第13話 覚悟

「アルタイル……アルタイル……アルタイル……」


 目も鼻も真っ赤にしてボクの名前を呼び続けるベガ。


 なぁ、なんでホイホイついて行ったんだよ。


 別にみんなのいるところで話してよかっただろ。


 ツッコミどころが多すぎる。


 と思ったけど口は挟まなかった。


 茶化しもしなかった。


 そんな気分にはなれなかった。


 絶句して声を出せないボクの両肩を掴み、


「私だけを見ていてくれていたらよかったのに」


 ベガは泣き崩れた。


 彼女の姿を見ていたら、静姉の言葉を思い出した。


「紫苑ちゃんや貴方に危害が及ぶかもしれない。それでも貴女はベガを支え続けられる? その覚悟はある?」


 静姉。あの日は答えられなかったけど、今なら断言できるよ。


 ボクはベガのことを丸ごと信じる。


 支えて見せる。


 覚悟を決めたボクは、紫苑の顔の横に膝をつき、口元に顔を近づける。


「息、している」


 ヒュッとベガが息を呑んだ音がした。


 この子が生きていることが怖いのなら。


「ベガ、それ貸して」


「え?」


 半ば強引にハサミを奪い、


「アルタイル!」


 紫苑の腹部に突き立て、ゆっくりと引き抜いた。


「どうして……」


 驚き過ぎて泣き止んだらしい。


 ベガは目を見開いてボクを見つめてくる。


「ベガだけを犯罪者にするわけにはいかないでしょ」


 一蓮托生。


「ボクたちは永遠に一緒だから」


 そう言って微笑んだボクに、ベガは微笑み返してくれた。


 血みどろの空間に流れる穏やかな空気。


「なあベガ、これからどうしたい?」


 いつまでも浸っていたいけれど、そうもいかない。


「アルタイルと一緒にいたい」


 このままここにいれば捕まる。


 捕まれば、ボクたちは離れ離れだ。


「わかった。それなら、逃げよう」


 表情を引き締め、首にかけていたタオルで手についた血を拭う。


「鍵を閉めて、誰が来ても開けないで」


「えっ。一人にしないで」


 再び泣き出したベガには申し訳ないけど、


「流石に、血まみれのベガを誰にも見られずに楽屋に連れていけないよ。荷物取って来るから」


 ドアを少し開けて廊下に誰もいないことを確認してから、ボクは楽屋に向かって走り出した。

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