さんから微かに夏の匂いがしましたよ?」

王のキサラ。冬の王の雪。秋の王の秋葉

この場にいる者達が春の王に視線を集める。

(紫音様...)

タラは冷や汗をたらす。

すると大丈夫というような顔でタラを見つめる紫音。

この場の空気を沈黙させるような威圧感のある声を出す。

「気のせいだよ。秋の王。さあ会議を始めよう」

「そうだね。紫音さん」

ひとまずは秋の王は矛を納められたか。タラはホッと胸を撫でおろした。


冬の王。雪が続ける。

「夏の姫には一刻も早く戻ってもらわねばならない。我々の計画は動きだしているのだからー...」


◇◇◇

春の族

鴉紋の部屋。

椅子に腰かける雅に、シキはココアを出す。

「ココアだ」

雅はココアを口に含む。

「美味しいわ。シキ」

疲労してる心身を癒してくれる甘くほっとする味だ。

部屋の中には鴉紋や衛兵が一人

「今、俺はコンビニを営業してんだ」

「コンビニ?」

雅がシキの自信満々な顔にキョトンとしている。

鴉紋がそれに続いた。

「今までは市場に行かなければ、買えなかったものが小売り店で販売されるようにしたんだ。シキが考えたんだよ」

鴉紋がニコニコと笑っている。


(いや、俺じゃない。正確に言えば、俺の前世の日本ではなく、コンビニエンスストアはアメリカ合衆国発祥の業務形態である。)

シキは心の中で突っ込んだ。


「素敵なことね。そういうお店が春の族以外にも出来たら、身分の格差なく暮らせるようになるわ」

優しく微笑む雅。


「まあ、まだ人数足りなくて24時間営業は出来ねえがな」

シキは雅の牢の衛兵と目があった。

「お前名前は?」

リョク

ぽんと閃いたように手をたたく。


「鴉紋、俺は決めたぞ。緑を桜マートの店員として雇う!」

「ええ!何で俺が?」

驚く緑

彼は若々しい緑の髪と瞳をしていたね

牢の衛兵には戻れねえだろう?」

「そうね。あなたは仕事ぶりは良かったわ。シキの誘いを受けましょう」

微笑む雅に鴉紋は相槌をうつ。

「そうだね。桜マートは人手不足だか

ら」

室内に自ずと笑い声が響く。

雅はそういう性格なんだ。自ずと周囲を笑顔にする。

緑が雅にからかわれてるのを見ているシキ。

鴉紋が窓を覗いて、何かに気がつくような顔をした。

「どうした。鴉紋?」

「ううん。何でもないよ。シキ」



◇◇◇

王族会議が終わり紅葉は自分の一族に戻る。

秋の族。紅葉の執務室。

椅子に腰かけて水晶を見つめた。

水晶にはシキや鴉紋の側にいる女性


ニヤリと笑う紅葉

「夏の姫、見つけた」

その瞬間、水晶がパリンと割れた。

「!!」


こんな芸当が出来るのは、あの場では1人しかいない。

「流石、キサラの弟だけあるな」

紅葉は楽しげに笑う。

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