第17話 気づいたところで
「はぁー疲れた」
漸く変なテンションが落ち着いたベガは砂浜に膝を抱えて座る。
そのまま座んのかよ。
いや、敷くものはないんだけどさ。
全部海に捨てちゃったし。
海の神様すみません。
神様なんて信じてないんですが。
「……あれ?」
ふとベガの足を見ると、靴を履いていない。
「なあ、靴は」
「あれ? さっきまで手に持ってたんだけど……ちょっと探してくるね!」
彼女はゴミを拾った場所に向かって走って行ってしまった。
前言撤回。
変なテンションは落ち着いていませんでした。
彼女が鈍足を発揮しながら頑張って走っているのを見ていたら、紫苑の姿が重なった。
「チッ」
頭を振って彼女を思考から追い出そうとする。
でも、振れば振るほど彼女の笑顔が脳内に広がっていく。
「ムカつく」
呟いたところで状況は変わらない。
最後に見た紫苑の姿。
「……ん?」
アイツ、なんでベガをあの部屋に連れ込んだんだ?
なんでハサミだけが机の上に置いてあったんだ?
どうしてベガを煽るような発言をしたんだ?
次々と疑問が湧き、ある可能性に思い至ってしまった。
「まさか、最初から事件を起こすつもりだったんじゃ……」
そうとしか考えられない。
ライブの感想はみんなのいるところで話せる。
なにもない机の上に、ハサミだけが置いてあったのは、紫苑が用意したから。
煽ったのは、自分に危害を加えるように仕向けるため。
「で、なにがしたかったか」
悲劇のヒロインになりたかったのか?
10歳がそんなことを考えるか?
わからない。
今となってはもう、真相は闇の中。
生きていれば理由を聞けるかもしれないが、自分に都合のいいように噓八百を並べるに決まってる。
全てはもう手遅れだ。
「アルタイルっ」
「おー。靴合ったのか」
「うん、ゴミのところに」
片手に持った靴を履こうとはせず、ベガはボクの隣に座り、肩をくっつける。
まぁ、足はもう砂まみれになってるからな。
履いたところで不愉快になるだけ。
彼女の足に目を向けていたボクに、
「ねぇ、アルタイル」
「うん?」
視線を上げると、ベガはボクを真っすぐ見ていた。
「もう、ステージに立たなくていいんだね」
「……そうだよ。ボクたちはもう、お人形じゃない」
人を殺すことは、誰がなんと言おうといけないことだってことはわかってる。
さっさと警察に行かなきゃいけないことも。
でもさ、少しぐらいは二人だけの幸せを噛みしめる時間があったっていいじゃないか。
ボクの言葉に頷いた彼女は静かに空へと視線を移した。
「綺麗だな」
「うん」
見上げた夜空には、泣きそうなくらいに綺麗な星が輝いていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます