第5章 Run away

第15話 どこへ行こうか

 ライブが終わってさほど時間が経っていないというのもあって、駅にはMiLKY WaYミルキーウェイのファンがちらほらいた。


 キョロキョロ辺りを見回すベガ。


 おい、挙動不審だぞ。


「ぐうぇっ」


「キョロキョロしないで」


 ベガに帽子を更に目深に被らせ、自重するように言う。


「ごめん」


「うん」


 人が多いなあ。


 身を寄せ顔を伏せ、


「どこに行きたい?」


 と聞いた。


 呑気だな、と自分でも思うけど、ずーっと深刻な調子でいるのはしんどい。


 無理矢理テンションを上げるのも無理だけど。


 人刺してきちゃったんだし。


 ボクたちは立派な犯罪者だ。


 紫苑が生きていれば罪は多少軽くなるかもしれないが……。


 どうなるかはわからない。


 確実なのは、不自由になるってこと。


 監視カメラに映りまくっているであろうから、多分すぐに捕まる。


 それまではベガに自由を味わってほしかった。


 自分勝手な願いだってのはわかってる。


 それでも。


「海」


「え?」


 彼女の言葉は雑踏に紛れて聞き取れなかった。


「海に行きたい」


 今度は聞き取れた。


「海かあ」


「ダメ?」


 自分たちがおかれた状況を理解しているのかしていないのか、首を傾げたベガ。


 可愛いよ。可愛いけどね、あのね、我々逃亡中なんですよ。


 無事に海に辿り着ける保障はないわけですよ。


「まぁ、なんとかなるか」


 どこへ行こうと終着点は地獄だ。


「んじゃあ東京駅まで戻ろっか」


「うん!」


 元気に返事をし、今度は彼女に手を引かれて切符を買う列に並ぶ。


 まるで遠足に行くみたいに楽し気な彼女を見ながら、冷静にルートを考える。


 こっから東京駅に戻って、乗り換えて。


 大体1時間ぐらいで海に着けるか。


 無事に彼女が望む場所へ辿り着けますように。


 そう祈りながら、ボクは財布を開いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る