第14話 隠密行動
ひとけのない廊下から楽屋付近に戻れば、スタッフさんが沢山いた。
「あっ、アルタイルさ――」
声をかけられても、微笑んで無視。
怪しまれないように早足で楽屋に入り、鍵を閉めた。
うん、滅茶苦茶怪しかったと思う。
仕方ないじゃん。
どうしようもないじゃん。
心の中で言い訳をしながら、私服に着替え、自分の荷物とベガの荷物を持つ。
焦って鞄の中身を床にぶちまけたけど、なんとか撤収作業完了。
「よしっ」
息を整え、鍵を開けて楽屋から少し顔を出す。
スタッフさんたちは忙しそうに廊下を行ったり来たり。
「誰も見てないな」
出るなら今しかない。
チャンスを逃さず、楽屋から飛び出した。
スタッフさんの視線を感じたけどダッシュ。
もう怪しさ満載だけど、気にしない。
気にしていられない。
一刻も早くベガの元に戻らないと。
その一心であの部屋に辿り着いた。
「しんど」
ライブ直後にこんな体力が残っていたことに、我ながら驚き。
息を整える間もなく、
「ベガ」
コンコンコン、とノックをする。
「ベガ、ボクだよ」
数秒後少しだけドアが開けられ、カラダを滑り込ませる。
青白い顔をしたベガ。
「誰か来た?」
「……ううん、誰も来なかった」
力なく首を振る。
「わかった」
普段から持ち歩いているウェットティッシュで彼女の手を拭き、
「着替えて」
鞄から彼女の私服を取り出し、押しつける。
ゆっくりと着替えるベガに、
「急いで」
力が入らないんだろうけど。
急かしながら、ハサミを鞄に突っ込む。
数分かけて着替え終わった彼女の衣装や血まみれのウェットティッシュも鞄に入れる。
「血は……ついてないね」
黙って頷いた彼女の手を引き、ドアを少し開け、隙間から様子を伺う。
注意をこちらに向けている人は誰もいなかった。
「行くよ」
何人ものスタッフさんとすれ違い、その度に無言で微笑む。
怪しさ満点。
今頃マネが探し回ってるはず。
静姉も。
「はぁ」
なんとか、誰にも引き留められることなく裏口に到着。
「ベガ」
「……うん?」
手をぎゅっと握り、
「スマホの電源切って。GPSで位置が特定されるかもしれないから」
因みに、ボクのはとっくに切ってある。
ベガが着替えている間に。
ただ最後に、【応援してくれたのに、裏切ることになってしまいました。ごめんなさい。どうかお元気で】と静姉にメッセージを送った。
今まで散々迷惑をかけ、忠告をしてくれていた彼女になにも言わずに姿を消すのは、できなかった。
「わかった」
素直にスマホを取り出したベガに話し続ける。
「これから、××駅に行くから」
「それからは?」
「わかんねえよ。取り敢えず、今すぐ行こう。あっ」
鞄の中から帽子を取り出し、
「これ被って。目深にな」
「うん」
ボクもお気に入りの黒い帽子を被り、最寄りの駅へと向かった。
こんなこと初めてだから、なにが正解なのかなんてわからない。
だた、ベガを守らないと。
使命感がボクの足を進ませ、ボクらの姿は人込みに紛れたのだった。
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