君と出逢った日(5)
————ンミャァ
野良猫にしては毛艶の良い、膨よかな体の四匹の猫が口を揃えて鳴いた。
一番ほっそりとした猫に日向が手を伸ばす。
猫はその手を避けて修治の後ろに隠れる。そして大きく喉を鳴らしながら、額や鼻先を修治の脛にすりつける。
大地の色をした体。頭部から背骨に沿って尾の先まで伸びる黒い筋。目の縁取りや口周りは白く、首の下から胸、腹部、足の内側にかけて広がる淡黄。だいたい四色からなる毛並み。
体は細いのに、口いっぱいに食料を詰め込んだリスのように頬の張った丸顔。これは彼がこの一家の父親を示すもの。
家族にすらほとんど懐いていない人見知りの名を、修治は呼ぶ。
「リン?」
リンが懐いているのとは反対の足を、ツン、と湿った鼻先でつつくのは、他の三匹と同種でありながら唯一、キャラメルのように薄い色をしている紅一点。
彼女は、人間たちを横目に背筋を伸ばし座っていた。リンが絡んで来ると表情を一変させ、シャアっと唸って追い払い、修治が屈んで伸ばした手には大人しく頬をすり寄せる。
「アリス、だよな」
修治が屈んで丸めた背の上に、トン、と何かが飛び乗る。
驚いて修治が背を伸ばすと、それは背中に爪を立ててよじ登り、肩の上にしがみついた。喉を鳴らす音が大きく聞こえる。
四匹の中で一番大きく、
「シャオリン、痛っ」
肩幅が足りないせいか、シャオリンは修治の頭を支えに肩の上で立ち上がり姿勢を安定させる。
爪が頭皮に食い込んで修治は思わず声を上げた。顔の左側に当たる密集した柔らかな毛の感触。頭と肩にかかるずっしりとした重みと温もり、安らぐ匂いに修治は唇を噛み締める。
——ミャァオン
足元で鳴いたのは、一番小柄な末っ子。成猫だというのに仔猫の頃から変わらない顔つきで、家族以外にも喉を鳴らす人懐っこい甘えん坊。
今も修治に全身で擦り寄りながら、興味津々と周りの人間を見回して、その場をぐるぐると歩き回っている。
「クク」
耳をピンと立て、ククは修治を見上げた。
シャオリンを地面に降ろし、並んだ四匹の猫は修治の足元にぴたりと寄り添う。
「わわわ、かわいいっ」
しゃがみ込んだ日向は手を伸ばし、「おいでおいで」と指を動かして招く。
ククがそれに反応して日向に近づいた。目を細め、手のひらに頭を擦り付ける。
日向の後ろに立って見ていた夢原も、うずうずと体を揺らして日向の隣にしゃがみ、一緒にククを撫でる。
甘えん坊は尻尾を真っ直ぐ上に伸ばして、その愛嬌を惜しみなく少女たちに振り撒いた。
それを呆然と眺める修治。
なんで、
「こいつら、松原の飼い猫なのか?」
古河の問いかけに修治は頷いた。
一匹であれば猫違いの可能性もあった。しかし、四匹揃ってとなると、間違うなど絶対にありえない。外見も性格も、修治のよく知るそれだった。
「放し飼いにしてんのか」
「いや……うちは完全室内飼いだ」
「脱走か?」
その問いかけに修治は黙する。
家から出たことがない猫たちが、自宅からかなり離れたこの場所まで来れるものだろうか。
膝に爪を立てて掴まり立ちして、せがむように鳴くリンを抱き上げる。ごろごろと喉を鳴らし、頭を力一杯頬に押し付けてくるリンを撫でていると、ここにいる理由なんてどうでもよくなった。
自覚するほど頬が緩んだとき、常ノ梅が慈愛に満ちた顔で見ていることに気づいた。恥ずかしくなって修治はリンを降ろす。足りないと抗議するように鳴くのを、頭を撫でて宥めた。
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