春の章②癒し
春の王。紫音は数年前に禁忌を犯していた。
四季族は他族との間に子をもうけてはならぬ。
その子どもは赤い瞳を持って四季族に災いをもたらす。
紫音は数年前の苦い思い出が胸をよぎり、唇を噛み締めていた。
春の王の執務室
そこにいたのはシキ、鴉紋とタラ、雅の捕まっていた牢の兵士。
春の王である紫音、夏の王である雅。
合計6人である。
重苦しい雰囲気を打ち破ったのは鴉紋である。
「雅ちゃん、春の族の衣装がとても鮮やかで似合うよ。」
ピンクの布をモチーフにした民族衣装を着ている雅。
彼女はふふと笑う。
「ありがとう。鴉紋ちゃん」
シキは話を切り出した。
「で?お前は何で牢にいたんだ。8年前に夏の族を捨ててまでやりたかったことは何だよ」
つっけんどんに話してしまうシキを紫音が制止した。
「まあ、そのことは夏の姫には後々話してもらおう。シキ。今はこの状況をどうするかを考えないと」
「四季族の王が出奔は本来なら王の権利を剥奪されるほどの重罪...しかし、現在の夏の王はキサラ様の指示で空位にされている。今は戻るしか道はありません。夏の姫」
キサラの指示という言葉に雅も鴉紋も瞳を揺らした。
紫音とタラの説得に雅は首を横に振る。
鴉紋が我慢ならずに声をかけた。
「春の族にいたってことでしょう?雅ちゃん」
「.....」
押し黙る雅。
紫音はため息をついた。
「僕はこれから王族会議がある。シキと鴉紋は夏の姫の護衛を頼むよ。」
紫音の指示にシキも鴉紋も頷く。
「任せろ」
「分かったよ。父さん」
紫音は雅に話しかける。
「何日でもいていいと言いたいところだけど、僕が他族や王族から庇えるのは5日が限界だ。それまでには答えを決めて欲しい。夏の姫」
「はい...」
瞳に光が宿る雅。
タラと共に出ていこうとする紫音の背中に、雅が声をかける。
「貴方には昔から迷惑ばかりかけますね。紫音さん」
雅に呼び掛けられて瞼を閉じる紫音...
紫音の脳裏には、子どもの頃から雅の姉の日向と一緒に遊んだ日々を思い出していた。
「僕はどこにいても君の無事を祈るよ。夏の姫」
紫音はタラと一緒に部屋を出て、執務室の扉がバタンと閉じられた。
◇◇◇
王族の塔に向かう紫音の後ろを歩く二人。
紫音様が春の王に即位する前、私は他族間の戦闘で深手を負っていた。
当時は濃紺の拳法服を身にまとっていて、現在
はスキンヘッドだが当時は長髪を三つ編みに束ねていた。
春の族の救護室に負傷兵が寝かされていた。
その者たちを春の族の持つ癒しの力で懸命に治療に励む青年こそ、現在の春の族の王。紫音である。
霞む目でタラは自分の身体を治癒しようとする紫音に尋ねる。
「何故...私を助け...る?私は四季族の罪人として家の者だ」
紫音はタラの問いかけに、目をキョトンとさせた。
『人の命に重いも軽いもない。皆、平等なんだ!』
その言葉に私は感銘を受けた。
心にストンと響いて、貴方の臣下になると決めたのでございます。
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